人の話を聞く仕事をしていて、自分が体験したわけでもない出来事の場面が、ふと頭に浮かぶ。夜、その人のことを考えて眠れない。前ほど人の話に入り込めなくなった気がする——。支援する側に起きるこうした反応を説明する言葉に、「二次受傷」「共感疲労」があります。
先にお伝えしたいことが2つあります。1つ目。これは支える側の力量や向き不向きの問題ではありません。人の苦痛に繰り返し近づく仕事に、構造としてついてくるものです。
2つ目。この記事にはチェックリストを置いていません。二次受傷は当協会の公式テキストに記載がなく、出典を示せない項目を並べて「◯個当てはまったら」と読ませることは趣旨と合わないためです。診断のためではなく、状態に名前を与えて次の行動につなげるための記事だとお考えください。
この記事は次の順で整理します。
- 混ざりやすい4つの言葉(二次受傷・共感疲労・代理受傷・バーンアウト)を整理する
- なぜ支援する側に反応が起きるのかを、PTSDとの関係から見る
- どんなかたちで現れるか、現場でできることを示す
- 資格を申し込んだ146人のうち、医療・福祉業と教育業の80人のデータを見る
>メンタルヘルスの資格はどんな人が取る?受講者146人の年代・職種・動機データ
二次受傷・共感疲労とは何か|混ざりやすい4つの言葉
この領域の言葉は書き手によって使い分けが違い、研究の文脈でも統一されていません。一般に説明されることの多い整理を示します。
| 言葉 | 説明されることの多い内容 |
|---|---|
| 二次受傷 (二次的外傷性ストレス) | 他者のトラウマに繰り返し接することで、支援する側にも似た反応が生じること。前触れなく起こる点が特徴とされます |
| 共感疲労 | 他者の苦痛への共感から生じる疲労。二次受傷とほぼ同義で使われます |
| 代理受傷 | 支援を続けるなかで、支援する側の世界観や自己認識が変わっていくこと。時間をかけて進むものとされます |
| バーンアウト (燃え尽き症候群) | 慢性的な職業性ストレスによる消耗。徐々に進む点で二次受傷と対比されます。ICD-11では「職業に関連する現象」とされ、疾患ではありません |
実務で役に立つのは「突然か、徐々にか」という軸です。忙しさが積み重なって少しずつすり減るのがバーンアウト、特定のケースに触れた日から急に眠れなくなるのが二次受傷。同じ「疲れた」でも対処が変わります。
ただし実際には混ざって起こります。分類が目的ではありません。言葉の違いは、自分に起きていることを説明する手がかりとして使ってください。
本記事で紹介している情報について

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 用語解説の位置づけ | 公式テキストにこれら4語の記載はありません。本記事の整理は公開情報を当協会がまとめたもので、医師・研究者の監修は受けていません |
| この記事で扱わないこと | チェックリスト・診断・受診の要否の判断。「◯個当てはまったら二次受傷」という基準は示しません |
| データの性質 | 一般社団法人 人間力認定協会「メンタルヘルス支援士 受講前アンケート」(取得者も同協会)/2025年2月27日〜2026年7月25日・146件(うち医療・福祉業または教育業・学習支援業の80人を抽出) |
| 設問と分析方法 | 「受講した動機(複数回答)」「職種(複数回答)」「年代」「性別」。対人援助職を抽出し動機を集計 |
| 注意点 | 回答者は資格に申し込んだ方に限られ、二次受傷の経験や消耗の度合いを尋ねた設問はありません |
受講者の声は、受講後アンケート(248件・2025年3月8日〜2026年8月20日)の自由記述欄・体験談欄から原文どおり転載しています。
なぜ支援する側に反応が起きるのか
心的外傷後ストレス症(PTSD)の簡易チェックリストの【心的外傷的出来事(トラウマ)】は3項目で、直接体験した、目撃した、そして「話を家族や友人から聞いた」で構成されています。
3つ目に注目してください。聞くことも含まれているということです。「直接的にこれらの体験をしていなくても、マスメディアや当事者を通じて追体験することで発症するケースもあります」
>PTSDのチェックリスト|当てはまった数より、続いた期間が大事?
つまり支援する側に反応が起きるのは例外ではなく、もともと想定されている経路のひとつです。「自分は当事者ではないのに」と感じる必要はありません。
聞き上手な人ほど起きやすい
皮肉なことに、相手の話をよく聞ける人ほど影響を受けやすいとされています。共感は支援の道具であると同時に、その道具を通じて自分の側にも流れ込むものがあるからです。「共感しないほうがよい」のではなく、個人の心がけではなく仕組みの問題として扱う。ここが出発点になります。
どんなかたちで現れるか
現れ方は人によって違い、決まった順番もありません。よく挙げられるものを3つの方向に分けます。いくつ当てはまるかを数える必要はありません。
ひとつ目は記憶と睡眠の方向です。自分が体験したわけではない場面が頭に浮かぶ、その人の話が夢に出てくる、寝つけない。二次受傷が「前触れなく起こる」と説明されるのは、多くはこの現れ方です。
ふたつ目は感情の方向です。前より涙もろくなる、あるいは逆に何も感じなくなる。特定の話題を避ける。同僚や家族への苛立ちが増える。感じすぎと感じなさすぎは、どちらも同じところから来ているとも説明されます。
みっつ目はものの見方の方向です。世の中は危険な場所だと思うようになる、人を信用できなくなる、自分の家族に過剰に心配になる。代理受傷と呼ばれる領域に近く、仕事の外側にまで影響が出ている点が重要です。
これらは、それ自体が不調を意味するわけではありません。見ていただきたいのは、続いているかどうかと、仕事以外の時間にまで及んでいるかどうかです。不眠や気分の落ち込みが2週間ほど続いているなら、名前がつくかどうかにかかわらず相談の対象になります。
>不登校の親が疲れたとき|34人の「こうしておけばよかった」
消耗を防ぐために、現場でできること
個人の努力に寄せない前提で4つ挙げます。
- 一人で抱えるケースを作らない/複数人で見る体制があるだけで負荷は分散します。担当を割り振る段階の問題であり、心構えの問題ではありません
- 話す場を、仕組みとして持つ/つらくなくても集まる場を先に用意する。困ってから声を上げるのは、支援職ほど難しいものです
- 切り替えを、行動で作る/着替える・記録を書き終える・帰り道を変えるなど、気持ちではなく行動で区切るほうが再現性があります
- 自分の不調は、自分の主訴として相談する/「担当ケースの話」ではなく「自分の不眠」として相談してよい、ということです。名前がつかなくても症状は診療の対象です
実際の回答にも、この結論にたどり着いた声がありました。
(前略)そんな時にどうしたら冷静に対応できるのかを考えましたが、自分自身のメンタルヘルスを調えないといけないのではないかという結論に至りました。日々の経験から、支援する人が元気で落ち着いていたら、支援される人の気持ちも落ちついているのを感じます。相手も大切ですが、自分も大切な存在だと思えるといいなと思います。
30代の方の回答です。中学校で支援員をしながら、ご自身のお子さんにも発達障害の診断がある状況が書かれていました。支援者のケアは自己満足ではなく、支援の質に直結する。この記事で言いたいことの大部分が、この一文にあります。
支援を仕事にしている80人は、なぜ学びに来たのか
ここからは当協会の一次情報です。146人のうち「医療・福祉業」または「教育業・学習支援業」を選んだ方は80人(54.8%)でした(医療・福祉業53人、教育業30人、両方が3人)。
| 受講した動機(複数回答) | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 現在の仕事に活かせると思ったから | 65 | 81.2% |
| 身近に精神疾患または症状がある方がいる(過去にいた)から | 41 | 51.2% |
| 子育てに活かせると思ったから | 27 | 33.8% |
| 自身に精神疾患または症状がある(過去にあった)から | 21 | 26.2% |
注目していただきたいのは2行目と4行目です。仕事で必要だから学ぶ方が81.2%と多い一方、51.2%は「身近に精神疾患または症状がある方がいる」にも印を付け、26.2%は「自身に精神疾患または症状がある(過去にあった)」を選んでいます。
つまり支援を仕事にしている方の半数は、職場を出たあとも支える側にいるということです。切り替えの場がそもそも存在しにくい。二次受傷を「仕事中の負荷」としてだけ考えても足りない理由が、ここにあります。
障害福祉サービスの仕事に従事しています。利用者様の個別特性に即して、就労継続を支援出来る事は大きな成功体験でしたが、就労となると社会や作業のルールマナーを守ってもらえない事が支援者としての大きなストレスとなり、葛藤の毎日です。自身のメンタルヘルスに大変役立つ学びでした。
50代の方の回答です。「大きな成功体験」と「葛藤の毎日」が同じ文に並んでいます。やりがいと消耗は打ち消し合いません。支援が実っているかと、支援する側がすり減っているかは別々に見る必要があります。
愛着障害によって生じている担当幼児の行動に対して、適切な支援をしたかったのですが、関係者から納得のいくアドバイスを得ることができず悩みました。職員間でも、共通理解が難しい現実があります。
60代以上の方の回答です。「一人で抱えるケースを作らない」が現場では簡単でないことが分かります。相談相手がいても、共通理解が成り立たなければ孤立は解消しません。体制があることと、機能していることは違うのです。
(前略)叱るだけではなく、もっとじっくりと向き合う必要を感じる…この子はケアが必要だと感じる…でも、私は教師ではなく支援員…あくまで支援員…自分の立場、自分の持っている児童発達支援士の資格、そしてメンタルヘルス支援士の勉強中…いろいろな面からの、いろいろな気持ちが湧いて、モヤモヤとしました。
40代の方の回答で、総合評価は「普通」でした。小学校の支援員です。できることと立場の範囲が一致しないときの消耗が、そのまま書かれています。自由記述には「悩みや迷いを共有し合えたりする場があったり、質問出来たりするといいなぁ」とも。学んだあとの孤立への要望です。
なお60代以上の別の方は「発達障害が家族にいる場合、第三者が職業として支援するのとは、格段に違う辛さがあると感じます」と書かれていました。この記事は主に対人援助職に向けたものですが、家庭で支えている方にも当てはまります。むしろ交代要員も終業時刻もない分、条件は厳しいかもしれません。
メンタルヘルス支援士について
ここまで、二次受傷・共感疲労の整理と、支援職80人のデータをご紹介しました。
こうした理解と合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
正直に申し添えると、この資格のテキストに二次受傷・共感疲労の項目はありません。学べるのは支援する相手を理解するための知識です。何が学べて何が学べないのかは別の記事で整理しています。
>メンタルヘルス支援士の内容|学べること・学べないことを受講者248人のデータで
Q&A|二次受傷・共感疲労に関するよくある質問
Q1:二次受傷は病名ですか?
DSM-5-TR や ICD-11 に「二次受傷」という診断名はありません。支援する側に起きる反応を説明するための概念です。ただし、そこで生じている不眠・気分の落ち込み・過緊張といった症状そのものは診療の対象です。名前がつかないことは、相談しない理由になりません。
Q2:チェックリストで確かめたいのですが、なぜ載せていないのですか?
当協会の公式テキストに記載がなく、出典を示せる項目を持たないためです。独自に項目を作ることもできますが、読んだ方が「◯個当てはまった/当てはまらなかった」で判断すると、かえって相談が遅れることがあります。個数ではなく、続いているか・仕事の外にまで及んでいるかで考えてください。
Q3:支援職ではなく、家族を支えている立場でも当てはまりますか?
当てはまります。内容の大半は家庭で支えている方にも共通し、むしろ交代要員も終業時刻もない分だけ条件は厳しくなります。受講者の回答にも「第三者が職業として支援するのとは、格段に違う辛さがある」という声がありました。
まとめ|支える側を、仕組みで守る

| 論点 | この記事で確認したこと |
|---|---|
| 位置づけ | 診断名ではない。公式テキストにも記載がなく、医師監修も受けていない。徐々に進むのがバーンアウト、前触れなく起こるのが二次受傷(実際には混ざる) |
| 起きる理由 | PTSDの項目には「話を家族や友人から聞いた」も含まれる。聞くことも想定された経路 |
| 見る観点 | いくつ当てはまるかではなく、続いているかと仕事の外にまで及んでいるか |
| 現場でできること | ①ケースを一人で抱えさせない ②話す場を仕組みで持つ ③行動で切り替える ④自分の不調は自分の主訴として相談する |
| 一次情報 | 支援を仕事にしている80人のうち51.2%が「身近に症状のある人がいる」にも、26.2%は自身の症状にも印を付けている |
支える側が消耗することは、支援の失敗ではありません。人の苦痛に近づく仕事にあらかじめ含まれている条件です。だからこそ個人の心構えではなく、担当の割り振り・話す場・交代の仕組みで扱う。それがこの記事の結論です。
なお、職場で強い出来事が起きたあとの配慮は別の記事に整理しています。対応にあたる側にも二次受傷が起こりうる前提で、対応する人を一人にしないことを検討してください。
>職場でのトラウマ反応への配慮|診断の有無にかかわらずできること
【注意事項】
この記事の内容は、公開されている公的機関の資料および当協会が収集したアンケート・体験談の一部をもとにまとめています。心の状態や必要な支援は一人ひとり異なり、一律の正解はありません。また、本記事は診断・治療を目的としたものではありません。二次受傷・共感疲労は診断名ではなく、医師・研究者の監修も受けていないため、受診の要否を判断するものでもありません。気になる症状や不安がある場合は、早めに医師・専門機関・お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。


