高校の特別支援教育の現場から見る「幼少期からの支援の重要性」~東京都立高校教員・廣田先生インタビュー~

2025年09月11日

2-活動報告

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今回は、当協会の「児童発達支援士」資格を取得された、東京都立高校教員の廣田先生にお話を伺いました。廣田先生は、通常級の担任を務めながら「特別支援教育コーディネーター」として、通級指導担当教員や教員研修、特別支援学校の先生方との連携など、校内の支援体制の中核を担っておられます。

小学校における発達支援については耳にする機会が増えましたが、高校の現状を知る機会はまだ少ないかもしれません。そこで今回、思春期の生徒たちと日々向き合う支援のプロフェッショナルである廣田先生に、高等学校における発達支援の現状と、そこから見えてくる幼少期支援の重要性についてお話を伺いました。

廣田先生について

現在28歳の廣田先生は、大学卒業後、東京都の高等学校教員としてキャリアをスタートされました。現在の学校に赴任された際、発達に特性のある生徒さんとの関わりに難しさを感じた経験から、専門知識を深めることを決意。当協会の「児童発達支援士」をはじめ、最終的には4つすべての資格を取得されました。その学びと実践が認められ、現在の学校で特別支援教育コーディネーターに任命され、通級指導を担当するに至ったそうです。

「特別支援教育コーディ―ネーター」とは?

「特別支援教育コーディネーター」は、原則としてすべての高等学校に配置が定められています。特別な資格試験があるわけではなく、発達や障害に関する知識や関心のある先生が学校から任命される仕組みです。そのため、学校によっては形式的な配置に留まり、支援体制にばらつきがあるのが現状だと廣田先生は語ります。

その中で、廣田先生の学校は支援体制が非常に充実しており、東京都教職員研修センターや東京都学校経営支援センターから講演を依頼されるなど、先進的な取り組みをされています。

>>文部科学省-特別支援教育について

高校の「通級指導」とは?

「通級」というと小学校のイメージが強いかもしれませんが、中学校や高等学校にも設置されています。高等学校での通級による指導は比較的新しい取り組みのため、まだ認知度は低いかもしれませんが、生徒たちにとって重要な学びの場です。

その内容は、SST(ソーシャルスキルトレーニング)や学習の補助など、小中学校の通級指導と共通する部分も多くあります。もちろん、内容は高校生の年代や成長段階に合わせたものに調整されています。

しかし、新しい制度であるがゆえに高校生向けの教材が不足しており、廣田先生の学校では先生方が手作りで教材を準備されているそうです。こういった点も普及が遅れる原因の一つなのかもしれません。私たち協会も、今後の教材開発の参考にさせていただきます。

幼少期に行う療育の重要性について

通級クラスを担当する廣田先生は「幼少期に療育を行うことは非常に大切」だと感じているということでした。発達障害は脳の障害であるため、すべての特性をなくすことは難しいでしょう。しかし、幼少期から適切なケアをしてきた子は「自己理解」が進んでいること、「他者との関わり合い」を学んでいることから学校での困難やトラブルが少ない傾向だということです。

一方、適切な支援経験がないまま高校生になった生徒さんは、自身の特性への対処法がわからず、トラブルに直面することも少なくないため、学校から医療や福祉サービスへ繋ぐサポートも行っているとのことでした。

「早期療育は必要ない」という声も聞かれますが、日々多くの高校生と向き合う先生の言葉は、今、療育に励む保護者の皆様や子どもたちにとって、大きな励みになるのではないでしょうか。

「ADHDは年齢と共に落ち着く」は本当?

支援に関わる中で、「ADHDの特性は、年齢と共に落ち着く」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。廣田先生も、その傾向は実感としてあると語ります。しかし一方で「高校生になってもADHDの特性が強くみられる生徒」には次のような背景があるといいます。

  • ・もともとADHDの特性が非常に強い

  • ・幼少期に適切なケアがされておらず、自己理解が進んでいない

  • ・継続していた服薬を、高校進学などを機に中止し、再開できずにいる

つまり、「年齢と共に落ち着く」というのは、自然にそうなるのではなく、それまでの適切な関わりの積み重ねがあってこそ、と言えるのかもしれません。

服薬に関しては、「眠気」や「食欲減退」等の副作用があることから、症状が落ち着いたら服薬を中止して様子を見ることがあるでしょう。しかし服薬をやめると、症状が再度顕在化することもあります。こうなることを想定し、事前に服薬を再開する可能性があることを伝えておくことが大切です。

廣田先生も仰っていましたが、一度服薬をやめてしまうと、再開するときに子どもからの抵抗にあうケースがよくあると言います。思春期という多感な時期だけに、一度やめた薬を再開するには、本人もご家族もより多くのエネルギーが必要になります。そのため、服薬を中断する際には、事前に再開の可能性もあることを伝えることが重要です。

>>静岡市教育委員会 特別支援教育センターへの訪問報告(注意欠如多動症児への投薬に関する調査報告書の提供)

特性ごとのトラブル種別について

自閉スペクトラム症の生徒とADHDの生徒で、トラブルの内容に傾向はあるか確認しました。すると下記の回答をいただきました。

  • 【自閉スペクトラム症】
    こだわりの強さが、友人関係のトラブルに繋がることがあります。また、感情的になった際に自分の状況を言葉でうまく説明できず、トラブル後の話し合いでさらに心理的なストレスを抱えてしまうケースが見られます

  • 【注意欠如多動症(ADHD)】
    特に衝動性の強い生徒さんは、金銭感覚に課題を抱えがちです。家族のお金を黙って持ち出したり、友人間の貸し借りが大きなトラブルに発展したりするケースがあり、金額が大きくなる高校生では特に注意が必要です

ADHD児のこうしたトラブルに対しては、衝動性をコントロールする訓練や、お金の貸し借りといった具体的なテーマでSSTを行い、社会のルールを繰り返し学んでいくことが有効です。

インタビューを終えて

今回は高等学校で特別支援教育コーディネーターとして活躍されている廣田先生にインタビューをさせて頂きました。高校生活という、自立に向けた大切な時期を支える先生の視点から、改めて幼少期からの支援の重要性を学ぶことができました。廣田先生、お忙しい中、本当にありがとうございました。

この記事が、今まさに子育てに奮闘されている保護者の皆様にとって、少し先の未来を見通すヒントになれば幸いです。


今後も当協会では、様々な支援のプロフェッショナルにインタビューを行い、皆様に有益な情報をお届けしてまいります。「私にインタビューしてほしい!」という方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせください。

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