メンタルヘルスの本や記事を読んでいると、知っているつもりの言葉ほど、説明を求められると詰まることに気づきます。認知行動療法、受容、ラポール——どれも聞いたことはあるはずです。
そこで、先に10問だけ出します。メンタルヘルス支援士で扱う5つの分野から、当協会が作った問題です。答え合わせのあと、間違えたところの解説だけを下から読んでください。全部読む必要はありません。
3分ほどで終わります。正解できなかった問題ほど、現場でつまずきやすいところです。
精神疾患の統計|数字は、話を通すための道具です
Q1・Q2で出したのは、約603.0万人と5人に1人という2つの数字です。前者は厚生労働省の令和5年(2023年)患者調査で、内訳は入院が約26.6万人、外来が約576.4万人。入院は長く減り続けています。外来はそれまで増え続けていましたが、令和2年調査の約586.1万人からはやや減りました。
後者は厚生労働省が「生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかるともいわれています」と述べているものです。いま出回っている「614.8万人」は令和2年調査の数字で、最新ではありません。数字を使うときは、何年の調査かまで一緒に覚えてください。
この2つを覚えておく理由は、知識の量を増やすためではありません。職場や家庭で話を切り出すときに、この数字が入口になるからです。
「最近つらそうだけど大丈夫?」は、相手を身構えさせます。けれど「生涯で5人に1人がかかると言われているそうです」から入ると、話題がその人個人のことから、誰にでも起こることへ移ります。特別扱いされていないと分かるだけで、話しやすさは変わります。
大人の発達障害|「大人になってから発症した」は誤りです
Q3で聞いたのは、いちばん誤解が多いところです。誤りは「大人になってから発症したもの」です。「大人の発達障害」と呼ばれるのは、大人になってから顕在化したものと、子どものころから大人になるまで継続しているものの2つで、いずれも大人になってから発症したわけではありません。
発達障害は生まれながらの脳の働き方の違いによるものです。子どものころは、周囲のフォローがあったり、その特性が個性として受け入れられていたりして、本人も周りも気づかないまま大人になることが少なくありません。独立や就職をして人間関係が複雑になったときに、はじめて表に出てきます。
ここを取り違えると、実害が出ます。「大人になってから出てきた=本人の努力不足」「育て方の問題」という読み方が生まれるからです。当協会は、この点について叱責したり非難したりしないようにと、繰り返しお伝えしています。
カサンドラ症候群は、診断名ではありません
Q4とQ5はカサンドラ症候群です。DSM-5-TR にも ICD-11 にも記載がなく、正式な疾患名とはいえません。医療機関で「カサンドラ症候群です」と診断名がつくものではない、ということです。
名前は、ギリシャ神話の王女に由来します。未来を予知する力を授かりながら、誰からも信じてもらえなかった——という境遇からきています。
そしてQ5の答えです。カサンドラ症候群の苦しさは、大きく2つに分けて説明されます。1つ目は、適切な意思疎通ができない苦しさ。2つ目は、その苦しみを周りの人に理解してもらえない苦しさです。2つ目が起きるのは、たまに顔を合わせる程度の間柄では特性に気づかれないためで、友人や実家の両親に相談しても「え? ◯◯さんはいい人だよ」と軽く扱われてしまいます。
この語源と、2つ目の苦しさは、つながっています。信じてもらえないという一点が、この言葉の由来にそのまま重なっているということです。
>カサンドラ症候群チェックリスト|相手を変えずにできる4つの対処法
認知行動療法|「考え方を直す」ではありません
Q6の正解は1番でした。国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センターは、認知行動療法(CBT)を「認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法」と説明しています。ここでいう認知とは「ものの受け取り方や考え方」のことです。
大事なのは、めざすところが「正しい考え方に直すこと」ではなく「考え方のバランスを取ること」だという点です。強いストレスのもとでは悲観的に考えがちになり、問題を解決できない状態へ自分を追い込んでいきます。そこをいくつか選べる状態に戻す——という言い方のほうが、実態に近いと考えています。
2番として出したのは精神分析的心理療法の説明です。フロイトによって創始された、精神分析の考え方にもとづく心の理解と治療の方法で、CBTとは別のものです。この2つは三大心理療法として並べて扱われます。混同しやすいので、名前と中身をセットで覚えてください。
受容は、賛成することではありません
Q7とQ8はカウンセリングの基本です。ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
まずQ7のラポール。支援者と被支援者の間に築かれる信頼関係のことです。順番として、ここが先に来ます。ラポールが築けていない相手に技術だけを使っても、効きません。
そしてQ8の受容。正解は2番で、「あなたが抱えている感情をありのままに受け止めます」という姿勢を見せることです。
ここを「賛成すること」だと思っていると、支える側が苦しくなります。相手の言っていることに同意できないとき、受容もできないことになってしまうからです。実際には、そうではありません。
たとえば「もう会社を辞めたい」と言われたとき。辞めることに賛成しなくても、「辞めたいと思うほどしんどいんですね」とは言えます。内容に同意しなくても、その人がそう感じていること自体は受け止められる。これが受容です。
この区別がついていないと、支える側は「賛成できない話は聞けない」という状態に追い込まれます。身近な人を支えている方ほど、ここでつまずきます。
>メンタルヘルス支援士の内容|学べること・学べないことを受講者248人のデータで
心理学テクニック|明日から手が変わる2つ
Q9とQ10で出したのは、知っているだけで、次の会話から使えるものを選びました。
単純接触効果|長く話すより、回数を増やす
繰り返し接するうちに、その相手や物への好意度が高まっていくという現象です。1968年にロバート・ザイアンスが報告し、その後の多くの追試とメタ分析で確かめられています。
支援の場面での読み方は、こうです。1回で深く話し込むより、短くても会う回数を増やすほうが効くことがある。「ちゃんと時間を取って話さないと」と身構えて先延ばしになるくらいなら、すれ違いざまの一言を何度か重ねるほうが、関係はつくりやすくなります。
決定回避の法則|選択肢は3つまでにします
選択肢が多くなると、人の決断力は低下し、選択そのものを放棄してしまうという法則です。
支援の場面では、これがそのまま使えます。相談を受けたとき、できることを5つも6つも並べると、相手は動けなくなります。よかれと思って選択肢を増やすほど、結果は悪くなるということです。
有名なのは、ジャムの試食コーナーを6種類と24種類で比べた実験です(アイエンガー&レッパー、2000年)。立ち寄る人は24種類のほうが多かったのに、実際に買った人は6種類のほうが多くなりました。ただしその後の追試では効果の大きさに議論があり、「少なければ必ず選ばれる」とまではいえません。相談窓口を紹介するときも、5か所のリストより3か所までに絞る——この程度に受け取っておくのが安全です。

受講した248人は、どの章でつまずいたか
ここまでの5分野は、当協会の資格「メンタルヘルス支援士」の1章から5章にあたります。受講を終えた248人に、章ごとの満足度をうかがっています。年代別に分けたのが次の表です。
| 年代 | 人数 | 1章 精神疾患 | 2章 発達障害 | 3章 認知行動療法 | 4章 カウンセリング | 5章 心理テクニック |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 20代 | 23人 | 73.9% | 82.6% | 87.0% | 91.3% | 91.3% |
| 30代 | 55人 | 80.0% | 76.4% | 78.2% | 80.0% | 80.0% |
| 40代 | 87人 | 83.9% | 85.1% | 83.9% | 85.1% | 83.9% |
| 50代 | 68人 | 83.8% | 88.2% | 89.7% | 85.3% | 85.3% |
| 60代以上 | 14人 | 71.4% | 57.1% | 71.4% | 64.3% | 57.1% |
出典:メンタルヘルス支援士 受講後アンケート(有効回答248件)。各章で「満足」「大満足」と答えた方の割合です。10代の回答者は1人のみのため、載せていません。集計は当協会が行いました。
読み取れることが2つあります。
1つは、20代だけ、若い章ほど低く、後ろの章ほど高いということです。1章(精神疾患)が73.9%でいちばん低く、4章・5章は91.3%まで上がります。疾患名や統計を覚える章は負担が大きく、その場で使える技術の章は手応えを得やすい——という読み方ができます。
もう1つは60代以上の14人です。どの章も他の年代より低く、2章(発達障害)と5章(心理テクニック)が57.1%でした。⚠ ただし14人と少ないため、この数字だけで年代の傾向とは言えません。参考として載せています。
いずれにしても、いちばん低い章でも57.1%、多くは8割を超えています。難しいと感じる章があるのは普通のことだ、という前提で読んでください。

「量が多い」と感じるかどうかは、かけた時間で変わりません
もうひとつ、同じ248人に「教材の量」への評価をうかがっています。総勉強時間で割ると、次のようになりました。
| 総勉強時間 | 人数 | 「量」が満足以上 |
|---|---|---|
| 10時間以内 | 42人 | 71.4% |
| 11〜20時間 | 88人 | 71.6% |
| 21〜30時間 | 66人 | 72.7% |
| 31時間以上 | 52人 | 78.8% |
出典:同じ受講後アンケート(有効回答248件)。「量」の評価で「満足」「大満足」と答えた方の割合です。集計は当協会が行いました。
71.4%から78.8%まで、幅は7.4ポイントしかありません。10時間以内で終えた方と、31時間以上かけた方で、「量が多い」と感じるかどうかはほとんど変わっていないということです。
これは、上の10問との関係で読むと意味が出ます。ここで扱った5分野は、量の問題ではありません。時間をかければ全部が頭に入る、という性質のものではなく、取り違えているかどうかがすべてです。とくにQ3(大人の発達障害)とQ8(受容)は、100時間かけても、間違って覚えていれば間違ったままです。
学び終えた人が「もっと知りたい」と答えた分野
同じ248人に、「改善して欲しい点」も複数回答でうかがっています。このうち「もっと深い知識が欲しい」と答えられた分野を抜き出すと、次のようになりました。
| もっと深い知識が欲しい分野 | 人数 | 248人に対する割合 |
|---|---|---|
| カウンセリング(4章) | 80人 | 32.3% |
| 認知行動療法(3章) | 73人 | 29.4% |
| 精神疾患(1章) | 53人 | 21.4% |
| (参考)特になし・大満足 | 67人 | 27.0% |
出典:同じ受講後アンケート(有効回答248件)。「改善して欲しい点(複数選択可)」の選択肢から、知識に関する3つを抜き出して集計しました。集計は当協会が行いました。
ここで上位に来たカウンセリングと認知行動療法は、この10問でいえば「受容は賛成することではありません」「認知行動療法は考え方を直すことではありません」にあたる領域です。学び終えた人ほど、この2つをもっと知りたいと答えています。逆に言えば、10問のなかでここを取り違えていた方は、取り違えに気づいた時点で、もう先へ進む準備ができているということです。
年代で分けると、この3分野のどれかを挙げた方の割合は、40代が57.5%(87人中50人)、60代以上が57.1%(14人中8人)、30代が50.9%(55人中28人)、50代が41.2%(68人中28人)、20代が30.4%(23人中7人)でした。いちばん高いのは40代です。仕事や家庭で実際に人と向き合っている年代ほど、もう一段深いところを求めておられる、と読めます。
※10代の回答は1人のため、割合は出していません。
だからこの記事は、頭から読んでいただく形にしていません。間違えた2つだけを持って帰ってください。それが、いちばん短くて確実です。
メンタルヘルス支援士について
ここまで、メンタルヘルス支援士で扱う5つの分野から10問を出し、間違えやすいところを分野別にご紹介してきました。
こうした理解を深めることと合わせて、ご家族や職場の同僚、支援の現場で働く方々の間でも、メンタルヘルスへの理解を深めるための学びが広がっています。
当協会が認定する「メンタルヘルス支援士」は、この記事で出した5分野——精神疾患の基礎知識、大人の発達障害、認知行動療法、傾聴を中心としたカウンセリングの基本姿勢、日常で使える心理学テクニック——を体系的に学べる民間資格です。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス数部門で第2位に選ばれました。
資格の有無が支援の基準になるものではありませんが、身近な人と日々関わる方が、専門的な知識を身につける選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。
Q&A|この10問についてよくある質問
Q1:これは資格試験の過去問ですか?
違います。この10問は、メンタルヘルス支援士で扱う分野から本記事のために当協会が作成したものです。実際の試験問題ではありません。試験は50問・多岐選択式(二肢択一・四肢択一)で、試験時間は50分です。ここで満点が取れても、試験に受かるという意味にはなりません。
Q2:答えた内容は、どこかに送られますか?
選んだ番号と正解数だけが、匿名で当協会に記録されます。お名前、メールアドレス、IPアドレスなど、個人を特定する情報は一切取得していません。どの問題が間違えられやすいかを知り、記事や教材の改善に使うためのもので、それ以外の用途には使いません。
Q3:何問正解なら「基礎知識がある」といえますか?
基準はありません。10問は分野をひととおり通すために選んだもので、難易度をそろえてはいないからです。点数より、どの分野を落としたかのほうが役に立ちます。とくにQ3(大人の発達障害)とQ8(受容)は、間違えたまま人と関わると相手を傷つけることがある2問です。ここを落とした方は、上の解説だけでも読んでいってください。
Q4:独学でここまで学べますか?
知識の部分は学べます。当協会の248人のデータでは、精神疾患の章は勉強時間をかけるほど手応えが上がる一方、カウンセリングの章は時間をかけても数字が動きませんでした。読んで覚えるものと、相手がいないと確かめられないものがあるということです。上のQ8(受容)が、まさに後者にあたります。
Q5:もう一度やり直せますか?
できます。結果の下にある「もう一度」から、何度でもやり直せます。解説を読んでから、もう一度通すのがおすすめです。言葉の定義は、一度読んだだけでは残りません。とくにQ6(認知行動療法と精神分析的心理療法)は名前が似ていて混同しやすいので、2回目で確かめてみてください。
まとめ|間違えた2問だけ、覚えて帰ってください
- 精神疾患を有する総患者数は約603.0万人(令和5年患者調査)、生涯で5人に1人。話を切り出すときの入口になります
- 「大人の発達障害」は、大人になってから発症するものではありません。顕在化しただけです。ここを取り違えると、努力不足や育て方の問題という読み方が生まれます
- カサンドラ症候群は正式な疾患名ではありません。苦しさは2つ——意思疎通ができないことと、それを周りに理解してもらえないことです
- 認知行動療法は「考え方を直す」ものではありません。めざすのは、考え方のバランスを取ることです
- 受容は賛成することではありません。内容に同意しなくても、その人がそう感じていること自体は受け止められます
- 選択肢は3つまで。よかれと思って増やすほど、相手は動けなくなります
>メンタルヘルスの資格の勉強時間は?受講者248人の実測データと年代別の傾向
本記事で紹介している情報について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 10問の作成 | メンタルヘルス支援士が扱う5つの分野(精神疾患/大人の発達障害/認知行動療法/カウンセリング/心理学テクニック)から、本記事のために当協会が作成しました。資格試験の問題ではありません |
| 統計の出典 | 精神疾患の総患者数は厚生労働省「令和5年(2023年)患者調査」(約603.0万人/入院約26.6万人・外来約576.4万人)。「生涯を通じて5人に1人」は厚生労働省の公表資料。2026年9月10日に閲覧して確認 |
| 章別満足度 | メンタルヘルス支援士 受講後アンケート(調査期間2025年3月〜2026年8月・有効回答248件)。各章で「満足」「大満足」と答えた方の割合を年代別に算出。10代は回答者1人のため掲載していません |
| 記録している内容 | 選んだ選択肢の番号、正解数、記事、参照元の種別、端末の区分、日時。個人を特定する情報は取得していません |
| 注意点 | 章別満足度は教材への評価であり、習熟度の測定ではありません。回答者は受講を終えた方に限られます。60代以上は14人と少ないため、年代の傾向とはいえません |
| 一般情報の出典 | 厚生労働省 こころの耳、厚生労働省 まもろうよ こころ、国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター(認知行動療法の説明)。2026年9月10日に閲覧して確認 |
【注意事項】
この10問は基礎知識の確認を目的としたもので、資格試験の合否や、支援の適性を判定するものではありません。診断・治療を目的としたものでもありません。DSM-5-TR や ICD-11 などの診断基準は改定されることがあり、本記事の記述は2026年9月時点のものです。心理療法やカウンセリングの技術は、書かれていることをそのまま当てはめれば効くというものではなく、相手や場面によって適切な関わり方は異なります。気になる症状や不安がある場合は、早めに医師・専門機関・お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。


