子どもが癇癪を起こしたとき|支援の現場がやっている順番

床に寝転がって泣き叫ぶ。物を投げる。声をかけても届かない。こちらの言葉が1つも入っていかない時間が、5分、10分と続く——。

調べると「落ち着かせる方法」がたくさん出てきます。ただ、支援の現場で働いている方の記録を読むと、その場で落ち着かせることを目標にしていませんでした。

やっていたのは、時間で区切って、やることを変えるという方法です。この記事では、その順番をご紹介します。

たとえば、この記事では次のことが分かります。

  • 荒れている最中に、できることはほとんどない
  • 支援の現場が、時間で分けてやっていること
  • 落ち着いているときに、何を準備しておくか
  • 「なんで?」と聞いても答えが返ってこない理由

子どもの二次障害チェック|同じ悩みを持つ保護者の体験と対比

メンタルヘルス支援士 公式サイト

荒れている最中に、できることはほとんどありません

最初にお伝えしたいのは、この一文です。

それでも、癇癪が起こって暴れだしたら、パニックの最中は何を言ってもしても無駄なので、子どもを一人にして、幼い弟に危害を加えないように、一緒に別の部屋に移動して治まるのを待った。

ご家庭でのお子さんについて書かれた回答です。「何を言ってもしても無駄」と書かれています。これは投げやりな意味ではありません。この時間にできることは、安全を確保して待つことだけだと分かったうえで書かれています。

ここを間違えると、こちらが消耗します。説得しようとする、言い聞かせようとする、こちらも声を大きくする——どれも届かないので、疲れだけが残ります。

別の回答でも、同じ構造が書かれていました。

ASDの年長さんのため冷静に伝えても、怒りのボルテージが上がると耳に入らないことが多いです。

児童発達支援の現場で働いている方の回答です。「冷静に伝えても」耳に入らない。伝え方の問題ではなく、届く状態にないということです。

なぜ、言葉が届かなくなるのか

「わがまま」「甘やかしたから」と言われることがありますが、そうではありません。癇癪が起きているとき、お子さんの側では次のことが重なっています。

  • 気持ちに名前が付いていない|「悔しい」「恥ずかしい」「怖い」の区別がまだ付かず、まとめて大きな不快として出ます
  • 伝える言葉を持っていない|言いたいことはあるのに、そのときに使える文が出てこない
  • 予想とずれたことが起きている|見通しが立たない状況は、それだけで負担になります
  • 感覚の負担が重なっている|音・人の多さ・暑さなどが、限界を早めていることがあります

自閉スペクトラム症の特性について、国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害情報・支援センター」は「相互的な対人関係の障害」と「興味や行動の偏り」の2つに整理しています。上に挙げた4つは、いずれもこの特性と地続きのものです。

そして、この4つはどれも「その場で説得すれば解決する」種類のものではありません。だからこそ、働きかけの置き場所を前後にずらすことになります。

ここから、やることが決まります。

  • 荒れている最中は、安全の確保だけ(本人・きょうだい・物)
  • 説得・言い聞かせ・叱責は、この時間には置かない
  • 働きかけるのは、その前とその後

現場は、時間で区切って、やることを変えていました

癇癪への対応を時間で分けた図。落ち着いているとき・荒れそうなとき・荒れている最中・そのあと

放課後等デイサービスの支援員として関わった方が、やっていたことを3つに分けて書いていました。この記事の中心になる記録です。

①その都度の声掛け:感情の代弁「勝ちたかったよねぇ」「1番がよかったんだねぇ」等状況を確認したり、「悔しかったんだよね」等と感情の言葉を伝えるようにしていました。②個別での机上課題で感情についての学習:本人が落ち着いている時にやっていました。まずは感情の種類をイラストと言葉を一致させ、その後本人はどんな時にその感情になるのかエピソードを出してもらいました。

②に「本人が落ち着いている時にやっていました」と書かれています。感情の学習は、荒れている最中ではなく、平常時に行われています。

そして3つめが、事前の取り決めです。

クールダウンの方法を確認しました。この子の場合はクールダウンルームの使用とプッシュポップで遊ぶになりました。また5分おきに気持ちが落ち着いたか確認をして欲しいこと、確認以外は1人にして欲しいことを学習から半年位経った頃に自分からお願いしてきました。

「確認以外は1人にして欲しい」——これを本人が自分から言えるようになっています。大人が決めたルールではなく、本人と決めた取り決めです。

この考え方を、4つの場面に分けて表にまとめます。

時間やること
落ち着いているとき感情の名前と、そのときの言い方を一緒に学ぶ。クールダウンの方法と、そのときの関わり方を本人と決めておく
荒れそうなとき感情を代弁する(「勝ちたかったよね」「1番がよかったんだね」)
荒れている最中安全の確保だけ。取り決めどおりに離れる。説得しない
落ち着いたあとできたことを言葉にする。片づけを一緒にする

いちばん上が、いちばん手間がかかり、いちばん効いています。荒れている最中に何とかしようとするより、平常時の準備に時間を使うほうが、結果として楽になります。

体験談は、個人が特定されないよう一部の表現をぼかしています。内容は変えていません。

「代わりに言う言葉」を、先に用意しておきます

感情の学習で何をしていたか、もう少し具体的に書かれていました。

適切な気持ちの伝え方を具体的な言葉を使って助言しました。「僕も勝ちたいからもう1回しよう」「ズルで勝ちたくないから真剣勝負でやろう」「急いで欲しいです」などの言葉をまずは支援員が案を出しそれを本人が言いやすいようにアレンジして行きました。

「怒らないようにしよう」ではありません。怒ったときに使える具体的な文を、あらかじめ用意しています。そして、大人が出した案をそのまま覚えさせるのではなく、本人が言いやすい形に直しています。

ご家庭でも、同じことを絵で行っていた記録があります。

作業に入る前に、怒って「できない~!」と言っている絵カードと、落ち着いて「手伝って。」と言っている絵カードを見せて、こっちじゃなくて、こっちだよ。イライラしそうになったら、こう言おうね、と声をかけた。

「作業に入る前に」見せています。癇癪が起きてから出すのではなく、起きそうな場面の前に置いています。同じ方は、結果として「だんだんと、絵カードのように、怒らずに『手伝って』と言えるようになった」と書いていました。

この2件に共通しているのは、次の点です。

  • 「してはいけないこと」ではなく「代わりに言う言葉」を渡している
  • 渡すタイミングが、荒れる前
  • 言葉や絵にして、目で見える形にしている

3つめは、支援の現場で視覚支援と呼ばれている考え方です。耳で受け取るより、目で見えているほうが確実に届く場面があります。

「なんで?」と聞くと、止まってしまうことがあります

落ち着いたあと、理由を聞きたくなります。ただ、その聞き方で結果が変わっていました。

私「なんでBくんの隣に座りたいの?」Aちゃん「ポケモンごっこして仲良くしたいから」私「でも急にこんな近くに来られてBくん嫌だって言ってるよ?」「嫌って思われたらBくん仲良くしてくれるかな?」Aちゃん「でも一緒に遊びたい!!」Aちゃん癇癪

児童発達支援の現場での記録です。最初の「なんで?」には答えられています。止まったのは、そのあとの問いかけでした。

ただ、同じ方はこう続けています。「冷静になんでそうしたいの?と聞いた時に、叫ばず答えられるようになったことが一歩踏み出せたんだなと思いました。」癇癪は起きましたが、最初の質問には言葉で答えられている。そこを成果として数えています。

もうひとつ、聞き方を変えた記録があります。

あ!とまずは怒っている子どもに声をかけて注意をこちらに向けてもらう。気がそれたかを確認してから、怒っている事に気がついてもらう。どれくらい怒っているのか聞く。相手の友達を呼んで聞こえたか尋ねてみると、教室がざわざわしてるので聞こえてない時が多い。

教室での記録です。「無視された」と怒っていた子に対して、相手を呼んで確かめています。結果は「聞こえてない時が多い」でした。同じ方は「無視でなくて、聞こえなかったことに気がついてくれた。すぐ無視した!となる勘違いが少し減りました」と書いています。

聞き方を並べておきます。

止まりやすい聞き方答えやすい聞き方
なんで怒ったのどれくらい怒ってる?(大きさで答えられる)
どうしてそんなことするのどうしたかったの
それはダメだよね?ほんとうに聞こえてたか、確かめてみようか
もうしないって約束できる?次に同じことがあったら、なんて言う?

左に×印は付けていません。左の聞き方が間違っているのではなく、この場面では答えが出にくい、というだけです。

子どもに怒りすぎたあと|その場を離れるのは、逃げではありません

変化は、なくなることではありませんでした

「対処した結果、どのような変化がありましたか」という設問への答えを見ると、癇癪がなくなったと書いた人はいませんでした。

怒ることも少なからずあったものの以前のような怒り荒れ狂うまでいかずに「僕怒ってる!1人になる!」と大声で宣言してその場を離れる等の対処が出来るようになりました。またその怒ることも理由を聞けば納得が出来るレベルになった事も大きな変化でした。

放課後等デイサービスでの記録です。「僕怒ってる!1人になる!」と大声で宣言する——これが成果として書かれています。静かになったわけではありません。怒りを言葉にして、自分で場を離れられるようになった、ということです。

ご家庭の記録でも、同じ形でした。「上手くできないとすぐにイライラしたり心が折れて、やめてしまうが、パニックになって暴れて物に当たるということは、無くなった」——イライラはなくなっていません。行動の大きさが変わっています。

ここを目標にしてください。

  • 怒らなくなることを目標にしない
  • 怒ったときに、言葉が出るようになったかを見る
  • 時間がかかります。先ほどの記録では、半年から1年ほどかかっています

子どもの暴言・暴力・反抗|荒れる前に、何があったのか

メンタルヘルス支援士について

ここまで、支援の現場が時間を3つに分けていることと、言葉を先に用意しておく方法をご紹介してきました。

こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。

当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを、体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。

資格の有無が支援の基準になるものではありませんが、身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。

メンタルヘルス支援士の詳細について

Q&A|子どもの癇癪への対応に関するよくある質問

Q1:癇癪の最中、抱きしめたほうがよいですか?

お子さんによって異なります。落ち着く場合もあれば、触られることでさらに強くなる場合もあります。ここを毎回その場で判断するのは難しいので、落ち着いているときに本人と決めておくのが確実です。紹介した記録でも、「5分おきに確認してほしい、それ以外は1人にしてほしい」という形で、本人から取り決めが出ていました。

Q2:きょうだいがいる場合はどうすればよいですか?

安全の確保が最優先です。記録のなかでも、「幼い弟に危害を加えないように、一緒に別の部屋に移動して治まるのを待った」と書かれていました。本人を動かすのではなく、周りが移動するほうが早い場合があります。移動先をあらかじめ決めておくと、その場で迷わずに済みます。

Q3:どのくらいで変わりますか?

紹介した記録では、感情の学習を始めてから半年ほどで「1人になる」と宣言できるようになり、1年弱で「イライラするからクールダウン室に行ってもいいですか」と自分から確認できるようになっています。短期間で変わるものではありません。そして、癇癪そのものがなくなったという記録はありませんでした。

Q4:家では絵カードを嫌がります。

形にこだわらなくて大丈夫です。大事なのは「目で見える形にする」ことと「荒れる前に渡す」ことの2つで、絵カードはその手段のひとつにすぎません。年齢が上のお子さんなら、文字のメモ、ホワイトボード、スマートフォンのメモでも同じ働きをします。本人が受け取りやすい形を、本人と決めてください。

Q5:どこに相談すればよいか分かりません。

お住まいの地域の発達障害者支援センターが、本人だけでなくご家族からの相談も受け付けています。通っている園・学校、放課後等デイサービスなどの支援機関があれば、そこでも相談できます。お子さんへの関わり方そのものに困っている場合は、自治体が実施しているペアレント・トレーニングやペアレント・メンターの制度も使えます。いずれもこの記事の最後にリンクを掲載しています。

まとめ|手をかけるのは、荒れていない時間です

「なんで?」の代わりに使える聞き方のまとめ図
  • 荒れている最中にできるのは、安全の確保だけです。「何を言ってもしても無駄」と現場の記録にあります
  • 感情の学習も、クールダウンの取り決めも、落ち着いているときに行われていました
  • 渡すのは「してはいけないこと」ではなく「代わりに言う言葉」。絵や文字にして、荒れる前に置きます
  • 「なんで?」は止まりやすい聞き方です。「どれくらい怒ってる?」なら答えられます
  • 目標は、怒らなくなることではありません。怒ったときに言葉が出て、自分で場を離れられるようになることです

本記事で紹介している一次情報について

項目内容
情報の性質一般社団法人 人間力認定協会「アンガーマネジメントに関する困った経験談」より抜粋
データ取得者一般社団法人 人間力認定協会
調査期間2024年5月〜2024年11月
有効回答数5件
設問「子どもが怒ったときのシチュエーションは?」「あなたはどのように対処しましたか?」「対処をした結果、どのような変化がありましたか?」「自身に怒りが発生した時にどのように対処しましたか?」「自身に怒りの感情がわいてきた時に気を付けていることは?」
分析方法件数が少ないため、割合や平均値は算出していません。1件ずつの記述をそのまま紹介し、共通していた点だけを整理しています
注意点※回答者は、当協会が認定する「児童発達支援士」の受講者に限られます。メンタルヘルス支援士の受講者を対象にしたものではありません
注意点回答者には、ご家庭の保護者と、児童発達支援・放課後等デイサービス・教室の支援者の両方が含まれます
注意点体験談は、個人が特定されないよう一部の表現をぼかしています。内容は変えていません
注意点本記事は診断・治療を目的としたものではありません。ここに挙げた方法は、どのお子さんにも同じように効くものではありません

【注意事項】

この記事は、公的機関が公開している資料と、当協会が収集した体験談を整理したものです。個別のお子さんへの対応の適否を判断するものではありません。ここで紹介した方法は5件の記述にもとづくもので、すべてのお子さんに当てはまるものではありません。お子さんやご家族の安全に関わる状況では、ためらわず専門の窓口にご連絡ください。

参考・相談先

メンタルヘルス支援士バナー