家族の様子がおかしい。病院にはかかった。でも、家でどう接すればいいのかは誰も教えてくれない。そういう状態で、自分から調べ始める方がいます。
先にお伝えしておきます。治すことは、家族の仕事ではありません。診断も治療も医師の役割です。家族ができるのは、休める環境をつくること、話を聴くこと、必要なときに医療につなぐこと。この3つです。
この記事では、厚生労働省が家族向けに示している関わり方と、本人が動かないときに家族だけで使える相談先を先に整理します。そのうえで、同じ立場で学びに来た当協会の受講者86名のデータをご紹介します。
たとえば、次のことが分かります。
- 厚生労働省は、こころの病になった方には「励まさない」ことを挙げています。よかれと思った励ましが、症状を悪化させることがあるためです
- 本人が受診を拒んでいても、家族だけで相談できる窓口があります。保健所には、家庭を訪問してもらえる場合もあります
- こころの病気で通院している人は281.1万人。精神障害者保健福祉手帳は154.7万人で、5年間で31.1%増えています
- 当協会の受講者146名のうち86名(58.9%)が「身近に精神疾患または症状がある方がいる」を理由に挙げ、そのうち78名は、他の理由も同時に持っていました
>メンタルヘルスの資格はどんな人が取る?受講者146人の年代・職種・動機データ
まず、治すことは家族の仕事ではありません
診断名がついた直後、家族は「何かしなければ」と思います。ところが、できることの多くは、しないほうがよいことのほうです。
厚生労働省の「こころの耳」には、家族向けのページがあります。そこに書かれていることを、この記事の順番で並べ直します。
励まさないでください
いちばん多い行き違いがここです。「頑張って」「気の持ちようだよ」は、励ましのつもりで言われます。ですが厚生労働省は、すでに頑張りすぎてこころの病になった場合、励まされることで症状を悪化させてしまうことがあるとしています。
代わりに置かれているのが、安心して休息できる場をつくることです。特別なことをするのではなく、家のなかで気を張らずにいられる状態を保つ。それが最初の一手だとされています。
気晴らしを用意しなくてかまいません
旅行に連れ出す、外食に誘う、趣味を再開させる。よく考えつく方法ですが、こころのエネルギーが消耗している状態では、普段は楽しめることも楽しめず、かえって疲労感が増すことがあるとされています。
「何もしてあげられていない」と感じる時期が続きます。ですが、何もしないでいられることが、この時期の支えです。
大きな決断は、先延ばしにしてもらう
退職、離婚、転居といった重大な決定は、調子が落ちているあいだは先送りにするよう勧められています。伝え方としては、「今はまず健康に留意することを最優先しましょう」という形が示されています。
止める理由を家族が背負わず、「主治医もそう言っている」という形にできると、関係が壊れにくくなります。
受診をすすめるときは、症状ではなく心配を伝える
「病院に行ったほうがいい」は、多くの場合そのまま受け取ってもらえません。示されている言い方は、「疲れが抜けない状態がずっと続いているのが心配」のように、症状の指摘ではなくこちらの気持ちを伝える形です。
初回の受診には付き添うことが望ましいとされています。ただし毎回同席する必要はなく、付き添った場では家族がしゃべりすぎないようにとも書かれています。本人が自分の言葉で話す場を残しておく、ということです。
出典:厚生労働省「こころの耳」内「ご家族にできること」。リンクは記事末の「参考・相談先」に掲載しています。原文の表現を、記事向けに整えて紹介しています。
本人が動かないときも、家族だけで相談できます

いちばん行き詰まるのが、本人が受診を拒んでいるときです。説得しようとするほど関係が悪くなり、その後の受診がさらに遠のきます。
このとき使えるのが、本人が行かなくても家族だけで相談できる窓口です。存在は知られていますが、家族が使えることはあまり知られていません。
| 相談先 | できること | 本人が行かなくてよいか |
|---|---|---|
| 保健所 | こころの健康・保健・医療・福祉の相談。保健師、医師、精神保健福祉士などの専門職が対応。家庭を訪問して話を聞いてもらえる場合もあります | 家族だけで可 |
| 市町村(保健センター) | 医療や福祉についての身近な相談。保健師による訪問もあります | 家族だけで可 |
| 精神保健福祉センター | こころの健康と精神科医療についての相談。電話や面接で相談でき、医師・看護師・保健師・精神保健福祉士などが配置されています。各都道府県と政令指定都市に設置 | 家族だけで可 |
| 家族会 | 家族同士の交流と、困りごとの話し合い。治療・社会資源・福祉制度の勉強会もあります | 家族が主役の場 |
| 医療機関(精神科・心療内科) | 診断と治療。家族相談を受け付けている医療機関もあります | 治療には本人の受診が必要 |
出典:国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」内「相談しあう・支えあう」の記述をもとに、当協会が整理しました。
「まだ診断もついていないのに相談していいのか」と迷う方がいます。実際の相談内容を見ると、そのほうが多数派です。
令和6年度に全国の精神保健福祉センターが受けた相談は、延べ81,615人でした。相談の要因別に見ると、最も多いのはひきこもり21,235人(26.0%)で、次いで発達障害6,680人(8.2%)です。診断名がついていない段階の相談が、いちばん多く持ち込まれています。
※ 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」をもとに、割合は当協会が算出しました。
家族会という場所があります
家族会は、同じ立場の家族が集まる場です。全国組織として公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)があり、47都道府県の家族会連合会とつながっています。オンラインの家族学習会や、匿名で使えるコミュニティもあります。
行政の窓口とは役割が違います。制度の説明ではなく、「その状況で、うちはこうした」という話が聞ける場所です。
使える制度を、先に知っておく
通院が続くと、費用と手続きの話が出てきます。必要になってから調べると間に合わないことがあるので、名前だけでも先に知っておくほうが楽です。
- 自立支援医療(精神通院医療)|通院にかかる医療費の自己負担を軽くする制度です。統合失調症、てんかんを含む精神疾患で、通院による治療を続ける必要がある方が対象。実施主体は都道府県と指定都市で、申請には主治医の診断書が必要です。窓口と必要書類は自治体で異なるため、市区町村の障害福祉の担当課で確認してください
- 精神障害者保健福祉手帳|等級は1級から3級。税の控除や公共料金の割引など、自治体ごとに定められた支援を受けられます。令和6年度末の交付台帳登載数は1,547,433人で、5年間で31.1%増えています(厚生労働省「衛生行政報告例」/増加率は当協会が算出)
- 精神科訪問看護|看護師などが自宅に来て、生活や服薬の相談に乗る仕組みです。本人が外に出られない時期の選択肢になります。主治医の指示が必要です
- 障害年金・傷病手当金|収入が途切れたときの制度です。年金事務所や加入している健康保険の窓口で確認してください
⚠ 制度の内容と手続きは、自治体や年度によって変わります。この記事は制度の存在をお伝えするところまでです。実際の可否と金額は、必ず窓口でご確認ください。
同じ立場の人は、どれだけいるのか
支えている側は、自分だけが特別な状況にいるように感じます。数字で見ると、そうではありません。
2025年の国民生活基礎調査では、うつ病やその他のこころの病気で通院している人は281.1万人(人口千人あたり23.5人)でした。手帳を持っている方は154.7万人。そのひとりひとりの後ろに、支えている家族がいます。
ここからは、当協会の一次情報です。受講前アンケート146件で最も多く選ばれた動機が、「身近に精神疾患または症状がある方がいる(過去にいた)から」86名(58.9%)でした。8つの選択肢のなかの1位です。
この86名の回答には、はっきりした特徴がありました。
| 86名について分かったこと | 数字 | 146名全体 |
|---|---|---|
| この動機「だけ」を選んだ人 | 8名(9.3%) | 23.3%が1つだけ |
| 選んだ動機の平均個数 | 2.78個 | 2.40個 |
| 同時に「現在の仕事に活かせる」も選んだ | 43名(50.0%) | ― |
| 同時に「子育てに活かせる」も選んだ | 34名(39.5%) | ― |
| 同時に「自身に精神疾患または症状がある」も選んだ | 26名(30.2%) | ― |
| 職種(10分類のうち何分類に分布したか) | 10分類すべて | ― |
| 年代の中心 | 40代35名・50代27名 | 10代〜60代に分布 |
読み取れることは3つです。ひとつ。支えることだけを理由に学んでいる人は、8名しかいません。残る78名は、仕事や子育てと並べてこの動機を挙げています。支えることは、他の役割を止めて始まるものではありませんでした。
ふたつ。26名(30.2%)は、自分自身にも症状があると答えています。3人に1人近くが、支える側であると同時に当事者です。
みっつ。職種は10分類のすべてに分布していました。医療・福祉業は53名中29名(54.7%)ですが、専業主婦(主夫)は21名中14名(66.7%)で、そちらのほうが高い水準です。支える側になることは、職業と関係なく起こります。
受講後の記述には、この立場の重さを一文で言い表したものがありました。
発達障害が家族にいる場合、第三者が職業として支援するのとは、格段に違う辛さがあると感じます。
60代以上の方の回答です。総合評価は「普通」でした。職業としての支援には、勤務時間と交代要員と、相談できる同僚があります。家庭にはそのどれもありません。だからこそ、この記事の前半で挙げた窓口が要ります。
>メンタルヘルスの資格一覧|結局どれ?目的別に選ぶ(146人調査)
支える側が、先に消耗しないために
受講後の記述から、家族を支える立場の3件を紹介します。どれも「治す」ではなく「理解する」に着地しているのが共通点です。
社会人になる発達障害グレーゾーンの息子に対して、何を知っておくべきか、という視点から始めた受講でした。児童発達支援士から3講座目となり、息子が迷った時に少しでも力になれる事があればと思っています。まだまだ偏見がある世の中ですが、同じ立場の方々と力強く生き抜いていって欲しいと願っています。
50代の方の回答です。総合評価は「満足」でした。「何を知っておくべきか、という視点から始めた」。支える側の学びは、症状を治すためではなく、次に何が起こりうるかを知っておくために始まることが多いようです。
娘が社交不安症になってしまったことについて、あれこれと考えてしまうことがありましたが、ASDも持っていることで、ASDの43~84%で不安症を併存する確率が高いことが分かり、理解をすることができました。なかなか不安症を治すことは難しく、今は、ASDも不安症&強迫症も含めて娘を理解していきたいと思っています。これから、娘の希望が叶うように、また、安心して過ごせるような進学や就職ができるような環境を求めていきたいです。
50代の方の回答です。総合評価は「満足」でした。「なかなか不安症を治すことは難しく」と認めたうえで、「含めて娘を理解していきたい」に進んでいます。治すことは医療の仕事で、家族の仕事ではありません。分かれ目を引けたことが、この方の負担を軽くしているように読めます。
自身がasdでパートナーも統合失調症ですが、お互いの関わることについて、役に立たせて頂いた講座でした。
30代の方の回答です。総合評価は「大満足」でした。支える側と支えられる側が、はっきり分かれていない場合です。表の26名(30.2%)は、この形です。
ここまでを踏まえて、支える立場の方に2つお伝えしておきます。
ひとつ。学ぶことは、休むことの代わりにはなりません。消耗しているときに知識を足しても、扱う余力がありません。眠れない状態や強い疲れが続いているなら、学ぶより先に相談窓口や医療機関につないでください。
ふたつ。ひとりで抱えている状態を、当たり前だと思わないでください。家族が相談することは、本人を裏切ることではありません。支える側が倒れると、支えられる側の生活も止まります。
メンタルヘルス支援士について
ここまで、家族にできることと相談先、使える制度、そして同じ立場で学んだ86名のデータをご紹介してきました。こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを、体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格の有無が支援の基準になるものではありませんし、取れば診断や治療ができるようになるわけでもありません。身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。ひとりで学び進められるかどうかについては、サポート体制を扱った記事で整理しています。
Q&A|家族が精神疾患になったときのよくある質問
Q1:家族が精神疾患と診断されました。まず何をすればよいですか?
診断が出た直後にできることは、多くありません。治療の方針は主治医が決めるもので、家族が代わりに判断するものではないからです。できるのは、通院を続けられる環境を整えること、生活のリズムを大きく崩さないこと、そして本人以外の相談先を、自分のために確保しておくことです。あわせて、自立支援医療(精神通院医療)の対象になるかを市区町村の窓口で確認しておくと、通院が続くときに負担が変わります。
Q2:「頑張って」と言ってはいけないのですか?
厚生労働省は、すでに頑張りすぎてこころの病になった場合、励まされることで症状を悪化させてしまうことがあるとしています。言ってしまったことを悔やむ必要はありませんが、これからは「頑張って」を「休んでいていい」に置き換えるほうが伝わります。
Q3:家族が受診を拒んでいます。どうすればよいですか?
本人を説得しようとする前に、家族だけで相談できる窓口を使ってください。保健所、市町村の保健センター、精神保健福祉センターは、本人が来られない段階でも家族の相談を受け付けています。無理に連れて行こうとすると関係が悪くなり、その後の受診がさらに遠のくことがあります。本人を動かすことより、支える側が一人にならないことを先に考えてください。
Q4:自分もしんどいのですが、支え続けられるでしょうか?
当協会の受講者では、この動機を選んだ86名のうち26名(30.2%)が「自身に精神疾患または症状がある(過去にあった)から」も選んでいます。支える側と当事者が分かれていないことは、珍しくありません。ただし、学ぶことは休むことや治療の代わりにはなりません。眠れない・強い疲れが続くといった状態があるなら、学ぶより先に医療機関や地域の相談窓口につないでください。
Q5:家族が学ぶことで、本人の状態はよくなりますか?
よくなるとは言えません。当協会に、受講後の家族の状態を追跡したデータはありません。受講者の記述でも、着地しているのは「治す」ではなく「理解する」のほうでした。知識は、関わり方の選択肢を増やすものであって、症状に効くものではありません。
まとめ|家族の仕事は、治すことの手前と、そのあとにある

| 場面 | 支えている方への意味 |
|---|---|
| 接し方 | 励まさない・気晴らしを用意しない・大きな決断は先延ばしに。「何もしないでいられること」がこの時期の支え |
| 受診をすすめる | 症状の指摘ではなく「心配している」を伝える。初回は付き添い、そこでは家族がしゃべりすぎない |
| 本人が動かない | 家族だけで相談できます。保健所・市町村・精神保健福祉センター。保健所は家庭訪問できる場合もある |
| 制度 | 自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳・精神科訪問看護。名前だけでも先に知っておく |
| 同じ立場の人 | 通院している人は281.1万人、手帳は154.7万人。支えている家族は、その後ろにいます |
| 86名のデータ | 支えることだけを理由に学んだ人は8名で、他の役割と並行しているのが標準。26名(30.2%)は自分にも症状がある |
家族が精神疾患になったとき、やることが多すぎるように見えます。実際には、やらなくていいことのほうが多く、やることは決まっています。治すのは医療の仕事です。
そして、家族だけで相談できる窓口は、いまこの瞬間から使えます。支える側が一人にならないことが、いちばん長く続く支え方です。
本記事で紹介している情報について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 家族の関わり方 | 厚生労働省「こころの耳」内「ご家族にできること」の記述によります。原文の表現を、記事向けに整えて紹介しています |
| 相談先の整理 | 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」内「相談しあう・支えあう」の記述によります |
| 相談件数・手帳の人数 | 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」。相談要因の構成割合と、手帳の5年間の増加率は当協会が算出しました |
| 通院している人の数 | 厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査」統計表 第9表 |
| 権威の帰属 | 制度と関わり方の記述は、厚生労働省ほか公的機関の公表資料に基づくものです。当協会は引用者であり、これらの機関の監修・認定・推奨を受けたものではありません |
| 情報の性質 | 一般社団法人 人間力認定協会「メンタルヘルス支援士 受講前アンケート」および「受講後アンケート」より抜粋 |
| 調査期間・回答数 | 受講前 2025年2月〜2026年8月・146件(うち該当86件)/受講後 2025年3月〜2026年8月・248件 |
| 分析方法 | 「身近に精神疾患または症状がある方がいる(過去にいた)から」を選んだ86名について、動機の選択個数・同時に選ばれた動機・職種・年代を集計し、146名全体と比較 |
| 注意点 | 「身近な人」が誰かを尋ねる設問はありません。家族・親族・友人・同僚のいずれも含まれます。本文で家族の記述を紹介していますが、86名全員が家族のことを指しているわけではありません |
| 注意点 | 受講者のデータと公的統計は、母集団も取得方法も違います。同じ表には並べていません。また受講前アンケートと受講後アンケートは別々の調査で、動機と記述を個人単位で結びつけることはできません |
| 制度について | 制度の内容・要件・手続きは、自治体や年度によって変わります。本記事は制度の存在をお伝えするまでで、実際の可否は窓口でご確認ください |
【注意事項】
この記事で紹介している内容は、公的機関の公表資料および当協会が収集したアンケート・体験談の一部をもとにまとめています。心の状態や必要な支援は一人ひとり異なり、一律の正解はありません。また、本記事は診断・治療を目的としたものではありません。気になる症状や不安がある場合は、早めに医師・専門機関・お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。ご本人やご家族に「消えてしまいたい」という気持ちが出てきたときは、様子を見ずに、すぐ下記の窓口か医療機関にご連絡ください。


