夫が適応障害と診断されて休職してから、家の中の空気が変わった。家事も育児も仕事も、気づけば全部自分が回している。それなのに夫は昼まで寝ていたり、ふらっと出かけたりしている。
「本当に病気なの?」と思ってしまう。そう思う自分が冷たい人間のようで、また苦しくなる。夫が休職していることを周りにどう思われるかが気になって、友人にも親にも話せない。そうして誰にも打ち明けられずにいる方も多いと思います。
ただ、このまま一人で抱え続けるのは、思っている以上に危ういことかもしれません。心の不調による休職は半年から1年以上に及ぶことも珍しくなく、そのあいだずっと気を張り続けることになるからです。
「私さえ頑張れば何とかなる」と自分に言い聞かせて、今日もなんとか踏ん張っていませんか。
ですが、夫の顔を見るだけでイライラしたり夜に一人で涙が出たりしているなら、夫より先に自分の心のほうが限界に近づいているかもしれません。
夫の適応障害に疲れたと感じるのはこんなとき|よくある5つの場面
夫が休職しているあいだの疲れは、外からはなかなか見えません。たとえば、こんな場面に心当たりはないでしょうか。
- 出かけられるのに仕事には行けない
友人と会ったり趣味に出かけたりはできるのに、仕事の話になると黙ってしまう。その差にどうしてももやもやします。 - 家事も育児も自分に集中する
家にいる時間は夫のほうが長いのに、洗濯も食事の支度も子どもの送り迎えも、結局すべて自分がやっています。 - お金の先が見えない
収入が減り、この先の生活費や子どもの教育費を考えると、夜も眠れなくなります。 - 「いつ戻るの?」と聞けない
聞いたら追い詰めてしまいそうで、何も聞けないまま時間だけが過ぎていきます。 - 誰にも話せない
夫の休職を周りにどう思われるかが気になって、友人にも親にも愚痴をこぼせません。
一つでも当てはまるなら、それだけ長いあいだ家庭を一人で支えてきたということだと思います。
「怠けているだけでは」と思ってしまう…その疑いが夫婦を追い詰めていきます
私たちもQ&Aサイトや掲示板を見てきた中で、「家では元気そうなのに仕事だけ行けないのが納得できない」「休職してから家事を手伝う様子もない」という声を多く目にしてきました。周りから「早く別れたほうがいい」と言われて、気持ちが揺れているという声もありました。
夫を責めたいわけではない。でも毎日がんばっている自分との差を見ると、どうしても「甘えているだけでは」と思ってしまう。そんな自分が嫌になる方も多いと思います。
その疑いは、口に出さなくても態度ににじみます。夫は家でも気を張るようになり、自分はますます一人で抱え込む。こうしてお互いの心から少しずつ余裕がなくなっていきます。
夫の休職が長引いた家庭に起こること|収入も復職の見通しも立たなくなる
休職が始まったときは、「少し休めばきっと戻れる」と思いますよね。ですが実際には、時間がたつほど家庭にかかる負担は重くなっていきます。
休職は半年から1年以上になることも珍しくありません
「来月には戻れるはず」と思っていたのに、季節が変わっても夫は休んだまま。カレンダーを見るたびに、この生活がいつまで続くのかと不安になる。そのあいだも、家のことはすべて自分が回している。
厚生労働省の「こころの耳」でも、心の不調で休むときに必要な休養期間は、半年から1年以上に及ぶことも稀ではないとされています。焦って戻ると、かえって働けない期間が長くなることもあるそうです。
傷病手当金が受け取れるのは通算1年6か月までです
通帳の残高や給与明細を見るたびに、ため息が出てしまう。住宅ローンや子どもの教育費のことを考えると、夜もなかなか眠れない。夫が休職している家庭では、お金の不安がいちばん重くのしかかってくることもあります。
会社員の夫が休職しているときは、健康保険から傷病手当金を受け取れることがあります。ただ全国健康保険協会(協会けんぽ)によると、額は給与のおおよそ3分の2です。受け取れるのも、支給が始まってから通算1年6か月までと決まっています。収入が減ったまま、期限だけが少しずつ近づいてきます。
心の不調で休職した人のうち復職できたのは半数に届きません
口には出さなくても、「このまま戻れなかったらどうしよう」という思いが頭をよぎることがあると思います。やっと復職できても、またいつ休むことになるかと気が抜けない日が続きます。
労働政策研究・研修機構の企業調査でも、メンタルヘルスの不調で休職した人のうち復職した人は平均45.9%でした。退職した人も42.3%と、ほぼ同じくらいいます。うつ病で休職して復職した会社員を追った国内の研究では、約半数が5年以内にふたたび休職していたという結果も出ています。

子どもが親の不調を背負ってしまうこともあります
家の空気が重くなると、子どもは敏感に感じ取ります。パパの様子をうかがい、ママの疲れにまで気をつかい、子ども自身の気持ちは後回しにしてしまう。「うちの子、最近やけに聞き分けがいい」と感じたら、それは子どもなりに家族を支えようとしているのかもしれません。
厚生労働省と文部科学省が行ったヤングケアラーの調査でも、親の世話をしている中学生や高校生の中に、親の精神疾患(疑いを含む)を理由に挙げた子どもがいました。
一人で支え続けた妻の末路|夫より先に心と体が限界を迎えることも
家庭のこと以上に見落とされやすいのが、支えている自分自身の心と体です。
献身的な妻ほど一人で抱えて疲れてしまいます
夫を責めないように気をつかい、子どもには明るくふるまい、職場では何事もないように働く。気を張り続ける毎日は、自分で思っている以上に心をすり減らしていきます。
厚生労働省も、うつ病の人を支える家族について、献身的な人ほど一人で問題を受け止めて疲れてしまうことがあるとしています。
家族の病気を支える人の7割以上がストレスを抱えています
朝起きた瞬間から気が重い。一人になると、どっと疲れが出る。家族の病気を支えていると、そんな毎日が当たり前になってしまいます。
厚生労働省の国民生活基礎調査でも、家族を介護している女性の72.4%が悩みやストレスを抱えていて、その原因でいちばん多かったのは「家族の病気や介護」でした。精神疾患のある家族を支える人を対象にした全国調査でも、約7割(73.3%)が日常的にストレスを感じていたそうです。
イライラが夫や子どもに向かい自分を責める悪循環に入ることも
疲れがたまると、夫の物音や子どものちょっとした失敗にまで、きつい言葉が出てしまうことがあります。そのあとで「なんであんな言い方をしたんだろう」と自分を責め、夜になると涙が出てくる。眠れないまま朝を迎え、また同じ一日が始まる。
そうして自分まで倒れてしまえば、家事も育児も家計も回らなくなります。「離婚」という言葉が頭をよぎるのも、心が追い詰められているサインなのかもしれません。
共倒れになる前に妻が今日からできる3つのこと
とはいえ、夫に休職中の過ごし方を変えてもらうのは難しいと思います。言えばけんかになりそうで、言わずにいれば自分がつらい。そこでここでは、夫を変えるのではなく、自分の受け止め方と毎日を少しずつ変えるためにできることを紹介します。
「日常生活ができる」と「働ける」は別の回復段階と知る
昼間に出かけたり、趣味を楽しんだりしている夫を見ると、「それができるなら仕事にも行けるのでは」と思ってしまいますよね。ですが日常生活ができることと仕事ができることは、回復の段階が違います。
厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」でも、主治医の診断は日常生活での回復をもとにしていることが多く、職場で求められる力まで回復したとは限らないとされています。休業の後半は、趣味などできることから少しずつ再開していく時期とも言われています。
出かけられるのに働けない夫の姿は、怠けているのではなく、回復の途中にいるからかもしれません。そう知るだけで、夫を見るたびに湧いていたイライラが少し和らぐことがあります。
家事と育児を一人で抱え込まない
夫が家にいるのに、家事も育児も自分一人で回していると、疲れは確実にたまっていきます。全部を完璧にこなそうとせず、手放せるものから手放していきましょう。
- 完璧をやめる
毎日の料理は総菜や冷凍食品に頼る日があってもかまいません。掃除の回数を減らすだけでも、自分の時間が少し生まれます。 - 外の手を借りる
自治体のファミリー・サポート・センターや一時保育、家事代行など、子育てや家事を手伝ってもらえる仕組みがあります。実家に頼れるなら、事情をすべて話さなくても「少し疲れていて」と預けるだけで十分です。 - 夫にもできることをお願いする
回復の後半は、できることから少しずつ再開していく時期です。ごみ出しや食器洗いのような小さな家事は、夫にとっても生活のリズムを取り戻すきっかけになります。急かさず、一つだけ頼むところから始めてみてください。
自分のための時間と相談先を持っておく
週に一度でも、一人で過ごす時間を予定に入れてみてください。カフェで一杯飲む、好きなドラマを見る、ただ眠る。それだけでも、気持ちに少し余白が戻ってきます。厚生労働省も、支える家族が休息をとれる余裕をつくっておくことや、家族だけで抱えずに周りの力を借りることをすすめています。
身近な人に話しにくいときは、名前を出さずに話せる窓口もあります。厚生労働省の「こころの耳」では、家族からの相談も受け付けています。

ただ、夫の休職は一度で終わるとは限りません。先に紹介したように、心の不調で休職した人は復職したあとにふたたび休むことも少なくありません。通院や休養で症状が落ち着いても、物事の受け止め方や人との関わり方が同じままだと、職場に戻ったときに同じ場面でまた苦しくなることがあります。
家庭として立て直していくには、自分の心を守ることに加えて、夫婦それぞれが心の不調の仕組みや心の守り方を知っておくことが大きな助けになります。厚生労働省も、働く人が自分でストレスに気づいて対処する「セルフケア」を、心の健康を守るための4つのケアの一つに挙げています。
メンタルヘルス支援士について
当協会が認定している「メンタルヘルス支援士」は、心の不調について順を追って学べる民間資格です。うつなどの心の不調の基礎・考え方のくせに気づく認知行動療法・傾聴を中心としたカウンセリングの基本まで扱います。夫の状態を理解しながら、支える自分の心も守るための知識が身につきます。
夫の状態が見えてくる|心の不調の基礎を知る
心の不調がどう始まり、どのように回復していくのかを知っておくと、夫のいまの様子を「怠け」ではなく回復の途中として受け止めやすくなります。
受講した方からは、身近な人の不調を思い浮かべながら学んだという声も届いています。
周りに関わった大人身内の精神疾患の症状など思い出しながら勉強しました。(40代)
責めずに気持ちを伝える練習ができる|アサーションと傾聴
別冊のワークでは、相手を責めずに自分の気持ちを伝えるアサーションを練習できます。「家事を少し手伝ってほしい」「一人の時間がほしい」と、けんかにならずに伝える助けになります。
傾聴を学ぶと、夫の話を聞くときの構えも変わってきます。急かさずに聞けるようになると、夫も少しずつ気持ちを話しやすくなります。
支える自分の心も守る|考え方のくせとセルフケア
認知行動療法では、「私さえ頑張れば」と自分を追い込む考え方のくせに気づき、受け止め方を少しずつ変えていく方法を学べます。家族を支えるために学び始めた方からは、こんな声が届いています。
家族と自分のセルフケアの為に受講しました。(60代以上)
学べば学ぶほど、誰もがどこかで引っかかり、視点を変えるだけで、生活が楽になる方法があるんだなと感じました。(40代)
夫婦で同じ知識を持てる|家庭の中で心の守り方を共有する
まずは自分の心を守るために学ぶところから始めてかまいません。考え方のくせへの気づき方・ストレスとの付き合い方・相手も自分も大切にする伝え方は、自分自身の毎日を楽にするだけではありません。復職を目指す夫にも、そのまま役立つ内容です。
夫の具合が落ち着いてきたら、学んだことを会話の中で少しずつ共有してみてください。「こういう考え方があるんだって」と話せるだけでも、夫が物事の受け止め方を見直すきっかけになります。ご夫婦で一緒に受講される方もいます。夫婦が同じ言葉で心のことを話せるようになると、職場だけでなく家の中の空気も変わっていきます。
スマホで少しずつ学べる|家事と仕事の合間に
テキストの内容はスマホでも学べるので、家事の合間や子どもが寝たあとに少しずつ進められます。試験もスマホから24時間受けられ、終わるとその場で合否が分かります。平均の受講期間は約2か月です。
受講後のアンケートでは、回答した248人のうち247人が「受講してよかった」と答えています。2026年には「日本の資格・検定AWARDS 2026」の総合アクセス部門で第2位に選ばれました。
夫の回復を待ちながら、自分まで倒れたくない。夫を責めるのではなく、分かったうえで支えたい。そんな方の学びの一つとして、検討していただけたらうれしいです。
Q&A|夫の適応障害で疲れたときによくある質問
Q1:休職中の夫が出かけたり遊んだりするのはおかしいですか?
おかしいとは限りません。休業の後半は、趣味などできることから少しずつ再開していく時期とされています。日常生活ができるようになっても、仕事ができるまで回復したとは限りません。気になるときは、夫を通して主治医の考えを聞いてみるのも一つの方法です。休職から復職までの流れは、次の記事にまとめています。
>休職から復職までの流れ|立場と段階で次にやることを案内します
Q2:適応障害の夫にどんな言葉をかければいいですか?
「早く治して」「いつ戻るの?」のように急がせる言葉は、負担になりやすいです。休み始めのころは、眠れているか・食べられているかを気にかけるくらいで十分です。少し動けるようになったら「今日は何をしてみた?」と、できたことに目を向けた言葉が届きやすくなります。復帰の話は「主治医はどう言ってた?」と聞くと、責める響きが和らぎます。家族の立場でできる支え方は、次の記事も参考になります。
>うつ病の家族に疲れた…病気のことを調べても楽にならない本当の理由
Q3:妻も誰かに相談したほうがいいですか?
相談してかまいません。自分が疲れ切ってしまうと、夫を支えることも家庭を回すことも難しくなります。電話やSNS・メールで相談できる窓口のほか、同じ立場の家族が集まる家族会もあります。自分の心が落ち着くことは、夫の回復を支えることにもつながります。
まとめ|夫の適応障害で疲れた妻が一人で抱え込まないために
- 出かけられるのに働けない夫にもやもやするのは、同じ立場の多くの人が抱えている気持ち
- 休職が長引くと、収入は3分の2に減り、傷病手当金も通算1年6か月まで。休職した人のうち復職できたのは半数に届かない
- 一人で支え続けると、夫より先に自分の心と体が限界を迎えることがある
- 「日常生活ができる」と「働ける」は別の回復段階と知るだけで、イライラは少し和らぐ
- 家事と育児を手放し、自分の時間と相談先を持つことが、共倒れを防ぐ第一歩
- 家庭として立て直すには、夫婦それぞれが心の不調の仕組みや心の守り方を知っておくことが助けになる
家庭を一人で支え続けてきた毎日は、本当に大変だったと思います。この記事が、少しだけ肩の力を抜くきっかけになれば幸いです。
【注意事項】
この記事は、厚生労働省・労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」、労働者健康安全機構の休業者向け資料、厚生労働省「こころの耳」「みんなのメンタルヘルス」「労働者の心の健康の保持増進のための指針」、全国健康保険協会(協会けんぽ)の傷病手当金の案内、労働政策研究・研修機構「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」(2013年)、Endo ほか(2013, Industrial Health)の研究、厚生労働省・文部科学省「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(令和2年度)、厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査」、全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)の全国調査(2017年)、メンタルヘルス支援士の受講後アンケート(有効回答248件・2025年3月〜2026年8月)の一部をもとにまとめています。傷病手当金の条件は、健康保険組合や共済組合では異なる場合があります。復職・退職の割合は企業ごとの平均値です。再休職の研究はIT企業1社でうつ病により休職した人を対象にしたものです。介護をしている人のストレスの数値は高齢者の介護を含む同居の介護者全体の結果で、みんなねっとの調査は回答者の多くが親の立場です。Q&Aサイトや掲示板の声は、内容を変えずに言い換えて紹介しています。


