診断書を差し出されて、どう受け取ればいいのか一瞬わからなくなる。何を言えば正解なのか、どこまで聞いていいのか、誰に伝えるべきなのか。診断が出た直後の数日は、上司にとっても判断の連続です。
この記事は、診断書を受け取った直後にすることを整理したものです。先に立場をはっきりさせておきます。
診断をするのは医師です。上司がするのは環境の調整です。この記事は診断・治療を目的としたものではなく、症状の見分け方も扱いません。扱うのは、診断がすでに出たあとに、職場の側でできる事務と関わり方だけです。
また、復職の話はこの記事では扱いません。休職から戻ってくる段階は考えることが別なので、記事を分けています(最後にリンクを置いています)。
>メンタルヘルスの資格はどんな人が取る?受講者146人の年代・職種・動機データ
診断書を受け取ったら、まず何をするか
順番があります。焦って全部を同時にやろうとすると、たいてい情報の扱いで失敗します。
- その場で受け取り、内容を評価しない/「本当に休む必要があるの?」は禁句です。診断書は医師の判断であり、上司が是非を論じる対象ではありません。まず受け取ったことを伝えます
- 記載されている期間と指示を確認する/「◯か月の休養を要する」「業務軽減が望ましい」など、書かれていることだけを読み取ります。書かれていないことは推測しません
- 本人の希望を1点だけ聞く/「周囲にはどこまで伝えていいですか」。これだけは本人に確認が必要です。他のことは後回しで構いません
- 人事・産業医に連絡する/休職の手続き、傷病手当金、就業規則上の取り扱いは、上司が単独で判断する範囲を超えます。当日中に共有します
- 業務の引き継ぎを、本人抜きで組み立てる/引き継ぎ資料の作成を本人に頼まないでください。休養に入る直前の負荷を増やすことになります
うつ病の支援で何より大切になるのは、しっかりと休養をとることです。職場に強いストレスがある場合は、休職または退職も対処のひとつになります。診断書が出た時点で、職場の側の目的は「休養を確保すること」に切り替わります。
診断書に書かれていないこと
診断書に書かれているのは、病名(または「療養を要する」といった記載)と期間、そして必要な配慮の概要までです。原因は書かれていません。職場に原因があるのかどうかも、たいていは書かれていません。
ここで「何が原因だったのか」を突き止めようとすると、本人への聞き取りになってしまいます。原因の特定は、必要であれば産業医や人事が労務の枠組みで行うことです。上司が単独で始めることではありません。
本記事で紹介している情報について

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| この記事の位置づけ | 診断・治療を目的としたものではありません。症状の見分け方は扱いません。医師による監修は受けていません |
| 治療・支援の記述について | 当協会が資格教材にまとめている内容にもとづきます(『公式マスターブック メンタルヘルス支援士』一般社団法人 人間力認定協会・2025年3月1日 初版第一刷/第1章1-2「うつ病の基礎知識と支援方法」) |
| データの性質 | 一般社団法人 人間力認定協会「メンタルヘルス支援士 受講前アンケート」(取得者も同協会)/2025年2月27日〜2026年7月25日・146件 |
| ⚠ 一次情報の限界 | 受講前アンケートに役職(管理職・人事)を尋ねる設問はありません。受講後アンケートの自由記述にも「部下」「診断書」「休職」に触れた回答は含まれていません。したがって本記事の受講者の声は「上司の声」ではなく「支援する立場で学んでいる受講者の声」です |
| 労務手続きについて | 休職の手続き・傷病手当金・就業規則上の取り扱いは会社ごとに異なります。本記事は制度の説明を目的としたものではありません。必ず自社の人事・産業医にご確認ください |
受講者の声は、受講後アンケート(248件・2025年3月8日〜2026年8月20日)の自由記述欄・体験談欄から原文どおり転載しています。
やること・やってはいけないこと
診断が出たあと、善意でやってしまいがちなことを対比で並べます。
| 場面 | やること | やってはいけないこと |
|---|---|---|
| 診断書を受け取るとき | 受け取ったことを伝え、期間と指示を確認する | 診断の妥当性を論じる/「本当に休むの?」と聞く |
| 本人への声かけ | 「手続きはこちらで進めます」と負担の所在を示す | 「頑張れ」「早く戻ってきて」と励ます・急がせる |
| 原因について | 必要なら産業医・人事の枠組みで扱う | 上司が単独で原因を聞き取る |
| 引き継ぎ | 本人抜きで組み立て、分からない点だけ後日1回にまとめる | 休養前に引き継ぎ資料の作成を依頼する |
| 周囲への説明 | 「休職に入る」「業務を分担する」という事実まで | 病名・原因・診断書の内容を共有する |
| 評価・処遇 | 就業規則と人事の判断に沿って処理する | 上司の裁量で評価や配置を先に決める |
右の列に共通しているのは、上司が「判断する人」になってしまっていることです。診断が出た時点で、判断の多くは医師・産業医・人事に移ります。上司の役割は判断ではなく、本人の負担を増やさずに業務を回す設計に変わります。
うつ病になりやすい人の特徴として挙げられるのは、真面目な人、完璧主義な人、責任感が強い人です。だからこそ、休職に入る本人ほど「引き継ぎをきちんとしてから」と考えます。その責任感を職場が受け取らないことが、いちばん実効性のある配慮になります。
>ラインケア チェックリスト|部下ではなく、自分の対応を点検する
本人・周囲への情報の扱い
健康に関する情報は要配慮個人情報にあたり、本人の同意なく共有できるものではありません。診断書そのものを回覧する、朝礼で病名を伝える、といった扱いは避けてください。
実務上は、次の3段階で線を引くと整理しやすくなります。
- チーム全体に伝えること/「◯◯さんはしばらく休職します」「業務は△△が引き継ぎます」という運用上の事実だけ
- 直接の関係者にだけ伝えること/復帰時期の見込みが未定であること、連絡は上司経由にすること
- 人事・産業医に限ること/診断書の内容、病名、医師の指示
本人に確認するのは「周囲にはどこまで伝えていいですか」の1点で足ります。ここを確認しておくと、あとで「勝手に言われた」という不信が生まれません。
休職中の連絡はどうするか
連絡の頻度に決まった正解はありませんが、次の3点を先に決めておくと、双方の負担が減ります。
- 窓口を1人に決める/複数人から連絡が入る状態は避けます。上司か人事のどちらかに集約します
- 頻度と手段を先に合意する/「月1回、メールで」など、休職に入る前に決めておきます。決めておけば、連絡が来ないこと自体が不安の材料になりません
- 内容は事務連絡に限る/傷病手当金の書類、健康保険の手続き、次回の面談日程。業務の状況や職場の様子は、本人から聞かれない限り伝えません
「気にかけていることを伝えたい」という気持ちは自然ですが、職場からの連絡は本人にとって「戻らなければ」という圧力として届くことがあります。関心を示すより、連絡しないと決めた期間があることのほうが安心につながる場合が少なくありません。
支援される側からは、どう見えているか
ここからは当協会の一次情報です。ただし先にお伝えしたとおり、受講者に役職を尋ねた設問はありません。以下は「上司の声」ではなく、支援する立場で学んでいる方の声としてお読みください。
まず、支援される側と支援する側の両方を経験した方の回答です。
自身がasdでパートナーも統合失調症ですが、お互いの関わることについて、役に立たせて頂いた講座でした。自身がasdなので、支援者が自分にどんなことを伝えたいのか、助言したいのか、ということについて、学ばせて頂いてなるほどと思いました。
30代の方の回答です。支援する側の意図を、支援される側が学んで初めて理解したという順序が書かれています。裏を返せば、意図は自然には伝わらないということです。「あなたのためを思って」の中身は、言葉にしないと届きません。診断が出た直後の場面で言えば、「手続きはこちらで進めます」「連絡は月1回にします」と具体的に伝えることが、いちばん確実な配慮の伝え方になります。
海外補習校小学部で教員をしています。メンタル障害のお子さんが増え、対応の仕方など、本当に役に立っています。感謝しております。
50代の方の回答です。「対応の仕方」という言葉が使われています。診断名を知ることではなく、対応の型を持てることが役に立った、という内容です。
(前略)大人も子供も困り感は同じなので、これからは大人の発達障害の学びもしていきたいと思っています。
50代の方の回答です。「困り感は同じ」という表現が、この記事の背景にある考え方と重なります。診断名が違っても、説明を求められること・急かされること・勝手に伝えられることの負担は共通しているということです。
いっぽうで、学ぶこと自体の負担に触れた声もありました。
1章(精神疾患)のボリュームが多く、内容も細かいと感じました。他の章の学習時よりも集中し続けるのが難しく感じました。
30代の方の回答です。精神疾患の章は9種類を扱うため、量が多くなります。ただ、診断が出たあとの対応に必要なのは、疾患の網羅的な知識ではありません。この記事に書いたことの大半は、病名を知らなくても実行できます。知識は、あとから追いつけば十分です。
サインに気づく段階に戻るなら
診断が出る前の段階——職場で変化に気づくところから整理したい場合は、別の記事にまとめています。当協会が作成した簡易チェックリスト18項目のうち、【周囲が気づく変化】7項目を職場の文脈で扱ったものです。
>うつ病のチェックリスト|職場で気づけるのは外から見える変化だけ
復職の受け入れについて
休職から戻ってくる段階は、受け入れ側の準備で結果が変わります。復職の可否を決めるのは主治医と産業医ですが、業務量の戻し方や面談での聞き方は職場の仕事です。
>休職からの復職を受け入れるとき|受け入れ側の準備と再休職を防ぐ視点
メンタルヘルス支援士について
ここまで、診断書を受け取った直後にすることを整理してきました。
こうした理解と合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格を取れば診断ができるようになるわけではありません。むしろこの記事の趣旨は、上司が診断に踏み込まないことにあります。何が学べて何が学べないのかは、別の記事で整理しています。
>メンタルヘルス支援士の内容|学べること・学べないことを受講者248人のデータで
Q&A|部下がうつ病と診断されたときのよくある質問
Q1:診断書の内容に納得できない場合、確認してもよいですか?
上司が本人に問いただすことは避けてください。診断は医師の判断であり、その妥当性を職場が論じる立場にはありません。休職期間や配慮の内容について確認が必要な場合は、産業医を通じて主治医に照会する手続きがあります。人事に相談してください。
Q2:周囲から「なぜ休めるのか」と不満が出た場合はどうしますか?
伝えるのは「休職に入る」「業務を分担する」という運用上の事実までにとどめ、病名や理由は伝えません。健康に関する情報は要配慮個人情報にあたるためです。あわせて、業務の再分配で負担が偏らないよう調整することが、不満への実質的な対応になります。
Q3:休職中に本人から「戻りたい」と連絡が来たら?
気持ちは受け止めつつ、復職の可否は主治医と産業医が判断することを伝えてください。上司が「じゃあ来月から」と応じてしまうと、手続きが飛んだ復帰になり、再休職につながりやすくなります。産業医面談の日程調整を提案するのが、最も安全な返し方です。
まとめ|判断しない、負担を増やさない

| 論点 | この記事で確認したこと |
|---|---|
| 上司の役割 | 診断でも治療でもなく、休養の確保と業務の設計 |
| 受け取り方 | 内容を評価しない。期間と指示だけを読み取る。原因は診断書に書かれていない |
| 本人に確認すること | 「周囲にはどこまで伝えていいですか」の1点だけ |
| 引き継ぎ | 本人抜きで組み立てる。休養前に資料作成を依頼しない |
| 情報の扱い | チーム=運用上の事実まで/人事・産業医=診断書の内容。病名は共有しない |
| 休職中の連絡 | 窓口を1人に、頻度と手段を先に合意し、内容は事務連絡に限る |
診断が出た直後に上司ができることは、実はそれほど多くありません。ただ、やってはいけないことを避けるだけで、結果はかなり変わります。判断は医師と人事にまかせて、負担を増やさない設計に集中する。それがこの記事の結論です。
【注意事項】
この記事の内容は、当協会の公式テキストおよび当協会が収集したアンケート・体験談の一部をもとにまとめています。心の状態や必要な支援は一人ひとり異なり、一律の正解はありません。また、本記事は診断・治療を目的としたものではなく、症状の見分け方を扱うものでもありません。医師による監修は受けておらず、受診の要否を判断するものでもありません。休職の手続きや労務上の取り扱いは会社ごとに異なるため、必ず自社の人事・産業医にご確認ください。気になる症状や不安がある場合は、早めに医師・専門機関・お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。


