「同じ立場の人は、どうしているんだろう」——検索して出てくるのは、専門家が書いた一般論であることが多いと思います。
知りたいのは、もう少し手前のことかもしれません。実際に同じ状況にいた人が、何をして、何をやめたのか。
この記事は、そこからできています。「同じ立場の方にアドバイスするとしたら、何を伝えたいですか?」——この設問に、36人全員が答えていました。
当協会に寄せられたカサンドラ症候群に関する記録36件の、自由記述です。書かれた内容を分けていくと、上位2つがまったく同じ件数で並びました。「相手と距離を取る」と「一人で抱えない」です。
この記事では、次のことが分かります。
- 36人のアドバイスを分類すると、何が多かったのか
- 「距離を取る」は、離婚のことではありませんでした
- 36件のうち2件は、アドバイスを書けなかったこと
- 抜け出せたと書いた方が、どういう順番で動いていたか
>カサンドラ症候群の対処法|距離を置くのは、あきらめではありません
36人のアドバイスを書かれた内容で分けました

自由記述なので、1件のなかに複数のことが書かれています。そのため、1件を複数の分類に数えています。合計は36にはなりません。
| 書かれていた内容 | 件数 |
|---|---|
| 相手と距離を取る・離れる | 11 |
| 一人で抱えない・誰かに話す | 11 |
| 相手は変わらない、という前提に立つ | 9 |
| 自分を大切にする・休む時間を作る | 8 |
| 自分を責めない | 6 |
| 発達障害やカサンドラについて知る・調べる | 5 |
| 伝え方を変える・ルールを決める | 5 |
| アドバイスを書けなかった | 2 |
この並び方に、特徴があります。上位5つのうち4つが、相手ではなく自分についての内容です。「相手をこう変えるとよい」というアドバイスは、ほとんど書かれていませんでした。
一方で、いちばん下に2件あります。これについては、記事の後半でそのまま扱います。
体験談は、個人が特定されないよう一部の表現をぼかしています。内容は変えていません。
最多の「距離を取る」は離婚のことではありません
「距離を取る・離れる」と聞くと、別居や離婚を思い浮かべるかもしれません。ただ、11件の中身を読むと、そこまでの話ばかりではありませんでした。
まずは相手と適切な距離を取り、自分の体調や心の変化など客観視できるところまで下がった。相手だけでなく自分の特性もしっかり勉強していくうちに対処法が見つかり、そこから徐々にカサンドラから抜け出せた。まずは相手のことも自分のことも知る事だと実感しました。
配偶者との関係についての回答です。「客観視できるところまで下がった」——これが、ここで言う距離です。家を出たとは書かれていません。相手との間に、自分の状態を見られるだけの幅を作った、ということです。
なぜ幅が要るのか。近すぎると、自分の不調に気づけないからです。毎日相手の機嫌に合わせていると、頭痛や不眠が「そういうもの」になってしまい、いつから続いているのかも分からなくなります。
相手が配偶者ではない場合も、同じことが書かれていました。
少し離れたとこから眺め、見守るような対応関わるときは、2人以上で対応が望ましいです。
親・きょうだい・職場の同僚に特性がある方の回答です。「2人以上で対応」は、離れられない相手に対して距離を作る方法です。一対一をやめると、自分ひとりが受け止める量が減ります。
記録を読むかぎり、距離の取り方には段階がありました。
- 反応を減らす——返事の量や表情を、意識して薄くする
- 接点の時間を区切る——一日のうち、話をしない時間帯を決める
- 一対一をやめる——第三者や家族を挟んで対応する
- 物理的に離れる——別の部屋、別居、そのあとの選択
上の3つは、生活の形を変えずにできます。いちばん下から始める必要はありません。そして上から順に試すこと自体が、自分の状態を測る材料になります。
同じ数だけ挙がったのが「一人で抱えない」でした
もう一方の11件は、人とつながることについてです。ここで書かれていたのは「友人に愚痴を言う」ではなく、もう少し具体的な相手でした。
自助会への参加。パートナーに依存症が疑われる場合は(相手が「考えすぎだ」と言っても)、専門病院の家族相談などに繋がる。あなたが悪いわけではありません
配偶者との関係についての回答です。挙がっているのは、自助会と、医療機関の家族相談です。どちらも、本人が来なくても家族だけで使える場所です。
この「本人が来なくてもよい」という点が、実際には大きいところです。相手に診断がない場合、受診を勧めても断られることがあります。そこで止まってしまう方が多いのですが、相談は、相手の同意を待たずに始められます。
時間をかけたら何とか変わると思わない。第三者を交えたり、専門の人にアドバイスをもらうのも吉だと思う様にする。
配偶者と子どもの両方に特性がある方の回答です。この方は、地域の学校に配置されているスクールソーシャルワーカーに相談したとも書いています。子どものことで会う人が、そのまま相談先になっています。
公的な窓口としては、お住まいの地域の精神保健福祉センターが、心の健康全般の相談を無料で受け付けています。家族からの相談も対象です。働いている方は、厚生労働省「こころの耳」の電話・SNS・メール相談が使えます。いずれもこの記事の最後にリンクを掲載しています。
>カサンドラを誰にも言えないとき|相手を知らない人を選んでください
3番目は「相手は変わらない」を前提に置くことでした
9件に共通していたのが、この前提です。冷たい結論に見えるかもしれませんが、書かれ方は少し違いました。
これは脳の特性で、いくら言っても相手は変わらないので、早めに諦めて、ご自身を優先するようにしてください。
職場の部下に特性がある方の回答です。「諦めて」のあとに「ご自身を優先するように」が続いています。諦めること自体が目的ではなく、自分の側に手を戻すための順番として書かれています。
相手に対して期待はしないほうが良いと思います。共感してもらいたい、大切にしてもらいたいと思っても、疲弊するだけです。まずはご自身のことを大切になさってください。
配偶者・子ども・親・きょうだいと、複数の相手について書かれた回答です。ここでも同じ形です。期待をやめる → 自分を大切にする、という順番になっています。
別の方は、「相手が変わるという期待は捨てて、どうやって自分を適応させるかを考えていきましょう」と書いていました。
期待をやめることと、相手を嫌いになることは別です。記録のなかで「相手を憎まず」と書いた方もいました。関係を続けるかどうかとも、直接はつながっていません。やめているのは「話せば分かってもらえるはずだ」という見込みのほうです。
この見込みがある間は、同じ説明を何度も繰り返すことになります。そのたびに伝わらず、そのたびに消耗します。消耗の量を決めているのは、相手の言動ではなく、こちらが持っている見込みのほうです。
36件のうち2件はアドバイスを書けませんでした
設問は「同じ立場の方にアドバイスするとしたら、何を伝えたいですか?」です。ここに、アドバイスではない答えが2件ありました。
すみません。私がアドバイスほしいです。
配偶者と子どもの両方に特性がある方の回答です。冒頭が「すみません」から始まっています。答えられないことを、謝っています。
みなさんどうしているのか知りたい。私が正解かわからなくて困っています。
配偶者との関係についての回答です。この方は続けて、医師から「家を出る以外に方法はない」と説明されたと書いています。これは一人の方が受けた説明であり、医学的な一般論ではありません。ただ、そう言われた側がどうなるかは分かります。助言をもらったのに、動けない。
この2件を、集計から外すこともできました。外していません。アドバイスを書ける段階にいない人が、36人中2人いる。それがこのデータの一部だからです。
そして、この2件には共通点があります。どちらも「他の人がどうしているか知りたい」という向きになっています。助言を出す側ではなく、受け取る側にいます。
もし今、あなたがこちら側だとしても、それは遅れているということではありません。アドバイスを書いた方も、書けるようになるまでに時間が経っています。先に動かなければならないのは、助言を出せるようになることではなく、消耗を止めることのほうです。
眠れない日が続いている、消えてしまいたいという気持ちがあるといった場合は、下記にご連絡ください。
- お住まいの地域の精神保健福祉センター(心の健康全般。家族からの相談も無料)
- 厚生労働省「こころの耳」(働く方向け。電話・SNS・メール)
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」(夜間・休日も含む相談窓口の一覧)
「自分を責めない」と書いた方が6人いました
件数としては5番目ですが、書かれ方がはっきりしていました。
なんでわかってもらえない?なんで同じこと失敗する?と思っても自分に責任を感じないで。
配偶者との関係についての回答です。伝わらなかったことを、自分の説明が下手だからだと考えてしまう。これは、この状態でとても起きやすいことです。
まずは発達障害とカサンドラ症候群に関して、勉強することを勧めます。もし、その方が自分を責めていたり、周りに理解されず孤独を感じていたら、それを手放すことをお伝えしたいです。
配偶者との関係についての回答です。ここでは「知ること」と「自分を責めるのをやめること」が、ひとつながりで書かれています。順番があります。知らないうちは、原因を自分に置くしかないからです。
実際、「相手に特性があると分かってから楽になった」という主旨の記述は、複数ありました。相手の状態が変わったわけではありません。変わったのは、出来事の説明のしかたです。
そのうえで、休むことについても書かれていました。
一生懸命になり過ぎない 考え過ぎない自分を大切にする 自分だけの1人時間を作る
配偶者との関係についての回答です。「自分だけの1人時間」は、距離を取ることと重なっています。最多の「相手と距離を取る」と、4番目の「自分を大切にする・休む時間を作る」は、分類としては別ですが、実際には同じ行動を別の言い方で書いたものが含まれます。
>カサンドラは治るのか|「治す」より先に、条件が変わっています
抜け出せたと書いた方の順番
36件のなかで、「抜け出せた」とはっきり書いていたのは、先に引用した配偶者との関係についての回答です。その一文には、順番が入っています。
- 適切な距離を取る——まず、接点の量を減らす
- 自分の体調や心の変化を客観視する——下がったところから、自分を見る
- 相手と自分の特性を知る——相手だけでなく、自分についても調べる
- 対処法が見つかる——ここで初めて、やり方の話になる
対処法が最後に来ています。多くの方が最初に探すのが4つめの対処法です。ただ、1つめと2つめを飛ばして対処法から入ると、うまくいきません。近すぎて自分の状態が見えていないため、何を直せばいいのかが分からないからです。
もうひとつ、3つめに注目してください。「相手だけでなく自分の特性も」と書かれています。相手について調べる方は多いのですが、自分が何に耐えにくいのか、どの場面で消耗するのかを整理した方は、それほど多くありません。
この4つは、期間の目安がある手順ではありません。36件の記録では、気づいてから状況が動くまでに何年もかかっている方が複数いました。順番だけが参考になります。
>カサンドラ症候群から抜け出すには|相手のASDより、自分の不調が先
メンタルヘルス支援士について
ここまで、36人のアドバイスに書かれていた内容と、抜け出せたと書いた方が動いた順番をご紹介してきました。
こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを、体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格の有無が支援の基準になるものではありませんが、身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。
Q&A|経験者のアドバイスについてのよくある質問
Q1:「距離を取る」と言われても仕事や家庭の事情で難しいです。
記録のなかの「距離」は、住む場所を変えることに限られていませんでした。反応を薄くする、話をしない時間帯を決める、一対一での対応をやめる——こうした方法も書かれています。職場の相手について書かれた回答では、「2人以上で対応が望ましい」とありました。離れられない相手にも使える形です。まずは、接点の量を1つ減らせないかを見てください。
Q2:「相手に期待しない」のは相手を見捨てることになりませんか。
そう感じる方は多いと思います。ただ、記録の書かれ方を見ると、そこで手放しているのは「話せば分かってもらえるはずだ」という見込みのほうです。関わりをやめるという意味では書かれていません。「相手を憎まず」と添えた方もいました。見込みを持ったまま同じ説明を繰り返すと、伝わらないたびに消耗が積み上がります。期待をやめることは、関係を終わらせることとは別です。
Q3:相手に診断がありません。それでも相談できますか。
できます。相談の対象は、相手の診断ではなく、あなたの心身の状態です。精神保健福祉センターは家族からの相談も受け付けており、相手の受診や同意は前提になっていません。記録のなかにも、相手が「考えすぎだ」と言っても専門機関の家族相談につながるという趣旨のアドバイスがありました。36件のデータでは、相手に診断がない方が6割を超えています。診断がないことは、めずらしい状況ではありません。
Q4:自助会やSNSは参加したほうがよいですか。
自助会への参加を勧める記述はありました。一方で、「安易にSNSに参加するのはおすすめできません」と書いた方もいます。つながることは勧めつつ、場所は選ぶ、という書かれ方です。同じ立場の方と会いたい場合は、精神保健福祉センターや発達障害者支援センターで、地域の家族会や自助会を紹介してもらう方法があります。運営の実態が分かっている場のほうが、安心して使えます。
Q5:アドバイスを読んでも何もする気になれません。
36件のうち2件は、アドバイスを書けませんでした。書いた方も、書けるようになるまでに時間が経っています。動けないことを、意欲の問題として扱わないでください。睡眠がとれていない、食事が減っている、体に症状が出ているといった場合は、まず体のほうが先です。心療内科や精神科のほか、かかりつけの内科でも相談できます。この記事の最後に、公的な相談窓口を掲載しています。
まとめ|最初にすることは助言を集めることではありません

- 36人のアドバイスで最多だったのは「相手と距離を取る」と「一人で抱えない」で、どちらも11件でした
- 「距離を取る」は離婚のことではありません。反応を減らす・時間を区切る・一対一をやめる、も同じ分類に入ります
- 上位5つのうち4つが、相手ではなく自分についての内容でした
- 36件のうち2件は、アドバイスを書けませんでした。どちらも「他の人がどうしているか知りたい」という向きです
- 抜け出せたと書いた方の順番は距離 → 客観視 → 知る → 対処法。対処法は最後です
本記事で紹介している一次情報について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 情報の性質 | 一般社団法人 人間力認定協会「カサンドラ症候群に関するエピソード調査」より抜粋 |
| データ取得者 | 一般社団法人 人間力認定協会 |
| 調査期間 | 2022年11月〜2026年 |
| 有効回答数 | 36件 |
| 設問 | 「同じ立場の方にアドバイスするとしたら、何を伝えたいですか?」ほか |
| 分析方法 | 自由記述を当協会が読み、書かれている内容で8つに分類しました。1件に複数の内容が書かれている場合は、複数の分類に数えています(そのため合計は36を超えます) |
| 注意点 | ※回答者は、当協会が認定する「児童発達支援士」の受講者に限られます。メンタルヘルス支援士の受講者を対象にしたものではありません |
| 注意点 | 「相手に診断がない方が6割」は、同じ36件の「発達障害診断名」(複数回答)での「診断無し(グレーゾーン)」23件にもとづきます |
| 注意点 | 体験談は、個人が特定されないよう一部の表現をぼかしています。内容は変えていません |
| 注意点 | 本記事は診断・治療を目的としたものではありません。受診の要否についても断定していません |
【注意事項】
この記事は、公的機関が公開している資料と、当協会が収集した体験談を整理したものです。個別の状況について診断や判断を行うものではありません。記事中で紹介しているのは回答者個人の考えであり、専門家による助言ではありません。相談窓口の運用や受付時間は地域によって異なりますので、詳細は各窓口にご確認ください。眠れない日が続いている、消えてしまいたいという気持ちがあるといった場合は、ためらわず下記の窓口にご連絡ください。


