遅刻が減らない。同じミスが繰り返される。何度言っても変わらない。
注意する側にも、疲れがたまります。言い方をだんだん強くしていくのは、責める気持ちからではなく、ほかに手が思いつかないからです。
ただ、その先で起きることがあります。発達障害の支援でむずかしいのは、特性そのものよりも、そのあとに積み重なるもののほうです。この記事では、それを「二次障害」という言葉で整理します。
>メンタルヘルスの資格はどんな人が取る?受講者146人の年代・職種・動機データ
二次障害とは、特性そのものではなく「そのあと」に起きること
当協会は、資格教材のなかで「発達障害そのものが問題というよりも、そこから生じる二次障害のほうが問題だ」という立場をとっています。
まず、言葉の位置づけを確かめておきます。二次障害は医学的な専門用語ではありません。DSM-5-TR にも ICD-11 にも、そういう病名は載っていません。特性があることで二次的に起きてくる問題の総称です。
ですから「二次障害と診断される」ということはありません。診断がつくのは、そこに現れた個別の状態のほう——うつ病や社交不安症など——です。
どんな形で出るか
ひとつの形に決まっていないことが、この問題を見えにくくしています。
| 出方 | 具体的には |
|---|---|
| その場から離れる | 不登校、引きこもり、出社できなくなる |
| 気分の不調として出る | うつ病、社交不安症、その他の精神疾患 |
| 行動として出る | 暴言、暴力などの行動面の問題 |
| 体に出る | 頭痛、食欲不振、不眠 |
大人の場合、いちばん多く相談として現れるのは「出社できなくなった」という形です。そこに至るまでに、体の不調や眠れない日が先に来ていることも少なくありません。
本記事で紹介している情報について
この記事は、性質の異なる2つの情報で構成しています。混ざらないように、先に整理しておきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 二次障害の考え方 | 『公式マスターブック メンタルヘルス支援士』(一般社団法人 人間力認定協会・2025年3月1日 初版第一刷)第2章「発達障害と精神疾患・依存症の関係性」にもとづき、当協会がまとめたものです。読みやすさのために表現を記事向けに整えています |
| この記事の目的 | 診断のためではありません。特性のある方の周囲にいる人が、悪化を防ぐためにできることを整理しています |
| 解説部分 | 受診の要否については判断していません。二次障害は病名ではないため、この記事に「該当するかどうか」の基準は置いていません |
| 受講者のデータ | メンタルヘルス支援士 受講前アンケート(有効回答146件・2025年2月27日〜2026年7月25日) |
| 受講者の声 | メンタルヘルス支援士 受講後アンケート(有効回答248件・2025年3月8日〜2026年8月20日)。自由記述欄・体験談欄からそのまま転載しています |
| 回答者について | 回答者は当協会の資格に申し込んだ方に限られます。発達障害の有無を尋ねた設問はありません |

大人の場合、どこから始まるか
教材では、二次障害が起きるまでの流れを事例で説明しています。大人の例をひとことでまとめると、次のような順番です。
- 特性によって、忘れ物や連絡漏れが起きる
- 注意を受ける。それでも減らない
- 大きな失敗が起きたときに、強い叱責を受ける
- そのなかに人格を否定する言葉が混ざる
- 翌日から気分が沈み、出社できなくなる
- 受診して、別の診断がつく
3と4のあいだに、大きな段差があります。「今回のこれが漏れていた」と事実を指摘するのと、「だからお前は」と人そのものを否定するのとでは、受け取る側に残るものが違います。前者は次の手順に変えられますが、後者は変えようがありません。
誤解のないように書いておきます。「叱責したから病気になった」と単純に言い切れる話ではありません。体調、睡眠、家庭の事情など、同時に効いているものがあります。それでも、この経路が知られている以上、減らせる部分は減らしておくほうがいいというのが当協会の考え方です。
「やる気」「努力不足」「育て方」と結びつけないこと
これは、支援する側がいちばん避けたいことです。本人のやる気や努力不足の問題、あるいは保護者の育て方の影響と勘違いして、叱責したり非難したりしないこと。
理由は単純です。やる気の問題だと判断した瞬間、こちらにできることが説教しか残らなくなるからです。そして説教では、不注意も、段取りの苦手さも減りません。減らないので、また注意することになります。
とはいえ、注意する側にも迷いがあります。受講者アンケートに、その揺れがそのまま書かれた回答がありました。
小学校で支援員をしています。いつも落ち着きがない愛着障害あるような子が、目の前で悪い行動をしたので叱りました。理解しているのかしていないのか、返事すらしない態度に強く叱りました。したことは悪いことなので、きちんと注意する必要もありますが、その反面、この子はもっとじっくりと話を聞く必要がある子だと思う…叱るだけではなく、もっとじっくりと向き合う必要を感じる…(後略)
40代の方の回答で、総合評価は「普通」でした。「したことは悪いことなので、きちんと注意する必要もあります」——ここを飛ばして「叱ってはいけない」と読まないでください。困る行動を放置することと、人格を否定しないことは、別の話です。
>子どもの二次障害はどのくらい続くのか|63件の記述から見える経過
大人になってから始まるものではありません
「大人の発達障害」という言い方が広まりましたが、大人になってから発達障害を発症することはありません。生まれつきの特性だからです。政府広報オンラインにも同じことが書かれています。
正確に言い直すと、「大人になってから顕在化した発達障害」あるいは「特性が大人になったいまも現れている」ということになります。
では、なぜ大人になってから表に出てくるのか。子どものころは、その特性が個性として受け入れられていたり、保護者や先生のフォローがあったりして、本人も周囲も気づかずに済むことがあります。ところが社会に出ると、人間関係が複雑になります。相手の表情や声色を読んで対応を変えることを求められる職種であれば、なおさらです。そこで、潜在的に持っていた特性が目に見える形になります。
ここが大事なところです。変わったのは本人ではなく、求められる環境のほうです。「入社したころは普通だったのに」という感じ方は、多くの場合、環境の難度が上がったことを見ています。
公私の両方でこのテーマに向き合っている方の回答があります。
これから精神科訪問看護での作業療法を行う上で、精神科関係の復習と、私は大人の発達障害起因の気分症、妻も精神疾患があり、公私共々、良き学びの時間となりました。(後略)
40代の方の回答です。「大人の発達障害起因の気分症」——ご自身の状態を、この構図で説明しておられます。特性が先にあり、気分の不調があとから来た、という順番です。
>パニック症チェックリスト|発作への対応は逃げ道を用意する?
>子どもの二次障害とは|内にこもる子と荒れる子に、分かれません
防ぐためにできることは、2つに絞られます
当協会が教材で挙げているのは、次の2つです。どちらも診断を待たずにできることです。
- ① 周囲が特性について理解する/何が難しいのかが分かると、こちらの渡し方を変えられます
- ② 本人の自己肯定感を下げない/自己肯定感が保たれていれば、失敗やミスがあっても深く落ち込まずに次へ進めます
②が二次障害の話の中心にあります。失敗そのものより、失敗のたびに自分の価値が削られる感覚のほうが、あとに残ります。当協会は、自己肯定感を高める方法のひとつとしてスモールステップ——できる大きさまで課題を刻んで、達成を重ねる進め方——を挙げています。
日々の場面に落とすと、こうなります。
| 場面 | すること | 避けたいこと |
|---|---|---|
| ミスを指摘するとき | 起きた事実と、次の手順を1つだけ伝える | 過去のミスを並べて数える |
| できていないことが続くとき | 課題を小さく刻んで、できた分を確認する | 「何度言えば分かるのか」と人に返す |
| 本人が落ち込んでいるとき | 体調と睡眠を先に尋ねる | 原因を掘り下げて聞き出す |
| 変化が見えないとき | 期限と手順を、こちらの側で調整する | 気持ちの持ちようを変えさせようとする |
学ぶこと自体が、この②に効いたという声もありました。
家庭や友人関係、学校のボランティア時などでも有効に活用したいです。学んだと言う自信が自己肯定につながりとても嬉しいです。
50代の方の回答です。これは支える側の自己肯定感の話ですが、支える側が落ち着いていることは、支えられる側にそのまま伝わります。順番としては、こちらが先です。
支える側も消耗します
ここを飛ばすと、この記事は「もっと理解しなさい」という要求になってしまいます。実際には、支える側にも限界があります。
家族と自分のセルフケアの為に受講しました。特、発達障害の子供の二次障害などのケアの参考にしています。発達障害が家族にいる場合、第三者が職業として支援するのとは、格段に違う辛さがあると感じます。
60代以上の方の回答で、総合評価は「普通」でした。「第三者が職業として支援するのとは、格段に違う辛さ」——家族は、仕事のように終業時刻で区切ることができません。自分の消耗を数えることも、支援の一部です。疲れが抜けない状態が続いているなら、それはご自身の相談の理由になります。
支える側は、どんな立場で学びに来ているか|146人のデータ
ここからは、当協会の一次情報をご紹介します。資格に申し込んだ146人が、何を理由に学びに来ているかのデータです。
- 身近に精神疾患または症状がある方がいる(過去にいた)から……86人(58.9%)
- 現在の仕事に活かせると思ったから……85人(58.2%)
- 子育てに活かせると思ったから……49人(33.6%)
- 自身に精神疾患または症状がある(過去にあった)から……45人(30.8%)
注目していただきたいのは、この2つに両方とも印を付けた方が26人(17.8%)いることです。支えながら、自分も揺れている。146人の6人に1人が、その位置にいます。
職種では、医療・福祉業53人(36.3%)、教育業・学習支援業30人(20.5%)で、この2つで半数を超えます(両方を選んだ方が3人いるため、実数は80人・54.8%です)。二次障害が起きる前の段階の人と、日常的に会う立場だといえます。
⚠ この146人に発達障害の有無を尋ねた設問はありません。お見せしているのは「どんな立場の人が学びに来ているか」であって、発達障害や二次障害の割合ではありません。
特性の中身は、それぞれ違います
ここまで「発達障害の特性」とまとめて書いてきましたが、何が難しいのかは特性によって違います。接し方を決めるには、そこを分けて見たほうが早く進みます。
>[関連記事]ADHD・自閉症診断テスト|子ども発達障害チェックリスト
>[関連記事]学習障害(LD)診断テスト|6歳・7歳・8歳向けチェックリスト
>子どもの二次障害は診断名で違うのか|ASD・ADHD・LDを比べる
メンタルヘルス支援士について
ここまで、二次障害の考え方と、支える側146人のデータをご紹介しました。
こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを体系的に学べる民間資格です。この記事で扱った二次障害も、公式テキストの第2章に置かれています。自己肯定感を高める進め方やスモールステップの具体的なやり方は、教材でさらに詳しく解説しています。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格の有無が支援の基準になるものではありませんし、取れば診断ができるようになるわけでもありません。身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。何が学べて何が学べないのかは別の記事で整理しています。
Q&A|発達障害の二次障害に関するよくある質問
Q1:叱ってはいけない、ということですか?
違います。起きた事実を伝えないほうが、あとで本人が困ります。分けていただきたいのは、事実の指摘と人格の否定です。「今回この確認が漏れていた」は事実で、次の手順に変えられます。「だからお前はいつも」は人そのものへの評価で、変えようがありません。積み重なるのは後者のほうです。
Q2:本人に「発達障害かもしれない」と伝えるべきですか?
伝えないでください。診断ができるのは医師だけです。「発達障害では」と第三者に話すことも避けてください。伝えるなら、特性ではなくいま起きている困りごとのほうです。「眠れていないみたいだから一度診てもらったら」のほうが、本人は動けます。
Q3:二次障害は治りますか?
二次障害は病名ではないため、「治る・治らない」という言い方がそもそも当てはまりません。そこに現れている状態——うつ病なら、うつ病の治療の話になります。見通しは状態によって違い、この記事で判断できることではありません。ただ、環境の側を変えると負荷が減るという点は、診断の有無にかかわらず共通しています。
Q4:どこに相談すればよいか分かりません。
発達障害者支援センターが、本人・家族・職場のいずれからの相談も受け付けています。働く方であれば厚生労働省「こころの耳」にも窓口があります。いずれもこの記事の最後にリンクを掲載しています。
まとめ|特性は変えられませんが、そのあとは変えられます
| 論点 | この記事で確認したこと |
|---|---|
| 二次障害とは | 医学的な専門用語ではなく、二次的に起きる問題の総称。DSM-5-TR・ICD-11 に病名としての記載はない |
| 出方 | 出社できなくなる/うつ病・社交不安症/暴言・暴力/頭痛・食欲不振・不眠。ひとつの形に決まっていない |
| 大人の場合の経路 | ミス → 注意 → 強い叱責 → 人格の否定 → 出社できなくなる。段差があるのは3と4のあいだ |
| やってはいけない結びつけ | やる気・努力不足・育て方。そう判断すると、こちらにできることが説教しか残らない |
| 顕在化の理由 | 大人になって発症したのではなく、環境の難度が上がって表に出た |
| 防ぐ2つ | ①周囲が特性を理解する ②自己肯定感を下げない(スモールステップ)。どちらも診断を待たずにできる |
| 一次情報 | 「身近に症状のある方がいる」86人(58.9%)、「自身にもある」45人(30.8%)。両方に印を付けた方が26人(17.8%) |
特性そのものを取り除くことはできません。けれど、そのあとに何が積み重なるかは、周囲の側で変えられます。言い方をひとつ変えることは、今日からできることです。

【注意事項】
この記事で紹介している内容は、当協会の公式テキストおよび当協会が収集したアンケート・体験談の一部をもとにまとめています。本記事は診断・治療を目的としたものではありません。心の状態や必要な支援は一人ひとり異なり、一律の正解はありません。気になる症状や不安がある場合は、早めに医師・専門機関・お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。


