様子がおかしいと気づいてから、いちばん長く止まる場所がここです。本人が病院に行きたがらない。すすめれば怒られ、黙っていれば時間だけが過ぎる。
この状態を検索すると、出てくるのは「どうやって受診させるか」の情報です。説得の言い方、連れて行く方法、搬送のサービス。どれも「本人を病院に運ぶこと」が家族の仕事だという前提で書かれています。
この記事は、そこを一度置きます。お伝えしたいのは1つです。本人を連れて行くことは、家族の最初の仕事ではありません。制度のうえでは、家族だけで相談することが先に用意されています。
本人を伴わなくても、相談は成立します

都道府県・政令指定都市には精神保健福祉センターが、地域には保健所があります。どちらも精神保健の相談を受ける公的な機関です。
ここで大事なのは、相談できるのが本人だけではないという点です。たとえば千葉県精神保健福祉センターは、相談の対象を「千葉県内(千葉市の方を除く)にお住まいの方(ご本人、ご家族、関係者等)」と明記しています。名称や運用は自治体ごとに違いますが、家族からの相談を受けるという枠組み自体は、どの地域にもあります。
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」も、精神保健福祉センターと保健所を家族が相談できる窓口として案内しています。つまり「本人が行かないので相談できない」ということには、制度上なっていません。
| 窓口 | 置かれている場所 | 家族だけで相談できるか |
|---|---|---|
| 精神保健福祉センター | 都道府県・政令指定都市に1か所(一部複数) | できる(本人・家族・関係者を対象と明記している自治体が多い) |
| 保健所 | 地域ごと | できる。地域精神保健の第一線の窓口 |
| 市区町村の担当窓口 | お住まいの自治体 | できる。窓口名は自治体によって異なる |
| 医療機関 | — | 家族相談を受ける医療機関もあるが、診断は本人の受診が前提 |
出典:国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」、千葉県精神保健福祉センター。名称・対象・予約の要否は自治体により異なります。当協会は引用者で、監修等は受けていません。
4行目だけ性質が違います。診断は、本人を診た医師にしかできません。そこは動きません。動くのは、その手前にある「どうしたらいいか分からない」を誰かと一緒に整理する段階です。
家族が先に相談すると、何が変わるのか
「本人が行かないのに、家族が相談して意味があるのか」と思われるかもしれません。変わるものを3つ挙げます。
- 判断する人が増える。いま家族は、様子の変化が何によるものかを一人で見分けようとしています。これは本来、家族の仕事ではありません
- 受診以外の選択肢が見える。訪問による支援、家族向けの相談の場、地域の支援機関など、その地域で使えるものは窓口のほうが把握しています
- 家族自身の状態を見てもらえる。相談の内容は、本人のことだけである必要はありません
厚生労働省も、家族の関わり方について「家族が病状に対して批判的な発言をしたり、逆に心配しすぎたりすると、かえって回復が遅れる場合があります」と説明しています。家族だけで抱えて見分けつづける状態は、その両方に傾きやすくなります。相談する主語は、本人だけではありません。
説得を続けることの、見えにくい負担
受診をすすめる会話は、たいてい平行線になります。そして繰り返すほど、家族と本人の関係のほうが先に消耗します。
ここで起きやすいのが、関係が「説得する人」と「説得される人」に固定されてしまうことです。そうなると、本人が何かを話したいときにも、家族はもう話しかけにくい相手になっています。
厚生労働省「こころの耳」も、話を聴くときの基本的な態度として「話の途中で原因を追及したり、話の内容を評価したり、否定したりせずに聴く」ことを挙げています。受診の話を一度預けることは、諦めることではなく、話せる関係のほうを残す判断でもあります。
お子さんについて同じ状況にある場合は、こちらで扱っています。
>不登校の親が疲れたとき|34人の「こうしておけばよかった」
早いほうがよい、という事実は動きません
ここまで「急がなくていい」と読めたかもしれませんが、そうではありません。厚生労働省は、統合失調症について「早めに治療するほど症状が重くなりにくいといわれているので、早期発見と早期治療が大切です」と説明しています。
同時に、こうも書いています。
- 適切な治療を行うことで回復可能で、長いスパンで見ると過半数は回復するといわれている
- 同時に再発しやすい。再発を予防するには、再発を予見させるような症状に気づくことと、適量の薬物療法を継続することが重要になる
- 一時的に症状が軽くなったからといって、勝手に服用を中断することは厳禁。薬の量の調整や期間の相談は、必ず医師にする
3つ目は、受診につながったあとの話です。「よくなったから、もう飲まなくていい」という判断を家族の側から促さないでください。ここは、家族ができることの中でもはっきりしている部分です。
つまり、急ぐべきなのは事実です。ただ、急ぐ対象が「本人を病院に連れて行くこと」だけになっていると、動けないまま時間が過ぎます。家族が相談を始めることは、いまこの瞬間からできます。
相談に持っていくのは、解釈ではなく事実
窓口に行くとき、うまく説明できるか不安になる方がいます。整理しておくと楽になるのは、次の4つです。
| 持っていくもの | 書き方の例 |
|---|---|
| いつからか | 「3か月ほど前から」。正確でなくて構いません |
| 何が変わったか(事実) | 「夜中に独り言が聞こえるようになった」「部屋から出てこない日が週の半分になった」 |
| 本人が言っていること | 本人の言葉のまま。言い換えないほうが伝わります |
| 受診をすすめたときの反応 | 「怒って会話が終わる」「その場では黙る」 |
2行目が要点です。「情緒不安定になった」ではなく「部屋から出てこない日が週の半分になった」。解釈ではなく、観察できたことを書きます。家族が病名を推測して伝える必要はありません。そこは相談を受ける側の仕事です。
なお、本人に「あなたは統合失調症かもしれない」と伝えることは避けてください。外れていれば決めつけになり、当たっていれば別の負担が加わります。どちらに転んでも、家族が言う必要のない言葉です。

はじめて調べているのは、あなただけではありません
当協会の資格に申し込んだ146人に、受講前に「受講した動機」(複数回答)を尋ねています。
| 受講した動機(複数回答) | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 身近に精神疾患または症状がある方がいる(過去にいた)から | 86人 | 58.9% |
| 現在の仕事に活かせると思ったから | 85人 | 58.2% |
| 子育てに活かせると思ったから | 49人 | 33.6% |
| 自身に精神疾患または症状がある(過去にあった)から | 45人 | 30.8% |
出典:一般社団法人 人間力認定協会「メンタルヘルス支援士 受講前アンケート」(N=146/2025年2月〜2026年7月)。複数回答。
1位は「身近に精神疾患または症状がある方がいる」86人(58.9%)。支えたい相手がいて調べはじめた人が最も多い並びです。
この86人の職種は、医療・福祉業が29人(33.7%)。残る57人(66.3%)は、医療とは関係のない仕事や立場です。専門知識のある人ではなく、家族としてはじめて調べた人が大半だということです。
ここからは受講後アンケート248件からの抜粋です。統合失調症のご家族の声として集めたものではありません。原文のまま掲載し、省略した部分は(前略)(中略)(後略)と記しています。
自分自身や周りで精神を病む状況が多く、周りのメンタル不調が自分に影響することも多々あります。そんな時に、メンタルヘルス支援士を受講した故に「何とかしてあげたい」と今以上になる気がしているので、支援士がどういうメンタルでいたらよいか、どう接することが望ましいかなど、自分を守る方法も充実していると良いと感じました。(後略)
40代の方の回答です。総合評価は「大満足」でした。知識を持つほど「何とかしてあげたい」が強くなるという指摘です。受診につながらない期間が長いほど、この力は家族の中にたまります。自分を守る方法もほしいという要望は、そのまま家族相談が必要な理由でもあります。
支援士の学習だけではなく、今後の様々な人々との接し方の勉強にもなり、受講してよかったです。
50代の方の回答です。総合評価は「満足」でした。特定の誰かのためだけでなく、接し方そのものの学びとして受け取られています。
ボーダーラインパーソナリティ症、鬱、自閉スペクトラム症を患う子供と、その対応に振り回される妻を少しでもフォローできるスキルを身に付けたかったのですが、二重の関係性でのカウンセリングは難しいと4章で知ってから、少し意欲が削がれてしまいました。
会社の中で、チームのモチベーションの維持・向上に役に立てれば良いか、とも考えていますが、最終的には医師に任せる必要があるかもしれず、効果は分かりません。
50代の方の回答です。総合評価は「やや不満」でした。率直な指摘なので、そのまま載せています。「最終的には医師に任せる必要がある」——これは落胆として書かれていますが、この記事の立場から読むと別の意味になります。医師に任せる部分と、家族が担う部分は、はじめから別だということです。家族が引き受けるのは治療ではなく、関係を保つことと、相談につなぐことです。
発達障害の息子を育てて来た経験を生かさればと受講を始めました。成人するまで対応に悩み苦しんで来たことを思い出しながら、あれは正解だったんだな、あれは間違っていたんだな…とこの度勉強させていただくことで改めて再確認、再発見ができました。(後略)
50代の方の回答です。総合評価は「満足」でした。「あれは正解だったんだな、あれは間違っていたんだな」——支えている最中には、この判定は出ません。いま迷っている状態は、あとから振り返る材料がまだ揃っていないだけとも言えます。
本人の様子を書き出すときの目安は、別の記事で整理しています。
>統合失調症のチェックリスト|家族が外から気づけるのは6項目だけ
メンタルヘルス支援士について
ここまで、本人が受診してくれないときに家族が先にできることと、相談に持っていく材料の整理をご紹介してきました。
こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを、体系的に学べる民間資格です。この記事で触れた統合失調症については、公式テキストの第1章で、症状の分類・治療・支援の考え方まで解説しています。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格の有無が支援の基準になるものではありませんし、資格を取れば診断ができるようになるわけでもありません。身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。何が学べて何が学べないのかは、別の記事で整理しています。
Q&A|受診してくれないときのよくある質問
Q1:家族だけで相談に行っても、迷惑ではないですか。
迷惑ではありません。精神保健福祉センターや保健所は、本人・家族・関係者からの相談を受ける機関として設けられています。相談の対象を「ご本人、ご家族、関係者等」と明記している自治体もあります。本人が同意していない段階でも、家族の相談は成立します。予約が必要な場合があるので、お住まいの自治体の窓口に電話で確認してください。
Q2:無理にでも病院に連れて行ったほうがよいのでしょうか。
この記事では判断しません。受診の要否も、その方法も、当協会が決められることではないためです。ただ、強く促すやり方は家族と本人の関係を消耗させやすく、その後に話ができなくなることがあります。本人の安全や周囲の安全に関わる状況では、判断も対応も家族だけで抱えるものではありません。その場合はためらわず、保健所・精神保健福祉センターに状況をそのまま伝えて相談してください。
Q3:本人に「病院に行こう」と言うと怒ります。どう言えばよいですか。
言い方の正解はお示しできません。ただ、厚生労働省「こころの耳」が挙げているのは「先入観を持たないで『本気で聴く』」「原因を追及したり、評価したり、否定したりせずに聴く」という態度です。受診の話をいったん脇に置き、本人が話したいことを話せる相手として残るほうが、結果的に長く関われることがあります。そのあいだ、家族の側は窓口への相談を進めておけます。
Q4:薬を飲みたがらない/自分でやめてしまいます。
厚生労働省も「症状が軽くなってきたからといって、勝手に服薬を中断するのは厳禁です。再発の危険が高くなります」と書いています。薬の量や期間の相談は、必ず主治医にしてください。家族の側から中断を促さないでください。飲めていない状況が続いている場合は、その事実を主治医または相談窓口に伝えてください。やめさせないよう説得することも、家族が一人で担う役ではありません。
Q5:もう長く続いています。いまさら相談しても遅くないですか。
遅くありません。厚生労働省は、統合失調症について「回復可能な病気です。長い経過で見ても過半数は回復し、重度の障害が残る場合は20%程度といわれています」と説明しています。同時に再発しやすい疾患でもあり、「症状が軽くなってきたからといって、勝手に服薬を中断するのは厳禁です」とも書かれています。時間が経っているかどうかは、相談してよいかどうかの条件ではありません。
まとめ|連れて行く前に、できることがある
- 本人を病院に連れて行くことは、家族の最初の仕事ではない。精神保健福祉センター・保健所は、家族だけの相談を受ける
- 相談の対象を「ご本人、ご家族、関係者等」と明記している自治体もある。「本人が行かないので相談できない」ということには、制度上なっていない
- 家族が先に相談すると、判断する人が増え、受診以外の選択肢が見え、家族自身の状態も見てもらえる
- 説得を繰り返すと、関係が「説得する人」と「説得される人」に固定される。厚生労働省「こころの耳」は「原因を追及したり、評価したり、否定したりせずに聴く」を挙げている
- 急ぐべきなのは事実。厚生労働省は「早めに治療するほど症状が重くなりにくい」と説明している。ただし急ぐ対象が「連れて行くこと」だけだと動けない
- 回復可能な疾患で、長いスパンで見ると過半数は回復するといわれている。同時に再発しやすく、自己判断での服用中断は厳禁
- 窓口に持っていくのは解釈ではなく事実。「情緒不安定になった」ではなく「部屋から出てこない日が週の半分になった」
- 本人に病名を当てはめて伝えない。外れていれば決めつけになり、当たっていれば別の負担が加わる
本記事で紹介している情報について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 相談窓口についての情報源 | 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」(精神保健福祉センター・保健所の案内)/千葉県精神保健福祉センター「精神保健福祉センターにおける相談について」(相談の対象を「ご本人、ご家族、関係者等」と明記) |
| 権威の帰属 | 窓口の役割に関する記述は上記の公的機関の資料に基づきます。当協会は引用者であり、これらの機関の監修・認定・推奨を受けたものではありません |
| ⚠ 窓口の運用は自治体ごとに異なります | 名称・対象・予約の要否・実施している相談の種類は地域によって違います。お住まいの自治体の窓口で必ずご確認ください |
| 統合失調症についての出典 | 厚生労働省「こころもメンテしよう〜ご家族・教職員の皆さんへ〜」統合失調症/厚生労働省「こころの耳」1 傾聴の基本的態度 |
| 一次情報の性質 | 一般社団法人 人間力認定協会「メンタルヘルス支援士 受講前アンケート」および「同 受講後アンケート」より抜粋 |
| データ取得者 | 一般社団法人 人間力認定協会 |
| 調査期間 | 受講前アンケート:2025年2月27日〜2026年7月25日/受講後アンケート:2025年3月8日〜2026年8月20日 |
| 有効回答数 | 受講前146件/受講後248件 |
| 設問 | 「性別」「年代」「職種(複数回答)」「受講した動機(複数回答)」「自由にメッセージをお願いします」ほか |
| 分析方法 | 受講動機8分類の単純集計。複数回答のため割合の合計は100%を超えます |
| 注意点 | 146人に「統合失調症のご家族がいるか」を尋ねた設問はありません。この記事で紹介する受講者の声は、統合失調症のご家族の声として集めたものではありません。示せるのはどんな立場の人が学びに来ているかだけです |
| 注意点 | 本記事は診断・治療を目的としたものではありません。受診の要否についても断定していません |
【注意事項】
この記事は、公的な相談窓口の仕組みと、厚生労働省の公開資料を整理したものです。受診の要否、受診の方法、入院に関する制度の適用について判断するものではありません。これらを判断するのは医師と行政機関であり、当協会ではありません。本人や周囲の安全に関わる状況では、ためらわず保健所・精神保健福祉センター、緊急を要する場合は119番・110番にご連絡ください。また、薬の量の調整や中断は必ず主治医にご相談ください。心の状態や必要な支援は一人ひとり異なり、一律の正解はありません。本記事は診断・治療を目的としたものではなく、受診の要否を判断するものでもありません。当協会は医師による監修を受けていません。


