実家に帰ると、決まって体調が悪くなる。電話が鳴ると、出る前に身構える。それでも「家族なんだから」と言われると、返す言葉がありません。
この状態は、配偶者との関係で語られることがほとんどです。ただ、親やきょうだいとの関係で同じことが起きている方もいます。
そして親子の場合、ひとつ違うところがあります。始まりがいつか、分からないことです。
この記事では、次のことが分かります。
- 親子だと、気づくのがいちばん遅くなる理由
- 家のなかの「普通」が、外と比べられないということ
- 大人になってからでも作れる距離のとり方
- 親を変えようとしなくてよい理由と、相談できる先
>カサンドラ症候群とは|病名ではありません。相手に診断がない人が6割
親子だと「いつからか」が分かりません

配偶者との関係であれば、出会う前の自分を覚えています。「結婚してから眠れなくなった」「同居を始めてから頭痛が増えた」——前と後ろを比べられます。
親子には、その「前」がありません。生まれたときから同じ家にいるため、いつから消耗していたのかを特定できません。
この違いは、思っているより大きく効きます。
| 配偶者・職場の場合 | 親・きょうだいの場合 |
|---|---|
| 出会う前の自分と比べられる | 比べる相手が、自分のなかにいない |
| 「変わった」と気づける | ずっとこうだったので、変化として見えない |
| 離れるという選択肢が、最初からある | 離れることが「親不孝」として語られる |
| 周囲に説明する相手がいる | 周囲が同じ家族なので、説明する相手がいない |
2行目が、いちばん問題になります。変化として見えないものは、不調の原因として思い浮かびません。だから病院に行っても、家庭のことを話しません。
家のなかの「普通」は外と比べられません
当協会に寄せられた記録のなかに、親ときょうだいについて書かれたものがありました。
昔から父は変わったことを言う人間だった。なのに母は全てを父に従うため、私は子どもながら両親共に嫌いだった。家族揃っての食事が何よりも私にとって嫌な時間だった。
親・きょうだい・職場の同僚について書かれた回答です。相手に診断はありません。
「家族揃っての食事が何よりも嫌な時間だった」——これが、子どもの側から見た消耗のかたちです。特定の出来事ではなく、毎日くり返される場面が挙がっています。
もうひとつ、この短い記述には大事なことが書かれています。「なのに母は全てを父に従うため」——もう一方の親が、緩衝材になっていません。家のなかに、判断を確かめられる相手がいない状態です。
この状態で育つと、次のことが起きます。
- 自分の感じ方が正しいのか、確かめる機会がありません
- 友人の家庭と違うと気づいても、「うちが変」なのか「自分が我慢できないだけ」なのかが分かりません
- 結果として、原因の置き場所が自分しか残りません
体験談は、個人が特定されないよう一部の表現をぼかしています。内容は変えていません。
「外ではいい人」という条件は親世代にも起きます
配偶者の場合によく語られる「外ではいい人」という条件は、親世代でも同じように起きています。
義父母と主人が対人関係に著しく弱く、外面はものすごい優しく評判が良い。密室空間で家族だけになると自分の話しかせず、支配的、独占的になり束縛が強い。
配偶者と、その両親の両方について書かれた回答です。「外面はものすごい優しく評判が良い」と「家族だけになると」が、同じ文に並んでいます。
親戚づきあいのなかでは、これが効いてきます。法事や集まりの場で、周囲が見ているのは前半の姿だけです。そこで「実は困っている」と言っても、話が通じません。
⚠ ここで、ひとつ区別しておきたいことがあります。親の言動が説明しにくいことと、親に発達障害があることは、別の話です。相手に診断がないまま「うちの親は発達障害だ」と決めつける必要はありません。必要なのは相手の分類ではなく、あなたの状態の把握です。
>カサンドラ症候群は思い込み?|「気のせい」と言われる3つの条件
大人になってからでも距離は作れます
同じ方が、そのあとどうしているかも書かれていました。
職場の同僚が発達障害だと直感したため、なるべく関わらないことでカサンドラ症候群防止に努めることに専念。だか同室で働くスタッフのひとりはバトルとなり私は相談を受けた。父とはほぼ口を利かないようにしている。
親・きょうだい・職場の同僚について書かれた回答です。ここには2つのことが書かれています。
ひとつは、家庭で身につけた消耗の止め方を、職場でも使っているということ。「なるべく関わらないことで防止に努める」——先に動いています。
もうひとつは、最後の一文です。「父とはほぼ口を利かないようにしている」。同居をやめたとも、縁を切ったとも書かれていません。同じ家族のままで、話す量だけを減らしています。
親子の場合、距離のとり方には段階があります。
- 話題を減らす——自分の仕事・体調・お金・子育ての話をしない。天気と用件だけにする
- 連絡の手段を変える——電話をやめて、文字にする。その場で返さなくてよくなります
- 会う時間を先に決める——「◯時に出ます」と伝えてから行く。終わりが決まっていると消耗が減ります
- 一対一で会わない——配偶者や子どもと一緒に行く。記録のなかにも、2人以上で対応するのが望ましいと書いた方がいました
上の3つは、同居していてもできます。「実家を出る」から始めなくて大丈夫です。
なかでも効きやすいのが、1つめの「話題を減らす」です。理由があります。消耗が起きているのは、相手といる時間そのものより、こちらが差し出した話に返ってこなかった場面のほうだからです。自分の仕事の話をして、まったく違う返事が来る。体調の話をして、相手の話にすり替わる。この一往復が積み上がります。
差し出す話を減らせば、返ってこない場面も減ります。冷たいようですが、やめているのは「分かってもらおうとすること」であって、関係そのものではありません。
介護が始まると作った距離がなくなります
親子の関係には、配偶者の場合にはない時期があります。親が高齢になって、支援が必要になる時期です。
ここで何が起きるか。何年もかけて作ってきた距離が、一度に戻ります。通院の付き添い、入退院の手続き、施設の見学、お金の管理。関わる回数も、話す量も、以前より増えます。
しかも、周囲の見方はこう変わります。「あなたが子どもなんだから」。距離を取っていた経緯は、ここでは考慮されません。
だから、この時期が来る前に決めておくことがあります。
- 自分が担当しないことを、先に決める——すべてを引き受けない。金銭管理だけは別の人に、など
- 窓口を1つ作っておく——地域包括支援センターは、介護が始まる前から相談できます
- きょうだいとの分担を、書いたものにしておく——口約束だと、後から食い違います
- 自分の受診先を持っておく——始まってからでは、自分のための時間が取れません
地域包括支援センターは、お住まいの市区町村が設置している高齢者の相談窓口です。介護保険の申請前でも、家族からの相談を受け付けています。「まだ介護は始まっていないが、関係が難しい」という段階で行って大丈夫です。
ここで話しておくと、実際に始まったときに一から説明せずに済みます。距離を守るための準備を、公的な仕組みの側に預けておくということです。
親を受診させようとして止まる方がいます
親の言動に説明がついた気がすると、次に考えるのは「病院に連れて行けないか」です。ここで止まる方が、とても多くいます。
記録のなかにも、本人が受診を拒み、家族のほうが代わりに受診して専門医に相談したという記述がありました。そのうえで、本人が病院に行くまでには至っていません。
ここから言えることは、はっきりしています。
- 受診するかどうかを決めるのは、本人です。成人した親を、家族が受診させることはできません
- ただし、家族のほうが相談することはできます。本人の同意も、受診も要りません
- 説得に時間をかけるほど、こちらの消耗が増えます。先に手を打つのは、自分の側です
相談できる先は、次のとおりです。いずれも家族からの相談を受け付けています。
- 精神保健福祉センター|心の健康全般。無料で、相手を知らない相手に話せます
- 発達障害者支援センター|本人・家族の両方から相談を受け付けています
- 地域包括支援センター|親が高齢の場合。介護だけでなく、家族の困りごとの窓口にもなります
- 働いている方は、厚生労働省「こころの耳」の電話・SNS・メール相談も使えます
眠れない日が続いている、消えてしまいたいという気持ちがあるといった場合は、ためらわずご連絡ください。リンクはこの記事の最後に掲載しています。
>カサンドラを誰にも言えないとき|相手を知らない人を選んでください
メンタルヘルス支援士について
ここまで、親子だと気づくのが遅くなる理由と、大人になってからでも作れる距離のとり方をご説明してきました。
こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢などを、体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格の有無が支援の基準になるものではありませんが、身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。
Q&A|親との関係についてのよくある質問
Q1:実家に帰ると具合が悪くなります。気のせいでしょうか。
気持ちで判定しようとすると堂々めぐりになります。かわりに、数えられるものを見てください。実家に行った日・行った翌日に、頭痛や不眠が出ているかを2週間ぶん記録します。連動しているなら、それは気の持ちようで説明できることではありません。記録は医療機関でも役に立ちます。「いつから、どのくらい続いているか」は必ず聞かれる項目だからです。カレンダーに記号で印をつけるだけで十分で、文章にする必要はありません。誰の同意も要らず、誰にも見せなくてかまいません。
Q2:親と距離を置くのは親不孝ではないでしょうか。
距離のとり方は、縁を切ることだけではありません。記録のなかにも「口を利かないようにしている」と書きつつ、家族の関係そのものは続いている方がいました。話す量や話題を減らすことと、関係を終わらせることは別です。そして、こちらが倒れてしまうと、必要なときに動けるのもいなくなります。続けるために減らす、という考え方でかまいません。
Q3:親を病院に連れて行くにはどうすればよいですか。
成人した本人の受診は、本人が決めることです。家族の側から強制することはできません。記録のなかにも、本人が受診を拒んだという記述がありました。ただし、家族のほうが相談することは、本人の同意なしにできます。精神保健福祉センターや発達障害者支援センターは、家族からの相談を受け付けています。まず「こちらが相談する」に切り替えてください。
Q4:きょうだいに話しても分かってもらえません。
同じ家で育っていても、受けてきた扱いが違うことがあります。親との関係が近かった側と遠かった側では、見えている像がまったく違います。ここで一致させようとすると、きょうだいとの関係まで消耗します。分かってもらう相手は、家族の外に置いてください。公的な相談窓口は、家族の事情を知らないぶん、説明の前提を共有する必要がありません。なお、介護や手続きの分担については、一致していなくても決めておく必要があります。感じ方の一致と、役割の分担は、別々に進めてかまいません。
Q5:自分にも同じ特性があるのではと不安です。
そう考える方は少なくありません。ただ、この不安を抱えたまま自分を調べ始めると、目的が「原因の特定」にすり替わります。先に手を打つのは、眠れているか・痛みが減っているかのほうです。そのうえで、ご自身の特性について知りたい場合は、発達障害者支援センターや医療機関で相談できます。特性の有無にかかわらず、いま出ている不調には対処が必要です。また、育った環境で身につけた反応と、生まれつきの特性は、外から見ると似た形をとることがあります。どちらであっても、対処のしかたは大きく変わりません。関わる相手との距離を調整し、休息を確保する——ここは共通です。
まとめ|実家を出ることから始めなくて大丈夫です

- 親子の場合、「前」の自分がいないため、変化として気づけません。だから名前がつくのが遅くなります
- 記録に挙がっていたのは、特定の出来事ではなく「家族揃っての食事」という毎日の場面でした
- 「外ではいい人」という条件は、親世代でも同じように起きています
- 距離は、話題を減らす・文字にする・時間を先に決める・一対一で会わない、の順で作れます。同居していてもできます
- 親の受診は本人が決めることですが、家族の相談は本人の同意なしにできます
本記事で紹介している一次情報について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 情報の性質 | 一般社団法人 人間力認定協会「カサンドラ症候群に関するエピソード調査」より抜粋 |
| データ取得者 | 一般社団法人 人間力認定協会 |
| 調査期間 | 2022年11月〜2026年 |
| 有効回答数 | 36件 |
| 設問 | 「どなたが発達障害ですか?」「あなたは相手に対しどのような点で強くストレスを感じていますか?」「相手との日々の関わり合いの中で工夫していることはありますか?」「ご自身がカサンドラ症候群だと気づいたきっかけは?」ほか |
| 分析方法 | 相手として親・きょうだい・親族を挙げた回答を抜き出し、記述を紹介しました。件数や割合は算出していません(該当する回答が少ないため) |
| 注意点 | ※回答者は、当協会が認定する「児童発達支援士」の受講者に限られます。メンタルヘルス支援士の受講者を対象にしたものではありません |
| 注意点 | 相手に発達障害の診断があるかは、回答者の認識にもとづくものです。診断の有無を当協会が確認したものではありません |
| 注意点 | 体験談は、個人が特定されないよう一部の表現をぼかしています。内容は変えていません |
| 注意点 | 本記事は診断・治療を目的としたものではありません。特定の個人について発達障害の有無を判断するものでもありません |
【注意事項】
この記事は、公的機関が公開している資料と、当協会が収集した体験談を整理したものです。個別の状況について診断や判断を行うものではなく、ご家族との関係をどうするかを助言するものでもありません。相手に診断がないまま「発達障害だ」と決めつけることは避けてください。眠れない日が続いている、消えてしまいたいという気持ちがあるといった場合は、ためらわず下記の窓口にご連絡ください。ご自身や周囲の安全に関わる状況では、すぐに専門の窓口にご相談ください。


