カスハラ(カスタマーハラスメント)の定義はどこから?|苦情のすべてではありません

お客さまから強い口調で責められたとき、これは我慢すべき苦情なのか、それとも「カスハラ(カスタマーハラスメント)」なのか。職場で線を引こうとしても、人によって感じ方が違い、はっきりした基準が分からないまま対応している方が多いと思います。

先に答えをお伝えします。苦情や要望がすべてカスハラになるわけではありません。法律と国の指針は、言動の「内容」と「手段や態様」が社会通念上許容される範囲を超え、働く人の就業環境が害されるものをカスハラとしています。

そして2026年10月1日から、カスハラへの対策は事業主の義務になりました。どこからがカスハラかという線の引き方は、現場で働く人にとっても、職場の仕組みをつくる人にとっても、知っておきたい基本になります。

たとえば、

  • 8問のクイズで、自分の線引きが国の指針と合っているかを確かめる
  • 法律で決められたカスハラの定義の3つの要素
  • 「言動の内容」と「手段や態様」から見る、どこからがカスハラかの考え方
  • 2026年10月から事業主が講じることになった措置

といった内容です。

この記事では、厚生労働省の指針とリーフレットをもとに、カスハラの線引きを整理していきます。

カスハラのチェックリスト|我慢か過剰かを決めるのは、あなたではない

メンタルヘルス支援士 公式サイト

まず8問で線引きを確かめてみてください

解説を読む前に、今の自分の線引きを確かめてみましょう。答えると、正解と解説がすぐに表示されます。最後に、間違えた分野だけをまとめて見られます。

カスハラの線引きクイズ(全8問)
厚生労働省の指針をもとに当協会が作成した8問です。答え合わせのあと、間違えたところの解説だけを読めます。
1 / 8 判断の考え方
カスハラにあたるかを判断するとき、指針が総合的に考慮するとしているものに含まれるのはどれですか?
この8問は、厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」と同省のリーフレットをもとに、当協会が本記事のために作成したものです。個別の出来事がカスハラにあたるかは、目的や経緯、業種、頻度などを総合して判断されます。

このクイズは、個別の出来事がカスハラにあたるかを判定するものではありません。実際の判断は、言動の目的や経緯、業種、頻度などを総合して行われます。ここで確かめてほしいのは、判断するときにどこを見るのかという考え方のほうです。

カスハラの定義は3つの要素でできています

カスハラ対策の義務は、2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)で定められ、2026年10月1日に施行されました。厚生労働省のリーフレットでは、職場におけるカスタマーハラスメントを次のように説明しています。

職場において行われる①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの

出典:厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」

3つの要素を、1つずつ見ていきます。

1つ目は「顧客等の言動」であることです。厚生労働省の解釈事項では、いま商品を買ったりサービスを使ったりしている人だけでなく、今後そうする可能性がある潜在的な顧客も含まれるとされています。

2つ目は「社会通念上許容される範囲を超えた」ことです。ここがカスハラかどうかを分けるいちばん大事な部分で、次の章で詳しく見ます。「業務の性質その他の事情に照らして」とあるとおり、同じ言動でも、業種や仕事の内容によって判断が変わることがあります。

3つ目は「労働者の就業環境が害される」ことです。解釈事項では、平均的な労働者の感じ方を基準に、働くうえで見過ごせない程度の支障が生じたと感じるような言動かどうかで判断するとされています。その場にいた本人が嫌な気持ちになったかどうかだけで決まるわけではない、という点が大事です。

ただし、本人のつらさが軽いという意味ではありません。基準が「平均的な労働者」に置かれているのは、職場として一貫した対応をとるためです。受けた人が相談できる窓口を設け、相談に適切に対応することは、事業主が講じる措置に含まれています。

どこからがカスハラかは内容と手段の2つで見ます

どこからがカスハラかは内容と手段の2つで見ます

「社会通念上許容される範囲を超えた」かどうかを判断するために、厚生労働省の指針は2つの面を示しています。言動の「内容」と、言動の「手段・態様」です。どちらか一方が範囲を超えていれば、カスハラにあたりうることになります。

まず「内容」の面です。指針が、内容が範囲を超える例として挙げているのは次のようなものです。

  • 要求に理由がない、または商品やサービスと関係のない要求
  • 契約で想定しているサービスを著しく超える要求
  • 対応が著しく困難な要求、または対応が不可能な要求
  • 不当な損害賠償の要求

具体例としては、性的な要求や、働く人のプライバシーに関わる要求、契約金額の著しい減額の要求などが示されています。

次に「手段・態様」の面です。要求の内容に理由があったとしても、求め方が範囲を超えていれば問題になります。指針は次の5つを挙げています。

  • 身体的な攻撃(物を投げつけるなど)
  • 精神的な攻撃(土下座の強要などを含む)
  • 威圧的な言動(大きな声をあげて働く人や周囲を威圧するなど)
  • 継続的・執拗な言動(同じ質問を執拗に繰り返すなど)
  • 拘束的な言動(長時間の居座りや、電話で働く人を長時間拘束するなど)

このほか、SNSに悪い評判を書き込むとほのめかして脅すことや、許可なく撮影することも、厚生労働省の資料で例として挙げられています。

2つの面を分けて見ると、現場での判断がしやすくなります。たとえば、商品の不具合を理由に交換を求めるという内容そのものは正当でも、大声で周囲を威圧しながら求め続ければ、手段・態様の面で範囲を超えることがあります。反対に、落ち着いた口調であっても、契約にないサービスを著しく超えて求め続ければ、内容の面で範囲を超えることがあります。「言い方がきついから」「要求が大きいから」のどちらか1つの印象で決めず、内容と手段を分けて見ることが、線を引くときの基本です。

苦情がすべてカスハラになるわけではありません

カスハラ対策が義務になると、「お客さまの苦情を受け付けなくてよくなる」と受け取られることがあります。けれど指針は、苦情のすべてがカスハラにあたるわけではないとはっきり示しています。社会通念上許容される範囲の苦情は、いわば正当な申し入れで、事業者が向き合うべきものです。

また指針には、障害のある人が、差別的な取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁を取り除くよう求める意思を表明すること自体は、カスハラにあたらないと明記されています。求め方の手段や態様が範囲を超えるかどうかは、ほかの言動と同じく個別に判断されます。

判断にあたっては、次のような事情を総合的に考えるとされています。

  • 言動の目的
  • 言動に至った経緯や状況(働く人の側に問題のある言動があったかどうかを含む)
  • 業種・業態、業務の内容や性質
  • 言動の態様・頻度・継続性
  • 働く人の属性や心身の状況、行為者との関係性

2つ目の項目にあるとおり、厚生労働省の解釈事項は、事業主や働く人の側の不適切な対応が言動のきっかけになっている場合もあることに留意するとしています。カスハラの線引きは、お客さまを一方的に悪者にするためのものではなく、働く人を守りながら正当な申し入れにも向き合うためのものです。この両方を持っておくと、職場で対応を話し合うときにも意見がまとまりやすくなります。

2026年10月から事業主が講じることになった措置

指針は、労働施策総合推進法第33条にもとづいて、事業主が雇用管理上講じる措置を示しています。厚生労働省のリーフレットでまとめられている項目は次のとおりです。

  • カスハラに対する方針を明確にし、周知・啓発する
  • カスハラの内容と対処の方法を周知する
  • 相談窓口を設ける
  • 相談を受ける担当者が適切に対応できるようにする
  • 事実関係を確認する
  • 被害を受けた人に配慮する措置をとる
  • 再発を防ぐ措置をとる
  • 悪質な事案への対処方針を定める
  • 相談した人や行為者のプライバシーを保護する
  • 相談したことなどを理由に不利益な取扱いをしないことを周知する

働く人の側から見ると、カスハラを受けたときに相談できる窓口が職場にあり、相談したことで不利益に扱われないことが周知されているという状態が、事業主の義務として求められるようになったということです。まだ窓口が分からない場合は、就業規則や社内の案内を確かめてみてください。

カスハラを受けたと感じたときにできること

カスハラを受けたと感じたときにできること

線引きを知っても、実際にきつい言葉を受けたその場で、冷静に「内容」と「手段」を分けて考えるのは難しいものです。あとから振り返って、次の順番で動くと、ひとりで抱え込まずに済みます。

  • 記録する:いつ、誰から、どんな内容を、どんな言い方で求められたかを、覚えているうちに書き出す
  • 職場の窓口に伝える:事業主は相談に適切に対応し、事実関係を確認することが求められています
  • 職場の外に相談する:職場に窓口がない、使いにくい場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーで、いじめ・嫌がらせなどの職場のトラブルを無料で相談できます
  • 心と体の状態を見る:出来事のあとに眠れない、思い出してつらいなどが続く場合は、それ自体を相談の対象にしてかまいません

記録は、事実関係を確認するときの材料になります。書き出すときは、相手を評価する言葉ではなく、言われたことやされたことをそのまま書くのがコツです。「失礼な客だった」ではなく「30分以上、同じ質問を繰り返された」と書くと、内容と手段のどちらが範囲を超えていたのかを、あとで話し合いやすくなります。

カスハラを受けたあとに、何日も気持ちが沈んだり、その場面を繰り返し思い出したりすることは珍しくありません。それは弱いからではなく、強いストレスを受けたときに起こりうる反応です。つらさが続くときは、ひとりで我慢せず、職場の窓口や外の相談先を使ってください。

カスハラを引きずるのはなぜか|弱いからではないと言える理由

強い言動を受け続けた方の声を紹介します

最後に、当協会のアンケートに寄せられた声を紹介します。カスハラについて尋ねた調査ではありません。家族との関係の中で、相手の不機嫌や強い言動を受け続けてきた方に「同じ立場の方にアドバイスするとしたら」と尋ねた回答です。

自分の意識を別のところへ向け楽しいことや息抜きを探すこと。あとは、自分のせいではないかとか言い方が悪かったのか、など相手の不機嫌や沈黙、無関心なことにたいして自分を責めない。

別の方は、自分が置かれている状況を説明する言葉を知ったあとの変化を、次のように書いていました。

自分だけを責めるのが減り、肩の荷が降りて少し気楽になった

相手も場面もカスハラとは違いますが、強い言動を受けたときに自分を責めてしまうという点は、職場でお客さまの言動に悩む方にも重なるところがあるかもしれません。

メンタルヘルス支援士について

ここまで、カスハラの定義と、どこからがカスハラかを見るときの考え方、2026年10月から事業主が講じる措置をご紹介してきました。

職場の仕組みを知ることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。

当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを、体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。

資格の有無が支援の基準になるものではありませんが、身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。

メンタルヘルス支援士の詳細について

Q&A|カスハラの定義に関するよくある質問

Q1:カスハラ対策はいつから義務になりましたか?

2026年10月1日からです。2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)で、事業主がカスハラについて雇用管理上の措置を講じることが義務づけられました。

Q2:どこからがカスハラになりますか?

顧客等の言動が、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超え、働く人の就業環境が害される場合です。範囲を超えるかは、要求の「内容」と、身体的な攻撃・威圧的な言動・執拗な言動などの「手段・態様」の2つの面から、目的や経緯、業種、頻度などを総合して判断されます。

Q3:強い口調の苦情はすべてカスハラですか?

すべてではありません。指針は、苦情のすべてがカスハラにあたるわけではなく、社会通念上許容される範囲であれば正当な申し入れだとしています。ただし、大声で周囲を威圧するなど、手段や態様が範囲を超えれば、要求に理由があってもカスハラにあたりうることになります。

Q4:自分が不快に感じたらカスハラですか?

本人が不快に感じたかどうかだけでは決まりません。就業環境が害されるかは、平均的な労働者の感じ方を基準に判断するとされています。ただし、つらさを感じたこと自体は相談してよく、事業主は相談窓口を設けて適切に対応することが求められています。

Q5:職場に相談窓口がない場合はどうすればいいですか?

まず就業規則や社内の案内で窓口を確かめてください。職場で相談しにくい場合は、都道府県労働局や労働基準監督署の中にある総合労働相談コーナーで、いじめ・嫌がらせなどの職場のトラブルを無料・予約不要で相談できます。

まとめ|カスハラは内容と手段を分けて見る

  • カスハラ対策は2026年10月1日から事業主の義務になりました
  • 定義は顧客等の言動・社会通念上許容される範囲を超える・就業環境が害されるの3つの要素です
  • 範囲を超えるかは、要求の「内容」と「手段・態様」の2つの面から総合的に判断されます
  • 苦情のすべてがカスハラになるわけではなく、範囲内の苦情は正当な申し入れです
  • 受けたと感じたら記録して相談する。線引きを知っておくことが、働く人を守りながらお客さまにも向き合う力になります

本記事で紹介している情報について

項目内容
定義・施行日厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」
範囲を超える例・判断の要素厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
顧客等の範囲・平均的な労働者の感じ方厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(令和8年4月24日)
総合労働相談コーナー厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
情報の性質一般社団法人 人間力認定協会「カサンドラ症候群に関するエピソード調査」より抜粋
データ取得者一般社団法人 人間力認定協会
調査期間2022年11月〜2026年
有効回答数36件
設問「同じ立場の方にアドバイスするとしたら、何を伝えたいですか?」「病院に通院しましたか?」
分析方法自由記述の回答から、自分を責めることについて書かれた部分を原文のまま引用しています
注意点回答者は、当協会が認定する「児童発達支援士」の受講者に限られます。メンタルヘルス支援士の受講者を対象にしたものではありません
注意点カスハラについて尋ねた調査ではありません。回答はいずれも家族との関係について書かれたものです
クイズ上記の資料をもとに当協会が本記事のために作成しました。回答は匿名で記録し、今後の記事の参考にします
確認日2026年9月16日

【注意事項】

この記事は、厚生労働省が公開している法令の解説資料と指針をもとにまとめたものです。個別の出来事がカスハラにあたるかどうかを判断するものではなく、法律上の助言ではありません。具体的な対応については、職場の相談窓口や総合労働相談コーナーなどにご相談ください。心身の不調が続いている場合は、医療機関や相談窓口にご相談ください。

参考・相談先

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