復職の日程が決まった。ところが受け入れる側になってみると、決めなければいけないことが次々に出てきます。どの業務から戻すのか、どこまで気を遣えばいいのか、周囲にどう説明するのか。本人の回復と同じくらい、受け入れ側の準備が結果を左右します。
先に立場をはっきりさせておきます。復職の可否を決めるのは主治医と産業医です。上司や人事が判断する部分ではありません。この記事は診断・治療を目的としたものではなく、扱うのは復職の可否が決まったあとに、職場の側でできる準備と関わり方です。
また、診断が出た直後の対応はこの記事では扱いません。診断書を受け取ってから休職に入るまでの段階は、別の記事に分けています(最後にリンクを置いています)。
>メンタルヘルスの資格はどんな人が取る?受講者146人の年代・職種・動機データ
復職までの流れと、職場が関わる場所
会社によって手続きの名称は違いますが、おおむね次の順で進みます。
- 主治医の診断書/「復職可能」の判断が出ます。ただしこれは日常生活が送れる水準を指していることがあり、業務に耐えられるかどうかとは必ずしも一致しません
- 産業医面談/業務内容を踏まえて、就業上の措置が検討されます。ここが職場と医療の接続点です
- 復職判定/人事が就業規則にもとづいて決定します
- 段階的復帰/短時間勤務や業務限定から始め、徐々に戻します
職場が関わるのは主に4番です。1〜3で決まったことを覆さない、というのが受け入れ側の最初の原則になります。「本人が大丈夫と言っているから前倒しで」「繁忙期なので早めに通常業務へ」は、いずれも判定の枠組みを壊してしまいます。
>休職から復職までの流れ|立場と段階で次にやることを案内します
本記事で紹介している情報について

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| この記事の位置づけ | 診断・治療を目的としたものではありません。復職の可否を判断するためのものでもありません。医師による監修は受けていません |
| 休養・支援の記述について | 当協会が資格教材にまとめている内容にもとづきます(『公式マスターブック メンタルヘルス支援士』一般社団法人 人間力認定協会・2025年3月1日 初版第一刷/第1章1-2「うつ病の基礎知識と支援方法」) |
| データの性質 | 一般社団法人 人間力認定協会「メンタルヘルス支援士 受講前アンケート」(取得者も同協会)/2025年2月27日〜2026年7月25日・146件 |
| ⚠ 一次情報の限界 | 受講前アンケートに役職(管理職・人事)を尋ねる設問はありません。受講後アンケートの自由記述にも「復職」「休職」に触れた回答は含まれていません。したがって本記事の受講者の声は「上司の声」ではなく「支援する立場で学んでいる受講者の声」です |
| 労務手続きについて | 復職判定の手順・試し出勤制度・就業規則上の取り扱いは会社ごとに異なります。本記事は制度の説明を目的としたものではありません。必ず自社の人事・産業医にご確認ください |
受講者の声は、受講後アンケート(248件・2025年3月8日〜2026年8月20日)の自由記述欄・体験談欄から原文どおり転載しています。
受け入れ側の準備|復職日までに決めておくこと
復職日の当日に決めようとすると、本人の前で調整が始まってしまいます。日程が決まった時点で、次の5つを先に固めておいてください。
- 初日の業務を、具体的に1つ決めておく/「まずは慣れることから」は、本人にとっては何をすればいいか分からない状態です。着地点のある小さな業務を1つ用意します
- 戻す業務の順番を決めておく/定型で・一人で完結し・締切が緩いものから。判断を伴う業務、対人折衝、締切の厳しい業務は後ろに置きます
- 周囲への説明を、文面で用意しておく/「◯◯さんが復帰します。当面は短時間勤務です。業務の依頼は私を経由してください」まで。理由や病名は伝えません
- 依頼の窓口を1人に決める/復帰直後に複数から仕事が来る状態は、断りづらさから過負荷につながります
- 次の面談日を、復職前に設定しておく/「何かあったら言って」ではなく、日付を先に押さえます。不調が出てから相談するのは、いちばん難しいタイミングです
5つのうち4つが「先に決めておく」ことなのは偶然ではありません。復帰直後の本人は、自分の状態を測りながら仕事をしています。そこに調整の判断まで載せないことが、受け入れ側の役割です。
復職面談で聞くこと・聞いてはいけないこと
上司が行う面談は、体調の確認ではなく業務の調整のために行います。医療的な判断はしません。
| 聞くこと | 聞いてはいけないこと |
|---|---|
| 今の勤務時間で、業務量は多いですか・少ないですか | もう治りましたか/完全に良くなりましたか |
| やりにくいと感じている業務はありますか | 原因は何だったのですか/何がストレスでしたか |
| 依頼の入り方(窓口・頻度)で困っていることはありますか | 診断書には何と書いてありましたか/薬は飲んでいますか |
| 次の面談まで、この進め方で問題なさそうですか | いつから通常勤務に戻れそうですか |
| 周囲への説明で、変えてほしい点はありますか | また休むことはありませんよね |
右の列に共通しているのは、本人に医療的な保証を求めていることです。「もう大丈夫です」と言わせてしまうと、そのあと不調が出たときに撤回しづらくなります。左の列のように業務の話に限定すると、答えやすく、修正もしやすい。これが実務上の違いです。
段階的な業務量の戻し方
戻し方には2つの軸があります。時間と難度です。この2つを同時に上げないのが原則になります。
- 時間を伸ばす期間は、業務の難度を据え置く/短時間勤務から通常勤務に戻す局面では、任せる仕事の種類は変えません
- 難度を上げる期間は、時間を据え置く/判断を伴う業務や対人折衝を戻す局面では、勤務時間は据え置きます
- 上げたら、次の面談まで維持する/数日で「大丈夫そうだから」とさらに上げない。本人は不調が出るまで気づきにくいためです
- 下げることを、あらかじめ選択肢に入れておく/「一度下げても後退ではない」と面談で先に伝えておくと、本人が申し出やすくなります
うつ病になりやすい人の特徴として挙げられるのは、真面目な人、完璧主義な人、責任感が強い人です。戻すペースの判断を本人に委ねると、たいてい速くなりすぎます。ペースを決めるのは職場の側だ、という前提で設計してください。
再休職を防ぐために
復職がうまくいかない場面には、いくつか共通した形があります。
- 元の職場・元の業務にそのまま戻す/うつ病の対処として、職場に強いストレスがある場合は休職または退職が挙げられます。ストレス源が業務そのものにあった場合、同じ配置に戻すことは休養の効果を打ち消します。配置転換の検討は、産業医・人事と早い段階で相談してください
- 復帰した瞬間に配慮が終わる/「戻ってきた=もう大丈夫」ではありません。配慮が必要な期間は、休職期間と同じかそれ以上になることもあります
- 周囲の負担が放置される/業務を引き受けた側に手当がないと、復帰した本人への視線が厳しくなります。受け入れ側の設計には、周囲の負担調整も含まれます
- 面談が「体調確認」だけになる/体調を聞くだけでは業務は変わりません。毎回、業務量と難度をどうするかまで決めてください
身近な方がうつ病を発症している場合の支援は、強いストレスがどこから来ているのかを見極め、休息を与えることから始めます。復職の場面でも同じで、ストレス源が特定されないまま戻すと、同じことが繰り返されます。
診断直後の対応に戻るなら
診断書を受け取った直後の初動——受け取り方、周囲への情報の扱い、休職中の連絡の決め方は、別の記事に整理しています。
>部下がうつ病と診断されたら|診断書を受け取った直後にすること
中断と再開を経験した人たちの声
ここからは当協会の一次情報です。ただし先にお伝えしたとおり、受講者に役職を尋ねた設問はありません。以下は「上司の声」ではなく、支援する立場で学んでいる方の声としてお読みください。復職そのものについての回答ではありませんが、いったん離れて戻るという経験に触れた声を選びました。
(前略)両親の介護が始まり一旦離職して時間の自由が利く高齢者デイサービスで働いています介護が落ち着き、復帰できた時のために広く知識を得たいと思い今回メンタルヘルス支援士を受講しました(中略)しかし毎日忙しく、また自身の年齢のせいもあり内容が中々頭に入らず時間がかかり苦労しましたが、受講期間が長くスキマ時間に勉強でき、また繰り返し学習することが出来たので落ち着いて勉強出来ました
50代の方の回答です。介護のために一度離職し、「復帰できた時のために」準備をしている方の声です。注目したいのは後半で、「受講期間が長くスキマ時間に勉強でき、繰り返し学習することが出来たので落ち着いて勉強出来ました」と書かれています。期限が緩く、自分のペースで進められることが、続けられた理由になっている。復職後の業務設計にそのまま当てはまる話だと思います。
違う心理士の講座をかなり前に受けていました。久しぶりに勉強できて、再認識できました前は家族の介護や出産育児で中断してしまいましたが、最後まで受講できて嬉しかったです
50代の方の回答です。以前は中断してしまった学びを、今回は最後まで続けられたという内容です。中断は失敗ではなく、条件が整えば再開できる。復職を「もとに戻す」ことではなく「再開できる条件を整える」ことだと捉え直すと、受け入れ側の設計も変わってきます。
貴社の資格取得をきっかけに、悩んでいた療育の世界に飛び込みました。先に取得したテキストを復習に使い、日々学びの気持ちで支援を行っています。こちらの資格も現場で役立たせる事ができる様、意識していきたいと思っています。
50代の方の回答です。「先に取得したテキストを復習に使い」という部分に、段階的に積み上げる進め方が表れています。いきなり全部ではなく、手元にあるもので足場を作ってから次へ。復帰直後に「定型で・一人で完結する業務から」と勧める理由も同じです。
いっぽうで、負担の大きさに触れた声もありました。
歳を重ねて勉強するのは大変でしたが、メンタルヘルスについて知識を深める事が出来て良かったです。ボランティア活動にも自信をつけることが出来き、これからの活動に活かせるようにていきたいと思います。
60代以上の方の回答で、総合評価は「普通」でした。「大変でした」が先に来ています。やり遂げられたことと、負担が小さかったことは別です。復職の場面でも、本人が「できています」と言っているときに、どれだけの余力を使っているかは外からは見えません。だからこそ、ペースを決めるのは職場の側だ、という前提が要ります。
メンタルヘルス支援士について
ここまで、復職を受け入れる側の準備と、再休職を防ぐ視点を整理してきました。
こうした理解と合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格を取れば復職の可否を判断できるようになるわけではありません。むしろこの記事の趣旨は、職場がその判断に踏み込まないことにあります。何が学べて何が学べないのかは、別の記事で整理しています。
>メンタルヘルス支援士の内容|学べること・学べないことを受講者248人のデータで
Q&A|復職の受け入れに関するよくある質問
Q1:本人が「通常勤務で大丈夫」と言っています。前倒ししてよいですか?
就業上の措置は産業医の意見と人事の判定にもとづくもので、本人の申し出だけで変更するものではありません。前倒しを検討する場合は、産業医面談の場に戻してください。なお、うつ病になりやすい人の特徴として責任感の強さが挙げられており、本人の自己申告は速くなりがちだという前提で受け取るほうが安全です。
Q2:周囲に、どこまで説明すればよいですか?
「復帰すること」「当面は勤務時間や業務内容に配慮があること」「依頼は窓口を経由すること」まででかまいません。病名・原因・診断書の内容は伝えません。健康に関する情報は要配慮個人情報にあたるためです。あわせて、業務を引き受けている周囲の負担調整も同時に行ってください。
Q3:復帰後に、また不調のサインが見えたらどうしますか?
上司が判断する必要はありません。まず業務量と難度を一段下げ、産業医面談の日程を早めてください。「下げても後退ではない」と復職前に伝えてあれば、本人も受け入れやすくなります。職場で気づける変化については、別の記事で整理しています。
>うつ病のチェックリスト|職場で気づけるのは外から見える変化だけ
まとめ|ペースを決めるのは、職場の側

| 論点 | この記事で確認したこと |
|---|---|
| 職場の役割 | 復職の可否は主治医と産業医が判断する。職場がするのは段階的復帰の設計 |
| 復職日までに | 初日の業務を1つ決める/戻す順番を決める/周囲への説明を用意する/依頼の窓口を1人に/次の面談日を先に設定する |
| 面談で聞くこと | 業務量・やりにくい業務・依頼の入り方。体調の保証は求めない |
| 戻し方の原則 | 時間と難度を同時に上げない。上げたら次の面談まで維持する。下げることを選択肢に入れておく |
| 再休職の要因 | ストレス源が残る配置に戻す/復帰と同時に配慮が終わる/周囲の負担が放置される/面談が体調確認だけになる |
復職は、休職の終わりではなく、別の期間の始まりです。本人は自分の状態を測りながら仕事をしています。そこに調整の判断まで載せない。ペースを決めるのは職場の側。それがこの記事の結論です。
【注意事項】
この記事の内容は、当協会の公式テキストおよび当協会が収集したアンケート・体験談の一部をもとにまとめています。心の状態や必要な支援は一人ひとり異なり、一律の正解はありません。また、本記事は診断・治療を目的としたものではなく、復職の可否を判断するためのものでもありません。医師による監修は受けておらず、受診の要否を判断するものでもありません。復職判定の手順や労務上の取り扱いは会社ごとに異なるため、必ず自社の人事・産業医にご確認ください。気になる症状や不安がある場合は、早めに医師・専門機関・お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。


