言いすぎた、と思いながら片づけをしている。寝顔を見て、また明日こそはと思う。それを何度も繰り返している——。
「怒らない子育て」という言葉を見るたびに、できていない自分のほうが目に入ります。ただ、実際に子どもと関わっている方が書いた記録を読むと、誰も「怒らないようにした」とは書いていませんでした。
書かれていたのは、もっと具体的なことです。怒りがわいたときに、その場からどう離れるか。この記事では、その方法をご紹介します。
たとえば、この記事では次のことが分かります。
- 書かれていた対処は、我慢ではなく「離れる」だった
- 「説明してから離れる」が、なぜ難しいのか
- 怒りの手前に、体調があるという視点
- 怒ってしまったあとに、何を言えばよいか
書かれていたのは、我慢ではなく「離れる」でした

「自身に怒りが発生した時にどのように対処しましたか」という設問への答えを読むと、方向がそろっていました。
その場を離れ、一人になる。子どもに「お母さん、ちょっとイライラするから、あっちの部屋で休んでくるね」と言って離れるのが理想だが、なかなかその説明まではできなかった。
ご家庭でのお子さんについて書かれた回答です。やっていたことと、できなかったことが、両方書かれています。離れることはできた。説明までは、できなかった。
もうひとつ、はっきりした書き方の記録があります。
鼻歌を歌い気をそらす。掃除をする。携帯ゲームを無心でする。庭の草取り。この4つはズバリ現実逃避!今の怒りのもとから目や気をとにかく背ける!感情がおさまれば、冷静に話ができる。
ご本人が「現実逃避」と書いています。そして、そのあとに理由が続きます。「感情がおさまれば、冷静に話ができる」——逃げることが目的ではなく、話せる状態に戻すための手順として書かれています。
書かれていた対処を並べると、こうなります。
| やっていたこと | 書かれていた内容 |
|---|---|
| その場を離れる | 一人になる/別の部屋へ移動する |
| 別のことをする | 鼻歌/掃除/庭の草取り/携帯ゲームを無心でする |
| 口を開かない | 「一旦我慢して口を開けない」(言い返すと喧嘩になるため) |
| 見方を変える | 「軽く肩の力を抜いて、他の目線からそのものを見る」「面白がる目線を持てるように」 |
「怒りを鎮める」という項目はありませんでした。怒りそのものは扱わず、置き場所を変えるか、時間を稼ぐか、のどちらかです。
体験談は、個人が特定されないよう一部の表現をぼかしています。内容は変えていません。
同じことを、支援の仕事をしている人も書いていました
この記録を書いた方のなかには、児童発達支援・放課後等デイサービス・教室で、仕事としてお子さんと関わっている方が含まれています。つまり、対応を学んだうえで現場に立っている方たちです。
その方たちも、同じことを書いていました。
自分はASD傾向にあるため、怒るとすぐに口に出してしまい喧嘩に発展してしまうため、一旦我慢して口を開けないということを意識しています。
児童発達支援の現場で働いている方の回答です。「口を開けない」——やっていることは、たった1つです。気持ちを整えるのではなく、行動を1つだけ止めています。
軽く肩の力を抜いて、他の目線からそのものを見る努力をする。面白がる目線を持てるように努めている。
教室でお子さんと関わっている方の回答です。「努力をする」「努めている」と2回書かれています。自然にそう見られるようになった、とは書いていません。意識してそうしている、という書き方です。
ここから、読み取れることがあります。
- 仕事として関わっている人も、怒りがわかないわけではありません
- やっているのは「感情を変える」ことではなく、行動を1つ止める・視点を1つ足すこと
- 意識して続けている、と書かれている(自然にできているわけではない)
⚠ ただし、ひとつ違いがあります。仕事であれば、勤務時間が終わります。家庭ではそれがありません。同じ方法を使っていても、こちらのほうが消耗は大きくなります。「プロでもこうなのだから、自分ができないのは当たり前」と考えて差し支えありません。
「説明してから離れる」が、いちばん難しいところです
先ほどの回答に「説明まではできなかった」とありました。ここは、多くの方がつまずくところだと思います。
黙って部屋を出ると、お子さんには「見捨てられた」「怒って出ていった」と見えることがあります。とくに、不安が強いお子さんや、状況の変化を読み取りにくいお子さんでは、そう受け取られやすくなります。
かといって、怒っている最中に落ち着いた説明をするのは、ほぼ不可能です。そこで、先に決めておきます。
- 合図の言葉を1つ決める(「ちょっと休憩」「5分だけ」など、短いもの)
- 行き先を決めておく(どの部屋か、玄関の外か)
- 戻る時間を決めておく(「5分たったら戻るね」)
- 落ち着いているときに、この3つをお子さんと共有しておく
その場で説明しようとせず、合図の言葉ひとつで済むようにしておく。これは、支援の現場でお子さんに対して行われているクールダウンの取り決めと、まったく同じ形です。大人の側にも同じ準備が要ります。
怒りの手前に、体調があります
「自身に怒りの感情がわいてきた時に気を付けていることは?」という設問に、ひとつだけ角度の違う答えがありました。
体調不良かも!自分自身のマイナス感情が何かを見つけて、自己開示する。
教室でお子さんと関わっている方の回答です。怒りが出たとき、まず自分の体調を疑っています。
これは実感に合う方が多いと思います。同じ出来事でも、眠れた日と眠れなかった日では、こちらの反応が違います。お子さんの行動が変わったのではなく、こちらの余力が減っているだけ、という日があります。
そう考えると、対策の置き場所が変わります。
- 怒りの対処より先に、睡眠と休息(怒りっぽさは、消耗のサインとして扱う)
- 「今日は余力が少ない」と分かっている日は、予定を1つ減らす
- 自己開示する(家族や支援者に「今日はしんどい」と先に言っておく)
3つめは、記録にあった言葉をそのまま置いています。言っておくと、周りが動ける余地ができます。黙って耐えていると、周りからは「今日も大丈夫そうだ」と見えます。
なお、眠れない日が2週間以上続いている、これまでできていた家事ができない、といった状態が出ているなら、それは休息だけでは戻らない段階かもしれません。お子さんのことではなく、ご自身の不調として医療機関に相談してかまいません。
なぜ「あとから」効いてくるのか
その場では耐えられたのに、夜になって涙が出る。週末に寝込む。——こういう順番になる方がいます。
厚生労働省「こころの耳」は、ストレスへの反応を「心理面」「身体面」「行動面」の3つに分けて説明しています。その場で抑えたのは心理面の反応だけで、身体面と行動面は、時間をおいてから出てきます。
- 心理面|イライラ・不安・落ち込み・集中できない
- 身体面|眠れない・頭痛・肩こり・食欲の変化・疲れが取れない
- 行動面|飲酒や間食が増える・つい強い言い方になる・人と会うのを避ける
3つめに「つい強い言い方になる」が入っていることに注目してください。怒りっぽさは、性格ではなく、消耗した結果として現れる行動面の反応でもあります。
だから、「怒らないようにする」は対策として弱いのです。おおもとの消耗が減っていなければ、抑えたぶんは別のところに出ます。手を打つ場所は、怒りそのものではなく、その手前にあります。
怒ってしまったあとに、何を言うか
離れられなかった日もあります。言いすぎた日もあります。そのあとに何を言うかで、残るものが変わります。
記録のなかに、落ち着いたあとの声かけが書かれていました。「落ち着けて偉かったね」「上手くできなくて悔しかったんだね」「一緒に元に戻そうか」——これはお子さんに向けた言葉ですが、大人が自分に対して言えることも同じ形で整理できます。
| 残りやすい言い方 | 渡しやすい言い方 |
|---|---|
| ごめんね、お母さんが悪かった(自分を下げる) | さっきは大きい声を出して、こわかったよね(事実と相手の気持ち) |
| もう怒らないから(守れない約束) | またイライラしたら、休憩って言うね(できる約束) |
| あなたが◯◯したから(理由の説明) | いま、何か言いたいことある?(相手の番にする) |
右の列で共通しているのは、謝罪よりも「起きたことの確認」を先に置いている点です。自分を下げる謝り方は、お子さんに「自分のせいでお母さんが落ち込んだ」と受け取られることがあります。
⚠ ただし、手が出てしまった場合は別です。これは言い方の問題ではありません。次の項目の相談先に、早めにつながってください。
一人で抱えない仕組みが、用意されています
怒りの対処を、自分の努力だけで何とかしようとすると続きません。公的な仕組みがあります。
- ペアレント・トレーニング|保護者がお子さんの行動を観察して特徴を理解したり、特性をふまえたほめ方・しかり方を学ぶプログラム。自治体や医療機関で実施されています
- ペアレント・メンター|発達障害のあるお子さんを育てた経験のある親が、同じ立場で相談に応じる仕組み。自治体・発達障害者支援センターが実施しています
- 発達障害者支援センター|本人だけでなく、ご家族からの相談も受け付けています
- こども家庭センター・児童相談所|子育ての悩み全般。「相談したら子どもを連れていかれる」ということはありません
2つめをおすすめしたい理由があります。専門家からの助言は正しくても、「分かってもらえた」という感覚は残りにくいことがあります。同じ立場を通ってきた方の言葉は、そこが違います。
>不登校の親が疲れたとき|34人の「こうしておけばよかった」
メンタルヘルス支援士について
ここまで、怒りがわいたときにその場から離れる方法と、一人で抱えないための仕組みをご紹介してきました。
こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを、体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格の有無が支援の基準になるものではありませんが、身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。
Q&A|子どもに怒りすぎたときのよくある質問
Q1:その場を離れると、放置しているように思われませんか?
安全が確保されていれば、離れることは放置ではありません。記録のなかでも、きょうだいへの危害を避けるために別の部屋へ移動した、という形で書かれていました。心配なのは見え方のほうなので、合図の言葉と戻る時間を先に決めておいてください。「5分たったら戻るね」と言えれば、黙って出るのとは受け取られ方が変わります。
Q2:怒りを我慢するのは、体に悪くないですか?
ここで紹介した方法は、我慢ではありません。「鼻歌を歌う」「掃除をする」「庭の草取り」はいずれも、怒りを押し込めるのではなく、いったん別のところに注意を移す方法です。書いたご本人も「感情がおさまれば、冷静に話ができる」と理由を添えていました。押し込めるのではなく、時間をずらしていると考えてください。
Q3:手が出てしまいました。
言い方や心がけの範囲を超えています。ご自身を責める前に、早めに第三者につながってください。お住まいの自治体のこども家庭センター、児童相談所、発達障害者支援センターのいずれでも相談できます。相談したからといって、お子さんと引き離されるということはありません。むしろ、支援を受けやすくするための窓口です。
Q4:夫(妻)が理解してくれません。
説明を重ねるより、外の仕組みを一緒に使うほうが早いことがあります。ペアレント・トレーニングは、保護者のどちらか一方だけでなく、両方が参加できる形で実施されていることが多いプログラムです。それも難しい場合は、まずご自身だけで相談先を持ってください。一人で抱えている状態を解消することが先です。
Q5:どこに相談すればよいか分かりません。
お住まいの地域の発達障害者支援センターが、ご家族からの相談も受け付けています。子育て全般の悩みであれば、こども家庭庁がまとめている相談窓口の一覧から、地域の窓口を探せます。通っている園・学校・放課後等デイサービスがあれば、そこも相談先になります。いずれもこの記事の最後にリンクを掲載しています。
まとめ|怒らないことを、目標にしなくて大丈夫です

- 記録に書かれていた対処は、我慢ではなく「その場を離れる」「別のことをする」でした
- 「説明してから離れる」は難しいので、合図の言葉・行き先・戻る時間を先に決めておきます
- 怒りっぽさは、性格ではなく消耗のサインとして扱ってください。手前にあるのは睡眠と休息です
- 怒ってしまったあとは、自分を下げる謝罪より「起きたことの確認」を先に置きます
- ペアレント・トレーニングとペアレント・メンターという仕組みがあります。努力だけで続けなくて大丈夫です
本記事で紹介している一次情報について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 情報の性質 | 一般社団法人 人間力認定協会「アンガーマネジメントに関する困った経験談」より抜粋 |
| データ取得者 | 一般社団法人 人間力認定協会 |
| 調査期間 | 2024年5月〜2024年11月 |
| 有効回答数 | 5件 |
| 設問 | 「自身に怒りが発生した時にどのように対処しましたか?」「自身に怒りの感情がわいてきた時に気を付けていることは?」ほか |
| 分析方法 | 件数が少ないため、割合や平均値は算出していません。1件ずつの記述をそのまま紹介し、共通していた点だけを整理しています |
| 注意点 | ※回答者は、当協会が認定する「児童発達支援士」の受講者に限られます。メンタルヘルス支援士の受講者を対象にしたものではありません |
| 注意点 | 回答者には、ご家庭の保護者と、児童発達支援・放課後等デイサービス・教室の支援者の両方が含まれます |
| 注意点 | 体験談は、個人が特定されないよう一部の表現をぼかしています。内容は変えていません |
| 注意点 | 本記事は診断・治療を目的としたものではありません。ここに挙げた方法は、どなたにも同じように効くものではありません |
【注意事項】
この記事は、公的機関が公開している資料と、当協会が収集した体験談を整理したものです。個別のご家庭の対応の適否を判断するものではありません。ここで紹介した方法は5件の記述にもとづくもので、すべての方に当てはまるものではありません。お子さんに手が出てしまう、眠れない日が続いているなど、ご自身やお子さんの安全に関わる状況では、ためらわず専門の窓口にご連絡ください。


