相手はパートナーではなく、同僚や上司。それでも話が通じない、こちらの言い方が悪いことにされる。気づくと眠れなくなっていて、出勤前に気分が重くなっている。
カサンドラ症候群は、配偶者との関係で語られることがほとんどです。ただ、同じことは職場でも起こります。当協会が集めた248件の受講後アンケートにも、職場の同僚との関係でこの状態になったという回答が実際にありました。
この記事では、相手を診断せずに、いま自分に起きていることを整理する方法をまとめます。読んでいてつらくなったら、そこで読むのをやめてください。
>メンタルヘルスの資格はどんな人が取る?受講者146人の年代・職種・動機データ
この記事で整理すること
- カサンドラ症候群が職場でも起こる理由を、関係の構造から整理する
- 「同僚が発達障害かどうか」を見分けようとしない理由を説明する
- 受講者146人のデータを見たうえで、職場でできること・できないことを分ける
カサンドラ症候群が職場でも起こる理由
カサンドラ症候群は DSM-5-TR にも ICD-11 にも記載がなく、正式な疾患名ではありません。自閉スペクトラム症の特性がある相手との関係のなかで、支える側に不調が出た状態を指す言葉として使われています。
当協会は、この苦しさを2つに分けて説明しています。
- 相手との間に、適切な意思疎通ができないことによる苦しさ
- その苦しみを、周りの人に理解してもらえない苦しさ
職場では、この2つ目が起こりやすくなります。自閉スペクトラム症の特性があっても、会議で数分同席するだけの人や他部署の人には見えません。そのため毎日隣で仕事をしているあなたが「あの人とは話が通じない」と言っても、「え、いい人だよ」「あなたの伝え方の問題では」と返ってきます。
家庭なら当事者はふたりです。職場では同じ部屋に十数人いて、その全員があなたと違う見え方をしていることがあります。人数が多いぶん、孤立は深くなります。
職場ならではの逃げ場のなさ
職場には、家庭とは違う制約があります。
- 関係を選べない/席替えも担当替えも自分では決められず、避けると業務が回らない
- 評価が絡む/相手が上司なら、関係の悪化がそのまま評価や配置に跳ね返りうる
- 感情を出せない/家庭なら泣くことも黙ることもできるが、職場では表情を保つことが求められる
- 相談先が身内にない/同僚に相談すれば噂になる。上司が当事者なら、その上司には相談できない
- 終わりが見えない/異動も退職も、自分の意思だけでは動かせない
どれも「受け止め方の問題」ではなく、職場という場が持つ構造です。
これはカサンドラ症候群なのか
この記事で答えは出しません。正式な疾患名ではないので、そもそも「該当する・しない」の線が存在しないためです。
そのうえで、いま自分の心身に何が起きているかを確かめる手がかりとして、当協会が作成した簡易チェックリスト12項目を別の記事に掲載しています。配偶者との関係を想定したものですが、身体の不調と精神面の変化を見る部分は職場でも使えます。
>カサンドラ症候群チェックリスト|相手を変えずにできる4つの対処法
相手を診断しようとしないでください
この状態になると相手のことを調べ、特性の一覧を読んで当てはまる項目を数えたくなります。自然な気持ちですが、ここには落とし穴があります。実際の受講者アンケートに、こういう声がありました。
仕事している中で問題行動がある方に対し、「発達障害じゃない?」という言葉を聞きます。診断はされていないのに、何か問題が出ると簡単にこのような判断を差別的にされる事が辛いです。いくら言葉を尽くしても分かってもらえない辛さは痛いです。(後略)
50代の方の回答です。職場で「発達障害じゃない?」が飛び交うことへの違和感が書かれています。
診断ができるのは医師だけで、特性の一覧に当てはまってもその人が自閉スペクトラム症とは限りません。そして診断名が分かったところで、あなたの不調は軽くなりません。明日も同じ席で同じ仕事をすることは変わらないからです。
主語を入れ替えてください。「相手が何者か」ではなく「自分に何が起きているか」です。そちらは、あなたが確かめられて、対処もできることです。
本記事で紹介している情報について
この記事は、性質の異なる2つの情報で構成しています。混ざらないように、先に整理しておきます。

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| カサンドラ症候群の説明 | DSM-5-TR・ICD-11 に記載がなく、正式な疾患名ではありません。当協会が『公式マスターブック メンタルヘルス支援士』(一般社団法人 人間力認定協会・2025年3月1日 初版第一刷)第2章にまとめている内容をもとにしています |
| 受講者の声 | メンタルヘルス支援士 受講後アンケート(有効回答248件・2025年3月8日〜2026年8月20日) |
| 受講者の属性データ | メンタルヘルス支援士 受講前アンケート(有効回答146件・2025年2月27日〜2026年7月25日) |
| この記事でしないこと | 診断はしません。同僚や上司が発達障害かどうかも、あなたがカサンドラ症候群かどうかも判定しません。受診の要否も判断していません |
| 回答者について | 回答者は当協会の資格に申し込んだ方に限られます。職場での人間関係を尋ねた設問はなく、職場に関する記述は自由記述欄に回答者自身が書いたものです |
受講者の声は、受講後アンケートの自由記述欄および体験談欄からそのまま転載しています。誤字の修正以外の編集は行っていません。
職場で起きた、実際の声
受講後アンケート248件のうち、回答者自身が「カサンドラ症候群」という言葉で自分の状態を説明したものが1件ありました。職場での出来事です。
前任校でASDと思われる同僚がいて、自分がカサンドラ症候群のような症状が出たことがあります。ずっと無視され続けて嫌な思いをしましたが、周りの理解してくれる同僚に助けられました。話を聴く、共感する、は大事な支援だと思います。
30代の方の回答です。短いなかに、この記事の要点がほぼ入っています。
- 「ASDと思われる」/診断名を断定せず、分からないまま書いています。職場ではこれが正確な書き方です
- 「カサンドラ症候群のような症状」/自分を診断せず、「ような」と留保しています
- 「ずっと無視され続けて」/解釈ではなく、起きた事実として書いています
- 「周りの理解してくれる同僚に助けられました」/回復のきっかけは相手が変わったことではなく、理解してくれる人が職場にいたことでした
最後の1点がいちばん大事です。2つの苦しさのうち解消できたのは「理解してもらえない苦しさ」のほうで、意思疎通は最後まで改善していません。それでも状態は変わっています。
支える立場の人ほど、消耗が見えにくくなります
(前略)就労となると社会や作業のルールマナーを守ってもらえない事が支援者としての大きなストレスとなり、葛藤の毎日です。自身のメンタルヘルスに大変役立つ学びでした。
50代の方の回答です。支援を仕事にしている方でも、「葛藤の毎日」になります。
(前略)この子はもっとじっくりと話を聞く必要がある子だと思う…(中略)でも、私は教師ではなく支援員…あくまで支援員…自分の立場、自分の持っている児童発達支援士の資格、そしてメンタルヘルス支援士の勉強中…いろいろな面からの、いろいろな気持ちが湧いて、モヤモヤとしました。
40代の方の回答です(総合評価は「普通」)。できることと、立場上してよいことが一致しない。この居心地の悪さは知識を足しても消えません。耐えられないのは、あなたが弱いからではありません。
職場で消耗している人は、どんな人か|146人のデータ
ここからは、当協会の一次情報をご紹介します。資格に申し込んだ146人が、何を理由に学びに来ているかのデータです。
最も多かった動機は、「身近に精神疾患または症状がある方がいる(過去にいた)から」で86人(58.9%)でした。この86人の内訳を見ると、読者像がはっきりします。
| 属性 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 女性 | 72人 | 83.7% |
| 男性 | 13人 | 15.1% |
| 40代 | 35人 | 40.7% |
| 50代 | 27人 | 31.4% |
| 30代 | 13人 | 15.1% |
40代と50代で62人、全体の72.1%を占めます。職場では中堅から管理職にあたる年代で、指導する側・まとめる側に回っていることが多く、「困っている」と言い出しにくい立場でもあります。
職種は医療・福祉業53人(36.3%)、教育業・学習支援業30人(20.5%)で、この2つで半数を超えます。人と関わることが業務そのものの職場、つまり「関係がうまくいかない」ことがそのまま仕事の失敗として跳ね返る環境です。
⚠ ただし、この146人に職場の人間関係を尋ねた設問はありません。お見せしているのは「どんな立場の人が学びに来ているか」であって、「職場でカサンドラ症候群になった人が何人いるか」ではありません。
職場でできること、できないこと
相手を変えることも、診断を受けさせることも、特性を認めさせることもできません。そのうえで、できることを整理します。
| できること | やらないほうがよいこと |
|---|---|
| やりとりを口頭ではなくテキストに残す | 相手の言動を記録して「証拠」を集める |
| 依頼を「察してもらう」前提にせず、期限と分量を数字で伝える | 相手に特性の記事や本を読ませようとする |
| 自分の不調を、産業医・保健師・社内の相談窓口に相談する | 同僚に相手の話をして味方を増やす/「発達障害では」と第三者に伝える |
| 理解してくれる人を、職場の中にひとり見つける | ひとりで抱えて、限界まで我慢する |
右の列は、どれも気持ちとしては分かります。ただ相手のラベリングに向かう行動は、状況を悪くします。噂が回れば職場全体の関係が壊れ、本人に届けばあなたの立場のほうが危うくなります。
自分の不調は、自分の主訴として相談する
相手の説明から始める必要はありません。「眠れない」「朝になると動悸がする」といった、いま自分に起きていることを伝えるだけで構いません。カサンドラ症候群という診断名はつきませんが、不眠や抑うつは診療の対象です。
相談先は産業医、保健師、衛生管理者、社内の相談窓口です。産業医のいない小さな職場では地域産業保健センターが無料で応じています。社内で話しにくい場合は、厚生労働省「こころの耳」に働く人向けの窓口があります。
理解してくれる人を、ひとり見つける
先ほどの30代の方の回答で、状態が変わったきっかけは「周りの理解してくれる同僚に助けられました」でした。全員に分かってもらう必要はありません。
裏を返せば、ひとりでも理解する人が現れた時点で、2つ目の苦しさは半分になります。相手との関係が変わらなくても、です。
悪口を共有できる人を探すという意味ではありません。「あの人とのやりとり、しんどいんだよね」に「そうだよね」と返る人が、ひとりいればいいということです。
>ASDの同僚にストレスを感じるとき|先に体に出るのは、こちら側です
メンタルヘルス支援士について
ここまで、職場で起きるカサンドラ症候群と、支える側146人のデータをご紹介しました。
こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格の有無が支援の基準になるものではありませんし、取れば相手を変えられるわけでもありません。身近な人と日々関わる方が専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。何が学べて何が学べないのかは別の記事で整理しています。
Q&A|職場のカサンドラ症候群に関するよくある質問
Q1:同僚が発達障害かどうか、確かめる方法はありますか?
ありません。診断ができるのは医師だけで、本人が受診しない限り分かりません。そして確かめられても、あなたの不調は変わりません。相手の状態ではなく、自分に起きていることを相談先に伝えてください。
Q2:上司に相談したら「あなたの伝え方の問題」と言われました。
「2つ目の苦しさ」がまさにそれです。関係の外にいる人には、その中で起きていることは見えません。伝え方を変えても解決しないことは実際にあります。上司で止まる場合は、産業医・保健師・社内の相談窓口など、評価の系統から外れた相談先を使ってください。
Q3:異動や退職を考えるのは、逃げでしょうか。
逃げではありません。距離を置くことは有効な選択肢のひとつです。互いのメンタルヘルスが悪化して精神疾患を患うことと、距離を置くこと。どちらが得策かで考えてください。ただし決めるのはご自身です。この記事が異動や退職を勧めることはありません。
まとめ|相手ではなく、自分を主語にする
| 論点 | この記事で確認したこと |
|---|---|
| 職場でも起こるか | 起こる。受講後アンケート248件にも、職場の同僚との関係で症状が出たという回答が1件あった |
| 職場のほうが厳しい点 | 関係を選べない・評価が絡む・感情を出せない・相談先が身内にない |
| できること | 相手の診断は確かめられないし、確かめても不調は軽くならない。やりとりを文字に残す/数字で伝える/自分の不調を主訴として相談する/理解者をひとり見つける |
| 回復のきっかけ | 相手が変わることではなく、理解してくれる人が現れること |
| 一次情報 | 受講動機1位は「身近に精神疾患または症状がある方がいる」86人(58.9%)。うち女性72人・40〜50代62人 |
相手を変えることはできません。それでも、自分に起きていることを言葉にして、受け取ってくれる人に渡すことはできます。心身の不調のほうが気になった方は、そちらを先に扱ってください。

>カサンドラ症候群から抜け出すには|相手のASDより、自分の不調が先
【注意事項】
この記事で紹介している内容は、当協会の公式テキストおよび当協会が収集したアンケート・体験談の一部をもとにまとめています。カサンドラ症候群は DSM-5-TR・ICD-11 に記載のある疾患名ではなく、本記事は診断・治療を目的としたものではありません。心の状態や必要な支援は一人ひとり異なり、一律の正解はありません。気になる症状や不安がある場合は、早めに医師・専門機関・お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。


