「小学生にSSTを取り入れたいけれど、どのような活動をすればよいのだろう」
「何人かの子どもと一緒に行う場合、どのように進めればよいのだろう」
学校や放課後等デイサービス、児童発達支援など、子どもたちを支援する現場では、このように悩むことがあるかもしれません。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)にはさまざまな活動がありますが、大切なのは「小学生向けの活動を選べばよい」と考えることではありません。
同じ小学生でも、理解しやすい説明の長さ、集団への参加のしやすさ、得意なことや苦手なことは一人ひとり異なります。
そのため、
「何を身につけるための活動なのか」
「今の子どもたちに取り組みやすい難易度になっているか」
を考えながら組み立てることが重要です。
この記事では、小学生にSSTを実施するときの考え方と、小集団での活動例、難易度を調整するときのポイントについて、私たち一般社団法人人間力認定協会のSSTスペシャリスト公式教材で扱っているワークも交えながら解説します。
- 1 小学生向けSSTでは「年齢」だけで活動を決めない
- 2 小集団でSSTを行うときの基本的な考え方
- 3 小学生向けSSTの活動例①「お手上げトレーニング」
- 4 小学生向けSSTの活動例②「自己紹介トレーニング」
- 5 小集団なら「他の子を見る時間」も学びになる
- 6 小集団SSTは「導入→参加→交代→振り返り」で考える
- 7 小学生のSSTで難易度を調整する5つのポイント
- 8 SSTの活動は「簡単すぎても難しすぎても」調整が必要
- 9 SSTはどのくらいの時間・頻度で行えばよい?
- 10 SSTで「できた」と判断するときも注意する
- 11 小集団だからこそ一人ひとりを見る
- 12 まとめ|小学生向けSSTは「活動名」より「目的と難易度」が大切
- 13 参考資料
小学生向けSSTでは「年齢」だけで活動を決めない
「小学1年生向けのSST」
「小学5年生ならこの活動」
というように、学年から活動を選びたくなることがあります。
もちろん、年齢や発達段階は一つの目安になります。
しかし、実際に活動を考えるときには、学年だけでは十分ではありません。
例えば同じ小学3年生でも、
- 一度に複数の指示を理解することが難しい
- 相手の話を待つことが難しい
- 自分から発表することに強い不安がある
- 会話はできるものの、一方的に話し続けてしまう
- 集団活動そのものに参加しにくい
など、困りごとは異なります。
したがって、SSTを行う前には、
「この活動を通して、何を練習したいのか」
を明確にしておくことが大切です。
国立特別支援教育総合研究所が公開している実践事例でも、小学生を対象に、あいさつなど具体的なコミュニケーション場面を取り上げたSSTが紹介されています。
SSTは「学年に対応した課題をこなす」というより、その子が実際に困っている場面や必要としている力に合わせて考えていくことが基本になります。
小集団でSSTを行うときの基本的な考え方
小集団でのSSTには、一対一の練習とは異なる特徴があります。
例えば、
- 他の子のやり方を見る
- 順番を待つ
- 相手と役割を交代する
- 同じ活動でも違う答えがあることを知る
- 他の人の意見を聞く
といった経験を活動の中に取り入れることができます。
一方で、参加する人数が増えるほど、待つ時間が長くなったり、説明が分かりにくくなったりすることもあります。
そのため、小集団だからこそ、
「全員に同じことをさせる」ことよりも、「一人ひとりが参加できる形を考える」こと
が重要になります。
小学生向けSSTの活動例①「お手上げトレーニング」
ここからは、具体的な活動を見ていきましょう。
私たちの『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』では、「お手上げトレーニング」という活動を紹介しています。
旗揚げゲームに似た活動で、大人の指示に合わせて右手・左手を上げたり下げたりします。
例えば、
「右手を上げる」
「左手を上げる」
といった簡単な指示から始めます。
まず大人が見本を示し、その後子どもたちが実際に行います。
慣れてきたら、指示を出す役と動く役を交代することもできます。
>【公式】SSTスペシャリストとは?受講資格・学習内容・費用・試験を完全解説
この活動で大切なのは「難しくすること」ではない
ゲーム形式の活動では、つい、
「もっと速くしよう」
「もっと複雑にしよう」
と難易度を上げたくなることがあります。
しかし、難しくすれば学習効果が高くなるとは限りません。
例えば、
「右手を上げて、左手を下げて、そのあと右手を……」
と指示を長くすれば、理解しにくくなる子もいます。
反対に、単純な指示では物足りなくなる子もいるでしょう。
そのため、
- 指示を一つにする
- 指示の速度をゆっくりにする
- 大人の見本を見せてから行う
- 慣れたら少しずつ指示を増やす
- 動かす部位を変える
など、参加している子どもたちの様子を見ながら調整します。
教材では速さや指示の複雑さを変える方法も紹介していますが、これは「難しい活動までできること」を競うためではありません。
本人が理解でき、参加できる範囲を確認しながら調整していくことが大切です。
小学生向けSSTの活動例②「自己紹介トレーニング」
もう一つ、小集団でも取り入れやすい活動として「自己紹介」があります。
自己紹介というと簡単そうに見えますが、
「何を話せばよいのか分からない」
「みんなの前では緊張してしまう」
という子どももいます。
そこで、最初から自由に話してもらうのではなく、話す内容をあらかじめ用意します。
例えば、
- 名前
- 好きな食べ物
- 好きな遊び
といった項目です。
最初に支援者が、
「私は○○です。好きな食べ物は○○です。好きな遊びは○○です」
と見本を示します。
その後、子どもが同じ型を見ながら自己紹介します。
慣れてきたら、
- 最近好きなこと
- 興味のあること
- 習い事
- 好きな学校行事
など、内容を変えていくこともできます。
小集団なら「他の子を見る時間」も学びになる
自己紹介を小集団で行う場合、自分が話す時間だけが活動ではありません。
他の子どもの自己紹介を聞くことも、一つの経験になります。
例えば、
「自分とは違うものが好きなんだ」
「同じものが好きな人がいた」
と気づくことがあります。
また、同じ自己紹介でも、全員がまったく同じ話し方をする必要はありません。
話す量が少ない子もいれば、たくさん話したい子もいます。
小集団のSSTでは、他の人と比較して上手にできることではなく、それぞれが活動に参加できることを意識したいところです。
小集団SSTは「導入→参加→交代→振り返り」で考える
小集団の活動を考える際には、流れを整理しておくと実施しやすくなります。
ここでは、SSTスペシャリスト公式教材の内容をもとに、編集部で組み合わせた一例をご紹介します。
※以下は教材にそのまま掲載されている固定の指導案ではなく、小集団で実施する場合を想定して構成した例です。
1.導入
まず、
「今日は何を練習するのか」
を簡潔に伝えます。
説明が長くなりすぎないよう注意します。
必要であれば、言葉だけでなくイラストや実演を使います。
2.参加
大人の見本を見たあと、実際に子どもが活動します。
全員が同じ方法で参加する必要はありません。
例えば自己紹介なら、
- 全部自分で話す
- カードを見ながら話す
- 支援者と一緒に話す
など、参加の仕方を調整することも考えられます。
3.交代
小集団では、役割を交代する活動も取り入れやすくなります。
お手上げトレーニングであれば、
「指示を聞く側」から「指示を出す側」へ交代することができます。
一つの立場だけではなく、別の役割を経験することで、活動の見え方が変わることがあります。
4.振り返り
最後に、
「何ができたか」
「どこが難しかったか」
「次はどうしてみるか」
を確認します。
振り返りも、全員の前で長く発表する必要はありません。
簡単な言葉で答えたり、選択肢から選んだりする方法もあります。
小学生のSSTで難易度を調整する5つのポイント
活動がうまく進まない場合、
「本人ができない」
と考える前に、活動の難易度を確認することが大切です。
特に確認したいのが、次の5点です。
①指示の長さ
一度に多くのことを伝えていないでしょうか。
例えば、
「立って、前まで来て、カードを取って、名前を言ってください」
という指示が難しければ、
「立ちます」
「前に来ます」
と分けた方が理解しやすい場合があります。
②見本の有無
言葉だけでは分かりにくい場合、大人が実際に見本を示します。
また、他の子どもが行っている様子を見ることで理解できることもあります。
③選択肢の数
自由回答が難しい場合は、
「好きなのはサッカー? 絵を描くこと? それとも別のもの?」
というように、考える手がかりを用意する方法もあります。
ただし、選択肢が多すぎれば逆に迷ってしまうことがあります。
④待ち時間
小集団では、自分の順番が来るまでの時間が長くなりがちです。
活動の人数や順番を調整したり、待っている間にも参加できる役割を設けたりするなど、長い待ち時間を減らす工夫も考えます。
⑤活動そのものの目的
そもそも今の活動が、その子にとって必要な内容なのかも確認します。
支援者が重要だと思っていても、本人にとって意味が分かりにくければ、参加しにくくなることがあります。
「なぜこれをやるのか」
が本人にも理解できる形になっているかを見直します。
SSTの活動は「簡単すぎても難しすぎても」調整が必要
SSTでは、難しい活動だけが問題になるわけではありません。
簡単すぎる活動を何度も続ければ、本人が退屈したり、取り組む意味を感じにくくなったりすることがあります。
一方で、難しすぎれば、
「分からない」
「やりたくない」
という気持ちにつながることもあります。
したがって、
少し頑張れば参加できる程度に調整し、必要に応じて難易度を上げたり下げたりする
という考え方が大切です。
活動を予定どおり進めることよりも、参加している子どもの反応を見ながら変えていくことを優先します。
SSTはどのくらいの時間・頻度で行えばよい?
「毎日やった方がよいのでしょうか」
「何分くらい行えばよいのでしょうか」
という疑問を持つ方もいるでしょう。
SSTスペシャリスト公式教材では、開始時の一例として、週1~2回、1回10~15分程度で1~2活動という目安を紹介しています。
ただし、これはすべての子どもに必要な量を示す基準ではありません。
「この回数を行えば効果が出る」という意味でもありません。
参加する子どもの負担や集中できる時間、学校や施設の状況などに応じて調整する必要があります。
長時間実施することよりも、無理なく取り組める形で行い、子どもの反応を確認することを優先してください。
SSTで「できた」と判断するときも注意する
活動中に一人でできたからといって、日常生活でも同じようにできるとは限りません。
私たちの教材では、習熟の状態について、
- 支援があるとできる
- 練習場面では支援なしでできるが、日常場面ではまだ課題がある
- 練習場面でも日常場面でも支援なしで使えている
というように分けて考えています。
この考え方から分かるのは、
「SSTの時間にできた」ことと「普段の生活で使えている」ことを分けて見る必要がある
ということです。
例えば、SSTでは順番を待てたとしても、休み時間の友だちとのやり取りでは難しいことがあります。
そのような場合も「SSTができなかった」と考えるのではなく、日常場面ではどのような支援が必要なのかを改めて考えます。
小集団だからこそ一人ひとりを見る
小集団SSTでは、どうしても「グループ全体がうまく活動できたか」に目が向きやすくなります。
しかし、本当に確認したいのは一人ひとりの様子です。
例えば、
- 説明を理解できていたか
- 活動に参加できていたか
- 待つ時間に負担がなかったか
- 他の子の様子を見られていたか
- 支援があればできたのか
- 難易度が合っていたか
などを見ていきます。
同じ活動をしていても、子どもによって練習している内容は少しずつ違っていて構いません。
「グループだから全員同じ」を目指すのではなく、同じ活動の中でも、それぞれに合った参加の仕方を考えることが重要です。
まとめ|小学生向けSSTは「活動名」より「目的と難易度」が大切
小学生向けのSSTには、自己紹介、指示を聞いて動く活動、会話、感情理解、意思の伝え方など、さまざまな活動があります。
しかし、大切なのは「小学生向け」と書かれた活動をそのまま実施することではありません。
まず、
「この子たちは何を練習する必要があるのか」
を考えます。
そのうえで、
- 活動の目的を明確にする
- 大人が見本を示す
- 参加しやすい方法を用意する
- 役割を交代してみる
- 活動後に振り返る
- 難易度を子どもに合わせる
- 日常場面で使えているかを見る
という流れを意識してみてください。
私たち一般社団法人人間力認定協会が開講している「SSTスペシャリスト」では、SSTの基本的な考え方に加えて、子どもへの支援に活用できる30種類の実践ワークと実践動画を用意しています。
「SSTを取り入れたいけれど、具体的な活動の進め方が分からない」
「子どもに合わせて、どのように難易度を変えればよいのか学びたい」
という方は、SSTスペシャリストの講座内容も参考にしていただければと思います。
参考資料
- 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所「特別支援教育教材ポータルサイト」
- 文部科学省 発達障害等の児童生徒への支援に関する公開資料
- 一般社団法人 人間力認定協会『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』
