診断はついていない。でも、明らかに困っている。教室にそういう子がいると、対応の根拠がどこにもない状態で毎日判断することになります。支援の対象ではないから会議にも上がらない。けれど放っておけば、その子が一番しんどい思いをする。
文部科学省が令和4年に実施した調査では、通常の学級に在籍する小・中学生のうち、学習面または行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合は8.8%と推定されています。そのうち校内委員会で特別な教育的支援が必要と判断されていない児童生徒は70.6%。気づかれていても、制度に乗っていない子のほうが多いということです。
当協会の受講後アンケート248件に寄せられた記述94件を読み直すと、診断がついていない相手への関わりに触れたものが7件(7.4%)ありました。学校だけでなく、職場でも同じことが起きています。
この記事では、公的な調査の数字と受講者の記述を並べて、診断のない子にどう関わるかを整理します。診断や治療の話ではなく、教室のなかで今日できることの話です。
>メンタルヘルス支援士の内容|学べること・学べないことを受講者248人のデータで
本記事で紹介している一次情報について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 情報の性質 | 一般社団法人 人間力認定協会「メンタルヘルス支援士 受講後アンケート」の自由記述欄・エピソード欄より抜粋 |
| データ取得者 | 一般社団法人 人間力認定協会 |
| 調査期間 | 2025年3月〜2026年8月 |
| 有効回答数 | 248件(自由記述65件・エピソード29件の計94件) |
| 設問 | 「自由にメッセージをお願いします」「共有したいエピソードがありましたらお願いします」(いずれも自由記述・任意) |
| 分析方法 | 94件を全文検索し、「グレーゾーン」「診断されていない」「診断名はなく」など診断がついていない相手への関わりに触れた記述7件を抽出 |
| 注意点 | 任意の自由記述欄です。書かれなかった方に該当する経験がなかったことを意味しません |
| 注意点 | 受講後アンケートに職種を尋ねる設問はありません。学校の記述か職場の記述かは、書かれた内容から判断しています |
| 一般情報の出典 | 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」(令和4年12月13日公表)。2026年8月29日に閲覧して確認 |
| 一般情報の注意点 | 同調査の数値は担任教員等による回答に基づく推定値であり、医師の診断によるものではありません(文部科学省の資料に明記) |

8.8%のうち、70.6%は支援の対象になっていない
まず、公的な数字を確認します。文部科学省が令和4年1月から2月にかけて実施した調査は、全国の公立小・中・高等学校の通常の学級に在籍する児童生徒74,919人(回収率84.6%)を対象としたものです。
| 項目 | 小学校・中学校 | 高等学校 |
|---|---|---|
| 学習面または行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の推定値 | 8.8% | 2.2% |
| うち校内委員会で特別な教育的支援が必要と判断されていない | 70.6% | 79.0% |
小・中学校で8.8%。単純に計算すれば、35人の学級におよそ3人という規模です。そしてそのうち7割は、校内委員会で「特別な教育的支援が必要」と判断されていません。
ここで大切なのは、この8.8%が医師の診断ではなく、担任教員等による回答に基づく推定値だという点です。文部科学省の資料にも明記されています。つまりこの数字自体が「診断名のない困りごと」の規模を表しています。
教室で「気になる子」と呼ばれている存在は、統計のうえでも大きな塊になっている。そのうえで、支援の枠組みには入っていない。対応の根拠が見つからないのは、担当者の力量の問題ではなく、構造の問題です。
もうひとつ、この調査で押さえておきたいことがあります。高等学校では推定値が2.2%まで下がる一方で、支援が必要と判断されていない割合は79.0%と、小・中学校よりさらに高くなっています。困難を示す生徒の数が減っているのか、それとも高校では気づかれにくくなっているのか、この調査だけでは判断できません。ただ、学齢が上がるほど、制度につながっていない割合が増えているという事実は残ります。中学から高校へ進むときに、支援が引き継がれずに切れてしまう。現場の感覚と一致する数字ではないでしょうか。
受講者の記述94件のうち、7件が「診断がついていない」に触れていた
ここからは当協会の一次情報です。受講後アンケートに寄せられた自由記述65件とエピソード29件の計94件を全文検索し、診断のついていない相手への関わりに触れた記述を抽出しました。該当したのは7件(7.4%)です。
小学校教員をしています。どんどん増える精神疾患を持っているか、グレーの域にいる子供、大人について理解を深められ、良い対応ができたと認識しております。感謝しております。
50代の方の回答です。総合評価は「満足」でした。「グレーの域にいる子供、大人」と、子どもと大人を並べて書かれています。教室で必要になる理解の範囲は、児童生徒だけでは足りなくなっているということです。
小学校の支援員として、2年目になります。(中略)それらの資格を持つことによって感じることは、我が子もそうですが、支援員をしてる支援学級や通級している子ではない、通常級にいるグレーゾーンと思われる子達の多さです。「この子が支援を受けれたら、もっと伸び伸び過ごせるのにな」とか、「みんなと同じじゃなく、自分のペースでできたらもっとしっかりできるのにな」とか「生きづらさや、自己肯定感が下がってしまい、身体に不調が出てきてしまっている子」が、本当によく見えるようになりました。(後略)
40代の方の回答です。総合評価は「普通」でした。「支援学級や通級している子ではない、通常級にいるグレーゾーンと思われる子達の多さ」。文部科学省の8.8%という数字を、現場の言葉で言い直すとこうなります。この記述で注目したいのは、「本当によく見えるようになりました」という部分です。学ぶ前と後で変わったのは対応の権限ではなく、見え方のほうでした。
受講生さんのお子さんで、具体的な特性の診断名はなくとも、抜毛クセが抜けなかったり、白か黒か、でしか物事を考えられない子が居たりします。子育ての関わりとしてはお伝えしておりますが、心理学の面から学ぶ具体的なスキル名やスキル法を知ることでより伝える側として自信を感じられました。今行っていることは、コレを目的としたこういうこと、ということを受講生さんと共有しやすいです。ありがとうございます。
40代の方の回答です。総合評価は「満足」でした。ここには、診断名がない場面で知識が果たす役割が具体的に書かれています。「今行っていることは、コレを目的としたこういうこと」と説明できるようになったという部分です。診断名は使えなくても、行っている関わりに名前をつけて共有することはできます。
>担任の先生と合わないとき|二次障害のきっかけは1つではありません
診断名がないことの、もうひとつの側面
診断がついていないことは、支援が届きにくいという問題を生みます。ただ、7件のなかには逆の方向を書いた記述もありました。
仕事している中で問題行動がある方に対し、「発達障害じゃない?」という言葉を聞きます。診断はされていないのに、何か問題が出ると簡単にこのような判断を差別的にされる事が辛いです。いくら言葉を尽くしても分かってもらえない辛さは痛いです。まだまだ伝えきれない弱さには自身の理解が足りないのだと、これからも精進していきたいと思う経験です。
50代の方の回答です。総合評価は「満足」でした。職場の記述ですが、教室でも同じことが起きます。診断名は、支援につながる鍵にもなれば、決めつけの道具にもなります。「発達障害じゃない?」という言葉が、理解ではなく切り離しのために使われている場面です。
この2つを並べると、教室での関わり方の輪郭が見えてきます。診断名を待つ必要はないが、診断名を勝手に当てはめてもいけない。その間にあるのが、観察した事実を言葉にすることです。「落ち着きがない子」ではなく「音楽室の前でだけ声が大きくなる」。「反抗的な子」ではなく「予定が変わった日に固まる」。診断名を使わずに共有できる情報は、いくらでもあります。
この書き分けには、実務上の利点もあります。診断名は本人の属性として貼りつきますが、観察した事実は場面と結びついた情報です。「音楽室の前でだけ」と分かれば、音楽室に入る前に何が起きているかを見る、という次の一手が出てきます。診断名からは、次の一手が出てきません。環境の側で変えられることを探すには、場面の情報のほうが役に立ちます。
あわせて、記録の残し方も変わります。診断名を書いた記録は、共有できる範囲が限られ、扱いにも注意が要ります。一方、観察した事実の記録は引き継ぎに使えます。学年が変わっても、担当が替わっても持ち越せる形にしておくこと。先ほどの調査で高校の「判断されていない割合」が79.0%と高いことを考えると、この引き継ぎの有無は小さくない差になります。
学校の枠にはまりたくない子ども達に戸惑い今は何とか穏やかに過ごしています。周りとは違うルートですが、これからも無理や我慢をしすぎず生きやすい時代になること願います。
40代の方の回答です。総合評価は「満足」でした。この記述は、対応の成功例ではありません。「何とか穏やかに過ごしています」という状態を、そのまま書いています。診断のない子への関わりは、多くの場合こういう着地をします。解決ではなく、しばらく落ち着いている状態を保つこと。それも成果のうちだと考えています。
>メンタルヘルス資格のおすすめは?職種・目的別に選ぶ方法と受講者146人のデータ
診断がついていない子への関わり方の整理

| やらないこと | 代わりにできること |
|---|---|
| 診断名を推測して当てはめる | 観察した事実を、そのまま言葉にする(「落ち着きがない」→「音楽室の前でだけ声が大きくなる」) |
| 「発達障害じゃない?」と口にする | 困っている場面と、困っていない場面を分けて記録する |
| 診断がつくまで待つ | いまの環境で調整できることを先に変える(席、予定の伝え方、休める場所) |
| 一人で抱えて判断する | 行っている関わりに名前をつけて、担任や関係者と共有する |
| 解決を求めて焦る | 落ち着いている状態を保てていることを、成果として数える |
メンタルヘルス支援士について
ここまで、診断がついていない子への関わり方についてご紹介してきました。
こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを、体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格の有無が支援の基準になるものではありませんが、身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。
Q&A|学校での「気になる子」への対応
Q1:診断がついていない子に、特別な対応をしてもよいのですか?
診断の有無と、環境を調整するかどうかは別の判断です。席の位置、予定の伝え方、休める場所の確保といった調整は、診断を待たずにできることです。文部科学省の調査でも、著しい困難を示すとされた児童生徒のうち70.6%は校内委員会で特別な教育的支援が必要と判断されていません。制度に乗るのを待っていると、その間の時間がそのまま失われます。
Q2:保護者に受診をすすめてもよいですか?
学校の側から診断名を持ち出すことは避けてください。診断は医師が行うもので、教職員が判断する立場にはありません。伝えるのは、学校で観察できた事実までにとどめます。「授業についていけていない」ではなく「板書を写す場面で手が止まる時間が長い」のように、具体的な場面で伝えるほうが、保護者も受け取りやすくなります。相談先が必要な場合は、スクールカウンセラーや教育委員会の教育相談窓口を案内してください。
Q3:「発達障害では」と言われている子に、どう向き合えばよいですか?
受講者の記述に、まさにこの状況を書いたものがあります。「診断はされていないのに、何か問題が出ると簡単にこのような判断を差別的にされる事が辛いです」という一文です。診断名は、支援につながる鍵にもなれば、決めつけの道具にもなります。周囲がその言葉を使い始めたときは、診断名の話を戻すのではなく、観察できた事実に話題を移すのが現実的です。
Q4:学んでも、対応できる範囲は変わらないのでは?
変わりません。メンタルヘルス系の民間資格に業務独占はなく、学んだことで担当できる業務が増えるわけでもありません。変わるのは見え方と、共有できる言葉の数です。受講者の記述にも「通常級にいるグレーゾーンと思われる子達の多さ」が「本当によく見えるようになりました」とあります。見えていないものについては、誰も動けません。
Q5:何をもって「うまくいった」と考えればよいですか?
解決を基準にすると、ほとんどの場面が失敗になります。受講者の記述にも「今は何とか穏やかに過ごしています」という書き方がありました。落ち着いている状態を保てていること自体を、成果として数えてください。診断のない子への関わりは長期戦になりやすく、短期の変化を求めると、支える側が先に消耗します。
子どもの背景には、支える家族がいます。家族の側が何を学んでいるかは、別の記事で整理しました。
>家族が精神疾患になったときの支え方|治すのは家族の仕事ではありません
まとめ|診断名を待たずにできることがある
- 文部科学省の令和4年調査では、通常の学級で学習面または行動面に著しい困難を示すとされた小・中学生は8.8%(高校は2.2%)
- そのうち70.6%は校内委員会で特別な教育的支援が必要と判断されていない(高校は79.0%)
- この8.8%は担任教員等による回答に基づく推定値で、医師の診断によるものではない
- 当協会の受講後の記述94件のうち、7件(7.4%)が診断のついていない相手への関わりに触れていた
- ある記述は、通常級のグレーゾーンの子が「本当によく見えるようになりました」と書いている
- 別の記述は、「発達障害じゃない?」という言葉が決めつけに使われる辛さを書いている
- できるのは、観察した事実を言葉にすること・環境を先に調整すること・関わりに名前をつけて共有すること
診断名がないと動けない、という状態が続くと、8.8%のうちの7割はどこにもつながりません。診断は医師の仕事ですが、環境を整えることは教室の側でできます。そのために必要なのは診断名ではなく、いま何が起きているかを言葉にする力のほうです。
【注意事項】
この記事で紹介している内容は、当協会が収集したアンケート・体験談の一部をもとにまとめています。心の状態や必要な支援は一人ひとり異なり、一律の正解はありません。また、本記事は診断・治療を目的としたものではありません。気になる症状や不安がある場合は、早めに医師・専門機関・お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。


