電話を切らせてもらえなかった。土下座を求められた。同じ苦情を、何度も何度も繰り返された。
そのあとで、いちばん困るのは「これは自分が我慢すればいいことなのか、それとも言ってもいいことなのか」が分からないことです。相手が客だというだけで、線が引けなくなります。
この記事では、厚生労働省が示した「社会通念上許容される範囲を超えた言動の例」をもとにしたチェックリストをご紹介します。ただしこれは、該当・非該当を判定するためのものではありません。お伝えしたいのは、その線を引くのは、受けた本人ではないということのほうです。
受けたあとの反応が続いている場合は、こちらもあわせてご覧ください。
>カスハラを引きずるのはなぜか|弱いからではないと言える理由
カスハラの線引きは、国が決めています
カスタマーハラスメント(カスハラ)には、法律上の定義があります。改正労働施策総合推進法にもとづく厚生労働省の指針は、次の3つをすべて満たすものとしています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| ① 誰の言動か | 顧客等の言動であること |
| ② どういう言動か | その労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること |
| ③ 何が起きたか | 労働者の就業環境が害されること |
注目していただきたいのは②の「社会通念上」という言葉です。あなたが傷ついたかどうかではなく、社会一般の物差しで見て行きすぎているかどうかで判断します。つまり、この判断はもともと本人がひとりで下すようにできていません。
苦情のすべてがカスハラになるわけではありません
先に、逆側も書いておきます。要求されたこと自体がカスハラなのではありません。商品に不具合があったことへの申し出、説明を求められること、対応の遅さを指摘されること——こうした正当な苦情は、②の「範囲を超えた」に当たりません。
ここを混ぜてしまうと、今度はこちらが相手を一方的に加害者と決めつけることになります。分けるのは、要求の内容そのものと、その伝え方(手段や態様)の2つです。次のチェックリストも、この2つに分かれています。
2026年10月から、会社が対策をとることは義務になります
2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策は事業主の義務になります。これまでは各社の判断に任されていた部分が、法律で求められるものに変わります。
義務づけられる内容には、方針の明確化と周知、相談窓口の設置、事実関係の確認、被害を受けた労働者への配慮、再発防止、プライバシーの保護、そして相談したことを理由に不利益な取り扱いをしないと明示することが含まれます。
読み替えると、こうなります。「相談したら評価が下がるのでは」という心配のほうが、制度上は想定されている側です。
>カスハラ(カスタマーハラスメント)の定義はどこから?|苦情のすべてではありません
カスハラのチェックリスト
厚生労働省の指針が挙げている例を、受けた側の言葉に置き換えた12項目です。前半4つが要求の内容、後半8つが手段や態様にあたります。
【要求の内容が、行きすぎているもの】
- そもそも理由のない要求、または商品・サービスとまったく関係のない要求をされた
- 契約や料金で決まっている範囲を、著しく超えるサービスを求められた
- 対応が著しく困難な要求、または対応が不可能な要求をされた
- 不当な損害賠償を求められた
【伝え方(手段や態様)が、行きすぎているもの】
- 殴る、蹴る、物を投げつけられるなど、体への攻撃を受けた
- 脅された、中傷された、名誉を傷つけられた
- 侮辱された、人格を否定するような暴言を浴びせられた
- 土下座を強要された
- 大声を出す、机を叩くなど、威圧的な態度をとられた
- 同じ要求や苦情を、繰り返し執拗に受けた
- 長時間その場に居座られた、または帰ってもらえなかった
- その場から動けない状態に置かれた
この12項目は、厚生労働省の指針が挙げる「社会通念上許容される範囲を超えた言動の例」(9つ)を、当協会が受けた側の言葉に整えたものです。当協会は引用者であり、厚生労働省の監修・認定・推奨を受けたものではありません。原典と調査の詳細は、記事末の「本記事で紹介している情報について」に記載しています。
我慢か過剰かを決めるのは、あなたではありません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
カスハラかどうかは、先ほどの3つの要素をすべて満たすかどうかで決まります。そして②は「社会通念上」、つまり社会一般の物差しです。会社が判断し、必要なら労働局や相談窓口が判断します。受けた本人が、ひとりで結論を出す仕組みにはなっていません。
ですから、いま持っていただきたい問いは「これはカスハラなのか」ではありません。「起きたことを、そのまま人に伝えられる形になっているか」のほうです。上のチェックリストは、そのための言葉として使ってください。
「何個で該当」という基準はありません
このリストには、該当と非該当を分ける区切りがありません。「◯個以上でカスハラ」という線を、この記事では引きません。判断するのは会社と、必要に応じて行政の窓口だからです。
むしろ1項目でも、業務が続けられなくなっているなら相談の理由になります。逆に何項目付いても、それだけで法的な結論が出るわけではありません。数は、内容の代わりになりません。
労災では、カスハラの半分以上が認められています

ここからは、当協会が公的統計を再集計した数字をご紹介します。厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」から、精神障害の労災請求が、どの出来事でどれだけ認められたかを出来事別に計算したものです。
| 出来事 | 決定 | 支給決定 | 認定率 |
|---|---|---|---|
| 上司等からのパワーハラスメント | 403件 | 222件 | 55.1% |
| セクシュアルハラスメント | 233件 | 127件 | 54.5% |
| 顧客や取引先、施設利用者等からの著しい迷惑行為 | 240件 | 127件 | 52.9% |
| 同僚等からの暴行、ひどいいじめ・嫌がらせ | 133件 | 62件 | 46.6% |
| 上司とのトラブル(件数は最多) | 1,061件 | 36件 | 3.4% |
| 同僚とのトラブル | 257件 | 5件 | 1.9% |
| 全体 | 3,839件 | 1,082件 | 28.2% |
全体の認定率が28.2%であるのに対し、顧客等からの著しい迷惑行為は52.9%。請求のうち半分以上が認められています。件数も前年度の207件から240件へ、1年で約16%増えました。
「気のせいでは」「そのくらい、どこでもある」と言われがちな出来事が、労災としては半分以上認められている。これが、我慢か過剰かを本人が決めなくてよい理由のひとつです。
「上司とのトラブル3.4%」は、認められにくいという意味ではありません
いちばん多く請求されている「上司とのトラブル」1,061件のうち、認められたのは36件(3.4%)です。ただしこれを「上司との対立は認められにくい」と読むのは誤りです。
認定基準では、1件に複数の出来事が関わる場合、最も強い心理的負荷の出来事で分類します。つまり、パワーハラスメントと評価されたものはパワハラの側(55.1%)で数えられます。「上司とのトラブル」に残るのは、パワハラとまでは評価されなかったものです。分母の性質が違うので、この2つの率を並べて比べることはできません。
⚠ この表は労災として請求され、決定が出たものの集計です。職場で起きた出来事の割合ではありませんし、あなたの状況が認定されるかどうかを示すものでもありません。労災の判断は個別に行われます。
>職場でのトラウマ反応への配慮|診断の有無にかかわらずできること
「顧客等」には、施設の利用者や取引先も含まれます
労災の項目名は「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」です。店舗や窓口の接客だけの話ではありません。介護・障害福祉・医療・保育・学校——サービスを提供する相手がいる仕事は、すべてこの範囲に入ります。
そして対人援助の現場では、相手の言動を特性や状態として理解しようとするぶん、線が引きにくくなります。
障害福祉サービスの仕事に従事しています。利用者様の個別特性に即して、就労継続を支援出来る事は大きな成功体験でしたが、就労となると社会や作業のルールマナーを守ってもらえない事が支援者としての大きなストレスとなり、葛藤の毎日です。自身のメンタルヘルスに大変役立つ学びでした。
50代の方の回答です。「葛藤の毎日」——理解しようとすることと、自分が受けている負荷を数えることは、両立します。相手を責めないことと、自分の消耗をなかったことにすることは、別です。
受けたときに、どうするか
その場と、そのあとで、できることを整理します。
- その場でひとりで抱えない/責任者を呼ぶ、複数で対応する。これは逃げではなく、指針が事業主に求めている体制の側です
- 起きたことを、その日のうちに記録する/日時・場所・言われたこと・こちらの対応・立ち会った人。感想ではなく、事実を短く書きます
- チェックリストの言葉を借りて伝える/「執拗に繰り返された」「長時間帰ってもらえなかった」。上司や窓口に伝わりやすくなります
- 会社の相談窓口を使う/2026年10月からは設置と周知が義務です。相談を理由に不利益な扱いをしないことも、あわせて義務づけられます
- 社内で動かないときは、外の窓口を使う/各都道府県労働局の総合労働相談コーナーは、無料で誰でも相談できます。窓口は記事の最後に掲載しています
⚠ 記録は、相手をやり込めるためのものではありません。あとから思い出せなくなることを防ぐためのものです。書いておくと、相談の場で「うまく説明できない」が起きにくくなります。
学んでも、相手の言動は止まりません
ここは正直に書いておきます。知識を身につけても、相手が怒鳴るのをやめるわけではありません。変わるのは、受け取り方と、次の一手の選び方のほうです。
職場では上司に対して、また、初対面の人に対する接し方など、ここで習得したことが少し生かすことができ、なるほどなーと思うことがありました。もっと実践をしながら勉強したことを活かせるようになりたいです。
30代の方の回答で、総合評価は「普通」でした。「少し生かすことができ」という書き方が、実際のところに近いと思います。学びは、その場をなくす道具ではありません。
相手のいる仕事をしている人が、半数を超えています|146人のデータ
当協会の資格に申し込んだ146人が、何を理由に学びに来ているかのデータです。
- 身近に精神疾患または症状がある方がいる(過去にいた)から……86人(58.9%)
- 現在の仕事に活かせると思ったから……85人(58.2%)
- 子育てに活かせると思ったから……49人(33.6%)
- 自身に精神疾患または症状がある(過去にあった)から……45人(30.8%)
職種では医療・福祉業53人(36.3%)、教育業・学習支援業30人(20.5%)で、この2つで半数を超えます(両方を選んだ方が3人いるため、実数は80人・54.8%です)。いずれも「顧客等」がいる仕事です。
(前略)両親の介護が始まり一旦離職して時間の自由が利く高齢者デイサービスで働いています(中略)メンタルヘルス支援は高齢者デイサービスを利用している方にも傾聴や寄り添いなど活用できる部分が多々あると思います(後略)
50代の方の回答です。働く場所が変わっても、相手がいる仕事であることは変わりません。
自分が相談するなら、と思いながら勉強しました。傾聴する方法が大切だと思いました。
40代の方の回答です。「自分が相談するなら」——相談を受ける側の技術を学ぶことは、そのまま自分が相談する側に回ったときの手がかりにもなります。
⚠ この146人にカスハラを受けた経験を尋ねた設問はありません。お見せしているのは「どんな立場の人が学びに来ているか」であって、カスハラの発生率ではありません。
メンタルヘルス支援士について
ここまで、カスハラのチェックリストと、労災の認定率、支える立場の146人のデータをご紹介しました。
こうした理解を深めることと合わせて、接客・対人援助の現場で働く方や、相談を受ける立場の方の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを体系的に学べる民間資格です。強い言葉を向けられたときに、相手の状態と自分の状態を分けて見る考え方も扱っています。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格の有無が支援の基準になるものではありませんし、取れば法的な判断ができるようになるわけでもありません。人と接する仕事をしている方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。何が学べて何が学べないのかは別の記事で整理しています。
Q&A|カスハラのチェックリストに関するよくある質問
Q1:何項目当てはまったら、カスハラになりますか?
個数の目安はありません。このチェックリストは該当・非該当を判定するためのものではなく、受けた言動を言葉にするためのものです。判断は3つの要素をすべて満たすかどうかで行われ、それを決めるのは会社と、必要に応じて行政の窓口です。1項目でも、業務が続けられなくなっているなら相談の理由になります。
Q2:強く言われましたが、こちらのミスが原因でした。それでも相談していいですか?
できます。ミスがあったかどうかと、伝え方が行きすぎていたかどうかは、別に見ます。チェックリストが「要求の内容」と「手段や態様」に分かれているのはそのためです。非があっても、土下座を求められることや、長時間帰してもらえないことが正当になるわけではありません。
Q3:記録は、どこまで残せばよいですか?
日時・場所・言われたこと・こちらの対応・立ち会った人の5つで足ります。感想ではなく事実を短く。録音や撮影については、勤務先のルールや設備の制約があるため、まず社内の窓口に確認してください。記録は相手を追及するためではなく、あとから説明できるようにしておくためのものです。
Q4:会社に相談したら、評価が下がりませんか?
相談したことを理由に不利益な取り扱いをしないと明示することは、事業主に義務づけられる措置に含まれています(2026年10月1日から)。それでも社内で動かないときは、外の窓口があります。各都道府県労働局の総合労働相談コーナーは、無料で、勤務先を通さずに相談できます。
Q5:眠れない、休みの日も思い出してしまいます。どうすればよいですか?
それは、就業環境が害されている状態にあたります。3つめの要素そのものです。強い出来事のあと、思い出したくないのに場面がよみがえる、眠れない、動悸がするといった反応が続くときは、労働相談の窓口と並行して、医療機関や産業医、こころの耳などの相談先も使ってください。窓口は記事の最後に掲載しています。
まとめ|線を引くのは、あなたの役目ではありません

| 論点 | この記事で確認したこと |
|---|---|
| 定義 | ①顧客等の言動 ②社会通念上許容される範囲を超えた ③就業環境が害される。3つすべてを満たすもの |
| 誰が決めるか | 「社会通念上」=社会一般の物差し。会社が判断し、必要なら行政の窓口が判断する。本人がひとりで結論を出す仕組みではない |
| チェックリストの中身 | 要求の内容4つ/伝え方8つ。要求すること自体ではなく、内容と伝え方を分けて見る |
| 判断の軸 | 「◯個以上で該当」という線は引かない。1項目でも業務が続けられなくなっているなら相談の理由になる |
| 労災のデータ | 顧客等からの著しい迷惑行為の認定率は52.9%(240件中127件)。全体の28.2%を大きく上回る |
| 3.4%の読み方 | 「上司とのトラブル」が低いのは、パワハラと評価されたものがパワハラ側で数えられるため。分母の性質が違う |
| 2026年10月から | 相談窓口の設置と、相談を理由に不利益な扱いをしないことの明示が事業主の義務になる |
「これはカスハラなのか」を自分で決めきろうとすると、たいてい答えが出ません。決める場所が、もともとそこにないからです。先にやることは、起きたことを言葉にして、渡せる形にしておくことのほうです。
本記事で紹介している情報について
この記事で使っている情報の出どころを、まとめて記載します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| このチェックリストについて | 厚生労働省の指針が示す「社会通念上許容される範囲を超えた言動の例」(9つ)をもとに、当協会が記事向けに整えた簡易版です。読みやすさのために言い回しを受け手の側から書き直していますが、見る内容は原典と同じです |
| 権威の帰属 | チェックリストの内容は厚生労働省の資料に基づくものです。当協会は引用者であり、厚生労働省の監修・認定・推奨を受けたものではありません |
| 原典 | 厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます! カスタマーハラスメント対策の義務化【改正労働施策総合推進法・指針の内容】」。リンクは記事末の「参考・相談先」に掲載しています |
| チェックリストの目的 | 該当・非該当を判定するためのものではありません。受けた言動を言葉にして、相談窓口に伝えられる形にするためのものです |
| 労災のデータ | 厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」別添資料2 表2-8(当協会が再集計)。認定率は当協会が算出したもので、厚生労働省が公表している数値ではありません |
| 受講者のデータ | メンタルヘルス支援士 受講前アンケート(有効回答146件・2025年2月27日〜2026年7月25日) |
| 受講者の声 | メンタルヘルス支援士 受講後アンケート(有効回答248件・2025年3月8日〜2026年8月20日)。自由記述欄・体験談欄からそのまま転載しています |
| 回答者について | 回答者は当協会の資格に申し込んだ方に限られます。カスハラを受けた経験を尋ねた設問はありません |
【注意事項】
この記事で紹介している内容は、厚生労働省の公表資料および当協会が収集したアンケートの一部をもとにまとめています。本記事は法的な判断・診断・治療を目的としたものではなく、掲載しているチェックリストは該当・非該当を決める基準ではありません。個別の事案がカスタマーハラスメントにあたるか、労災として認定されるかは、それぞれの事情に応じて判断されます。心身の不調が続く場合は、早めに医師・産業医・お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。「消えてしまいたい」という気持ちが出てきたときは、様子を見ずに、すぐ下記の窓口か医療機関にご連絡ください。


