今回は東京学芸大学リポジトリが2010年に公表した論文から、「発達障がい児といじめ」というテーマでお話をさせて頂きます。少し過激に聞こえる内容もあるかもしれませんが、発達障がい児の保護者の皆様や教育関連の仕事に従事されている方には是非知っていただきたい内容となっておりますのでご覧ください。
「発達障害と不適応」問題の研究動向と課題
今回参照させていただく論文の情報は下記の通りです。
タイトル:「発達障害と不適応」問題の研究動向と課題
公開日:2010-06-15
公開URL:https://u-gakugei.repo.nii.ac.jp/records/30023
ISSN:18804306
著者:横谷祐輔/田部絢子/石川衣紀/髙橋智
出版者:東京学芸大学学術情報委員会
この論文では、発達障がい児の不適応問題(学校不適応、養護問題、非行問題)に係る先行研究のレビューを通じて、発達障がい児の不適応問題に関わる今後の検討課題を明らかにしていく、とされています。
全ての情報を開示すると膨大な量になってしまうので、今回は「いじめ」に関する研究結果に重点をおき紹介をさせて頂きます。
発達障害といじめというのは、保護者の中で大きなテーマになっています。また学校の先生の中でも課題のひとつとして認識されている方が多くなっておりますので有益な情報になるかと思います。
発達障害といじめについて
皆さんも何かしらの媒体で「発達障害を有する児童はいじめを受けやすい」という情報を耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし、これは漠然とした情報であり、実際にどうなのかという点が見えてきません。ともすると間違った認識となり、偏見の原因になることもあるため、統計や調査結果を見たうえで、知識を収めていくことをお勧めします。
自閉スペクトラム症といじめについて
本論文では、自閉スペクトラム症の特性がある子の60%が小学校2年生までにいじめを経験したと紹介されています。また自閉スペクトラム症の中でも「積極奇異型」の場合は、93%がいじめを受けたと報告しています。
積極奇異型という言葉を初めて目にした方もいらっしゃると思いますので、型について簡単に紹介させていただきます。
自閉スペクトラム症には、積極奇異型、受動型、孤立型とういタイプに分けることがあります。この分類に関しては、「尊大型、大仰型」を加えた5つのタイプと言ったりすることがあります。自閉スペクトラム症といっても、どのような特性が強く出るかは人によって違うためこのような分類が存在するということですね。
それぞれの特徴についてはまた別の記事で紹介していた来たいと思いますが、今回は積極奇異型について紹介をします。
積極奇異型という言葉の通り「積極的に他者に関わっていく子」「相手との物理的な距離感が近い子」「場の空気を読まずに思ったことを言葉にしてしまう子」というような特徴があります。積極的に他者に関わりを持つこと自体は悪いことではありませんが、往々にして自分のこだわりを相手に押し付けてしまったり、相手の話は一切聞かず、自分の思っていることをずっと話し続ける。相手が嫌そうにしていても話し続けてしまうということがおこります。その時に、相手の感情を逆なでするような言葉を言ってしまったり、相手のプライベートゾーンに侵入するくらい近い距離で話をすることが多くなります。
コミュニケーションは双方のやり取りによって成り立つものですが、どうしても一方方向になりやすいのがこの積極奇異型と言えるでしょう。
先程の論文の内容に戻りますが、自閉スペクトラム症の中でも積極奇異型の場合は、93%がいじめを受けた経験があるとしています。これはほとんどの子がいじめを受けているという表現も出来るほど高いパーセンテージになっています。
ADHDといじめについて
次にADHDといじめについての調査結果をお伝えします。本論文ではADHDの当事者団体である「大人のADD&ADHDの会」の会員を対象に、子ども時代のいじめ体験について調査を行った所、小・中学校時代にいじめを受けた体験がある人は84%、中でも「死んだ方がまし」と思うほどの深刻ないじめを受けた人は46%と半数近くいたとしています。
まずいじめを受けた経験がある人は84%ととても高い数字であることに驚きを感じますね。この統計の場合は、「大人のADD&ADHDの会」に参加されている方が対象となっているので、深く傷ついた方やADHDが原因で悩みを抱えている方が参加されていることが多いでしょうから、統計の数字としても大きなものになる傾向はあるでしょう。ほとんどADHDの影響が出ていないような子がどうなのか、という点は含まれていませんので、そういった切り分けをしながら統計を見ていくと正しく把握できます。
しかし「死んだ方がまし」と思うほどのいじめを受けた人は46%ということで、約半数がそれほどまでに苦しんでいた事実を知ると胸が苦しくなります。
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他の統計ではどうなのか
ここまで論文で掲載されていた情報を紹介してきましたが、他の研究結果ではどのようになっているのでしょうか。統計を見る時には、同じテーマで調査された他の統計データも複合的にみていくことで、より正確な情報を把握することができるようになります。ここではアメリカで調査された「Twyman KA et al. Bullying and Ostracism Experiences in Children with Special Health Care Needs. J Dev Behav Pediatr 2010」で紹介されている統計結果を紹介します。
こちらのデータでは、いじめられた経験が「定形発達児」の場合8.5%となっており、その数値より高いかどうかで「いじめにあいやすいかどうか」がわかるでしょう。自閉症、ADHD、学習障害共に8.5%よりも高く3倍近い数値になっていることがわかります。
先程の論文で紹介した数値よりは低い値となっていますが、それでもいじめられる可能性は高いと言えそうです。また「仲間外れにされた経験」という項目に至っては、自閉症児は定型発達児よりも5倍ほど高い数値になっています。
以上のことから、パーセンテージは違えど、発達障害の特性をもっていることで、いじめや仲間外れに合う可能性がたかくなるということがわかりました。
いじめや仲間外れにあわないために出来ることは
根本的に発達障害を治すと考えるのではなく、どの特性がそういったことに繋がっているのかをしっかり見極めることが必要です。
先ほど紹介した自閉症スペクトラム症の積極奇異型のように、自閉症と言えどもそれぞれタイプは異なりますので、お子様をしっかりと観察し、対人関係を構築するうえで弊害になりうる行動を見つけ出すことが第一歩です。見つけることができれば、あとはトレーニングとなります。SST(ソーシャルスキルトレーニング)の中にも、対人関係を円滑にするためのトレーニングは多数ありますので、そういったものを試すと良いでしょう。多くの療育施設では、SSTを行っていますので、そういった所に相談することも重要です。
しかし、その前に保護者がやるべきことがあると私は考えます。
それは「学ぶこと」です。保護者が正しい知識を身に付けていなければ、子どもを良い方向に導くことは難しいでしょう。
自閉症の特徴は?
DHDの特徴は?
LDの特徴は?
そして、子どもにどのように接することで、子どもの自己肯定感を高められるのか?自己肯定感を高めるには誉めるだけでいい?
いいえ、そんな単純な話ではありません。誉めるということをひとつとっても注意するべき点が多数あり、誤った誉め方を続けていると、卑屈な人間になったりずるい人間になったりすることもあります。ですから、書籍や私どもが認定する資格(児童発達支援士)のようなもので、発達障害や子育てについての知識を蓄えましょう。
それが支援の第一歩となります。私たちの合言葉は「理解は支援の第一歩」です。
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メンタルヘルス(心の健康)支援の重要性
以上のことからも、当事者やその保護者のメンタルヘルス支援がいかに重要かがわかるでしょう。
子どものうちは精神に異常があったとしても、保護者が無理のないよう対応することがまだできるかもしれません。しかし、その子が大人になった時はどうでしょう。社会で働いていると大変なことは沢山あります。そのような時にうつ病や気分障害、統合失調症などの精神疾患に繋がる可能性は十分にあるのです。そして、最悪の結果を招くといったケースも実際にあります。
そのようなことからも、当事者のメンタルケアは非常に重要なのです。メンタルケアというと難しく感じるかもしれませんが、定期的に話しを聞く場面を設けるだけでも改善することもあるでしょう。初めから難しく考え、行動しないのではなく、まずは出来ることから支援をしていく姿勢が求められていると思います。
【まとめ】自閉スペクトラム症積極奇異型の93%、ADHDの84%がいじめを受けた!?
いかがだったでしょうか。少し刺激的なタイトルだったので、保護者の中には読むのが辛いという方もいたかもしれません。
しかし、当事者である子どもたちはもっとつらい思いを、正に今しているのかもしれません。
正しい知識を身に付け、適切な対応をしていくことで、子どもも保護者も笑顔が増えるはずです。
その笑顔のために私どもも活動しています。是非、前向きにお子さんの特性を捉えて、子育てを楽しんでいきましょう!