発達障害の部下への対応|叱っていなくても、追い詰めることがある

同じ説明を、もう三度している。伝えたつもりが伝わっていない。本人も困っているのは分かる。それでも、次の締め切りは来ます。

部下や後輩との仕事がかみ合わないとき、丁寧に教えようとする人ほど、行き詰まりやすいという難しさがあります。熱心さが足りないから通じないのではありません。

この記事では、発達障害の特性がある方と働くときに、上司や先輩の側で変えられることを整理します。相手に診断名を当てはめるための記事ではありません。

メンタルヘルスの資格はどんな人が取る?受講者146人の年代・職種・動機データ

メンタルヘルス支援士 公式サイト

「悪いかどうか」ではなく「知っているかどうか」

当協会は、資格教材のなかで職場の事例を扱ったあと、読者にこう問いかけます。この場面で、誰が悪者だったのか。

答えは「誰も悪くない」です。うまくいかなかった本人も、その上司も、悪意で動いてはいません。問われているのは「悪いかどうか」ではなく「知っているかどうか」のほうです。

この記事も、その立場で書いています。上司の側に落ち度があったという話ではありません。知っていれば取れた手が、いくつかあるという話です。

叱っていなくても、追い詰めてしまうことがあります

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

たとえば、こんな場面です。上司は叱責していません。失敗のあとに「一緒に練習しよう」と提案し、毎日つきあっています。関係も悪くありませんでした。

それでも本人は追い詰まりました。指導の中身が「こういう場合は普通こう返す」「その伝え方だと相手は気分が悪い」「表情を見れば分かるはず」という形だったからです。どれも、やり方ではなく感覚を求めています。感覚が届かない相手にとって、これは練習しようのない課題です。

そして、やってもできないことを続けると、人はこう考え始めます。「自分には向いていないのではないか」「仕事ができない人間なのか」。熱意のある指導が、そのまま自己否定の材料になってしまうという経路です。

特性のある側から見ると、どう見えているのか。受講者アンケートに、当事者の方の回答がありました。

自身がasdなので、支援者が自分にどんなことを伝えたいのか、助言したいのか、ということについて、学ばせて頂いてなるほどと思いました。

30代の方の回答です。支援する側が何を伝えようとしているのか、それ自体を学んで初めて分かったという順番になっています。伝えた側が「言えば分かる」と思っていたことが、相手には別の作業として届いていた、ということです。

本記事で紹介している情報について

この記事は、性質の異なる2つの情報で構成しています。混ざらないように、先に整理しておきます。

項目内容
考え方の出どころ『公式マスターブック メンタルヘルス支援士』(一般社団法人 人間力認定協会・2025年3月1日 初版第一刷)第2章「発達障害と精神疾患・依存症の関係性」にもとづき、当協会がまとめたものです。職場の事例は、要点だけを記事向けに書き直しています
この記事の目的相手を判定するためではありません。診断がなくても取れる手を整理しています
解説部分受診の要否については判断していません。また、法令上の義務の解釈も行っていません
受講者のデータメンタルヘルス支援士 受講前アンケート(有効回答146件・2025年2月27日〜2026年7月25日)
受講者の声メンタルヘルス支援士 受講後アンケート(有効回答248件・2025年3月8日〜2026年8月20日)。自由記述欄・体験談欄からそのまま転載しています
回答者について回答者は当協会の資格に申し込んだ方に限られます。管理職かどうかを尋ねた設問はありません
通じにくい指示と、通じやすい言い換えの対応表

通じない指示には、共通の形があります

うまくいかない指示を並べると、ある共通点が見えます。程度を表す言葉と、感覚を求める言葉です。

通じにくい言い方言い換えると
できるだけ早く今日の16時まで
適当にまとめておいてA4で1枚、箇条書きで3点
もう少し丁寧に送信前に、宛名と金額を声に出して確認する
随時報告して毎日16時に、進捗を1行チャットで送る
空気を読んで言い換えられない。その場面で何をするかを具体例で示す

左の列は、多くの人には通じます。これまでの経験から「だいたいこのくらい」を埋められるからです。その埋め方が難しい相手には、埋めた結果のほうを渡すことになります。

いちばん下の行だけ、事情が違います。「空気を読んで」は、言い換えても手順になりません。求めているのが結果ではなく能力そのものだからです。ここは、指導する内容から外してください。代わりに「この一言を言われたら、こう返す」という単位まで具体化します。

変えるのは相手ではなく、条件のほうです

特性は生まれつきのもので、練習で消えるものではありません。周囲にできるのは、苦手が出にくい条件をつくることのほうです。場面ごとに整理します。

起きていること条件のほうを変える
口頭で伝えたことが抜ける手順を文字で残す。あとから読み返せる形にする
締め切りを守れない日付ではなく通知で渡す。前日と当日の2回
優先順位がつけられない並べる順番をこちらで決めて渡す
複数の仕事が同時だと止まる並行作業を減らす。1つ終わってから次を渡す
臨機応変な対応で失敗が続く担当を組み替える。得意が出る配置に寄せる

どれも診断を待たずにできることです。そして、特性のあるなしにかかわらず、多くの人にとって働きやすくなる変更でもあります。「あの人だけ特別扱い」になりにくいのは、この性質のおかげです。

同じ性質が、得意の側にも出ています

いちばん下の行だけ、少し説明を足します。配置を変えるのは、あきらめることではありません。

当協会は、特性を得意と苦手の両面で説明しています。そして左右を見比べると、同じ性質が裏表になっていることが分かります。ルールを守る几帳面さは、曖昧な指示への弱さと同じ根から来ています。決断の速さは、待てなさと地続きです。

つまり、苦手だけを取り除くことはできません。臨機応変な対応が続く持ち場で失敗が重なっている人は、手順の決まった持ち場では成果を出すことがあります。同じ人が、条件によって別の評価になるということです。

苦手が出続ける場所に置いたまま指導を重ねるのが、いちばん消耗の大きいやり方です。指導する側も、される側も削られます。

いちばん早いのは、本人に聞くことです

条件を変えるといっても、どこが詰まっているかは外から見えません。理解することが、支援の入口になります。そして理解の入口は、たいてい質問です。

教育の現場で、それがはっきり効いた場面を書いてくださった方がいます。

(前略)廊下に寝そべって「わーっ、わーっ」と叫んでいるので、「どうしたの?」と聞くと、「オレは落ち着かないんだ、わーっ」と答えました。最初は、静かにさせることに気がいって「今、他のクラスが勉強中やから静かにできる?」と言っても聞いてもらえなかったのですが、「落ち着かない」と言っていたのを思い出してとっさに「じゃあ、どうやったら落ち着けるの?」と聞いたところ、「オレはいま、ぞうきんがけをしたら落ち着くんだ」と言ったので(中略)本人から話を聞くことが大大切だと感じた出来事です。

50代の方の回答です。小学校の支援クラスでの出来事ですが、職場でもそのまま使える形をしています。

最初の問いかけは「静かにできる?」でした。これはこちらの望む状態を求めています。次の問いかけは「どうやったら落ち着けるの?」。相手の側にある解決策を尋ねています。答えは、外から想像できるものではありませんでした。

職場に置き換えると、「なぜできないのか」ではなく「どこまでは進められるか」「何があれば進められるか」という尋ね方になります。前者は理由を説明させる質問で、答えると言い訳の形になります。後者は条件を聞く質問なので、そのまま次の手に変えられます。

診断名を確かめにいかないこと

本人に「発達障害ではないか」と尋ねること、第三者にそう話すこと。どちらも避けてください。診断ができるのは医師だけで、上司にその権限はありません。

診断ができるのは医師だけで、医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めています。診断されてもいない人を勝手に発達障害だと決めつける行為は、そこから外れるだけでなく、特性のある人への軽蔑や差別とも地続きです。支援される側だけでなく、支援する側をも傷つけます。

現場でそれを見てきた方の回答があります。

(前略)また、職場にいる気になる方への対応など関わり方を見直す機会となりました。(中略)たくさんの人に理解してほしいと思います。保育現場ふくめどこの職場などで精神疾患ある人の対応わからず非難す人も多いので。

40代の方の回答です。「対応わからず非難す人も多い」——非難は、対応が分からないところから出てきます。逆にいえば、取れる手を1つ持っているだけで、非難に向かわずに済みます。

強迫症チェックリスト|巻き込みへの対応(応じても断っても、うまくいかないとき)

支える側は、どんな立場で学びに来ているか|146人のデータ

ここからは、当協会の一次情報をご紹介します。資格に申し込んだ146人の職種の分布です。

  • 医療・福祉業……53人(36.3%)
  • 教育業・学習支援業……30人(20.5%)
  • 専業主婦(主夫)……21人(14.4%)
  • その他……21人(14.4%)
  • サービス業……14人(9.6%)

医療・福祉業と教育業で、延べ83人。両方を選んだ方が3人いるため、実数は80人(54.8%)で、半数を超えます。

この80人のうち、「現在の仕事に活かせると思ったから」を選んだ方が65人(81.2%)います。学びを、そのまま人への関わりに使う前提で申し込んでいるということです。

実際に職場で使えたという声もありました。

職場では上司に対して、また、初対面の人に対する接し方など、ここで習得したことが少し生かすことができ、なるほどなーと思うことがありました。もっと実践をしながら勉強したことを活かせるようになりたいです。

30代の方の回答で、総合評価は「普通」でした。「少し生かすことができ」——控えめな書き方ですが、実感としてはこのあたりが正直なところだと思います。知識を入れたその日から関係が変わるわけではありません。

⚠ この146人に管理職かどうかを尋ねた設問はありません。お見せしているのは「どんな職種の人が学びに来ているか」であって、上司の立場の方の割合ではありません。

特性の中身は、それぞれ違います

ここまで「発達障害の特性」とまとめて書いてきましたが、何が難しいのかは特性によって違います。接し方を決めるには、そこを分けて見たほうが早く進みます。

[関連記事]ADHD・自閉症診断テスト|子ども発達障害チェックリスト

[関連記事]学習障害(LD)診断テスト|6歳・7歳・8歳向けチェックリスト

メンタルヘルス支援士について

ここまで、職場でかみ合わないときに上司の側で変えられることと、支える側146人のデータをご紹介しました。

こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。

当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを体系的に学べる民間資格です。この記事で扱った職場の事例も、公式テキストの第2章に置かれています。伝え方の具体的な組み立て方や、支援者側の関わり方は、教材でさらに詳しく解説しています。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。

資格の有無が支援の基準になるものではありませんし、取れば診断ができるようになるわけでもありません。身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。何が学べて何が学べないのかは別の記事で整理しています。

メンタルヘルス支援士の詳細について

Q&A|発達障害の特性がある部下への対応でよくある質問

Q1:本人に「発達障害かもしれない」と伝えるべきですか?

伝えないでください。診断ができるのは医師だけで、上司にその権限はありません。「発達障害では」と第三者に話すことも避けてください。話すなら、特性ではなく業務で起きている事実のほうです。「この確認が3回続けて漏れている。どうすれば残せるか一緒に考えたい」なら、診断の話をせずに前へ進めます。

Q2:診断がないのに、配慮していいのですか?

この記事で挙げたことはいずれも「配慮」というより、指示の出し方の変更です。手順を文字で残す、締め切りを通知で渡す、並行作業を減らす。診断の有無にかかわらず、業務の進め方として選べます。制度上の配慮の申し出については、産業医や人事にご相談ください。

Q3:ほかの部下から不公平だと言われませんか?

個人に対する例外にすると、そう見えます。チーム全体の運用に変えると、その問題は起きにくくなります。指示を文字で残す、締め切りを通知で渡す。どちらも全員に適用して不都合のないやり方で、実際には多くの人の負担が減ります。

Q4:こちらが消耗してきました。

それは、我慢を続けるべき理由にはなりません。ひとりで抱えないことが、この問題では特に大事になります。産業医・保健師・人事に、業務上の事実として相談してください。眠れない日が続いている、休みの日も気が休まらないという状態であれば、それはご自身の相談の理由になります。記事の最後に窓口を掲載しています。

まとめ|知っていれば、取れる手がある

論点この記事で確認したこと
前提「悪いかどうか」ではなく「知っているかどうか」。誰も悪意で動いていない
叱責していなくても感覚を求める指導は練習しようがない。熱意のある指導が自己否定の材料になることがある
通じない指示程度を表す言葉と感覚を求める言葉。「空気を読んで」は言い換えても手順にならない
変えるもの相手ではなく条件。文字で残す/通知で渡す/並行作業を減らす/配置を組み替える
聞き方「なぜできないのか」ではなく「何があれば進められるか」。答えは外から想像できない
してはいけないこと本人や第三者に「発達障害では」と言うこと。診断できるのは医師だけ
一次情報医療・福祉業と教育業で実数80人(54.8%)。うち65人(81.2%)が「仕事に活かせる」と回答

相手を変えることはできません。けれど、渡し方は今日から変えられます。締め切りを口で言うのをやめて、通知に置き換える。それだけで結果が変わることがあります。

発達障害の特性がある部下への対応で、上司が変えられることの整理

【注意事項】

この記事で紹介している内容は、当協会の公式テキストおよび当協会が収集したアンケート・体験談の一部をもとにまとめています。本記事は診断・治療を目的としたものではなく、法令上の義務の解釈を示すものでもありません。心の状態や必要な支援は一人ひとり異なり、一律の正解はありません。気になる症状や不安がある場合は、早めに医師・専門機関・お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。

参考・相談先

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