「SSTを取り入れたいけれど、どの教材を使えばよいのか分からない」
「本や教材はたくさんあるけれど、目の前の子どもにどの活動が合うのか判断するのが難しい」
学校や放課後等デイサービス、児童発達支援などで子どもたちに関わっている方の中には、このように感じたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)には、自己紹介、会話、感情理解、意思の伝え方など、さまざまな活動があります。
しかし、活動の種類が多いからこそ、
「どの教材を選べばよいのか」
という別の難しさが生まれます。
SST教材を選ぶ際に大切なのは、「小学生向けだから」「人気の教材だから」といった理由だけで決めるのではなく、その子がどのような場面で困っていて、どのような力を身につける必要があるのかを考えることです。
この記事では、実際に学校現場でSST教材選びに悩んだ先生への取材内容も交えながら、子どもの困りごとに合ったSST教材・活動を選ぶポイントを解説します。
- 1 SST教材は「種類が多いからこそ選ぶのが難しい」
- 2 学校現場でも「その子に合う教材を探すこと」が課題になっていた
- 3 SST教材を選ぶときに確認したい4つのポイント
- 4 まず「困っている行動」だけを見るのではなく、前後の状況を整理する
- 5 一度の行動だけで「理由」を決めつけない
- 6 「困りごと」を「練習したいスキル」に変えて考える
- 7 教材の対象年齢だけで決めない
- 8 SST教材を見るときは「何を練習する教材なのか」を確認する
- 9 SSTスペシャリスト教材では「選ぶ→確認する→実践する」
- 10 教材どおりに実施することを優先しすぎない
- 11 教材選びで避けたい3つの考え方
- 12 まとめ|SST教材は「子どもを見ること」から選び始める
- 13 参考資料
SST教材は「種類が多いからこそ選ぶのが難しい」
SSTについて調べると、さまざまな教材や活動が見つかります。
例えば、
- 自己紹介
- あいさつ
- 会話
- 相手の気持ちを考える
- 声の大きさを調整する
- 順番を待つ
- 誘いを断る
- 自分の気持ちを伝える
などです。
どれも大切なテーマに見えるため、
「まずは一通りやってみよう」
と考えたくなるかもしれません。
しかし、子どもが実際に困っていることと、活動の目的が合っていなければ、せっかくSSTを実施しても本人にとって意味の分かりにくい活動になってしまうことがあります。
そのため、教材を探す前に、
「何のためにこのSSTを行うのか」
を整理する必要があります。
>ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?子ども向けの目的とやり方
学校現場でも「その子に合う教材を探すこと」が課題になっていた

私たち一般社団法人人間力認定協会では、SSTスペシャリストの教材を活用してくださった愛知県知立市立知立東小学校の近藤先生に、SSTについてお話を伺ったことがあります。
取材当時、近藤先生は、本や研修などでSSTについて学びながらも、児童の特性に合う教材をすぐに見つけることに難しさを感じていたと話してくださいました。
そして、SSTスペシャリストの教材について、次のように語っています。
「読みながらこの教材は、この子に使おうなど付箋をつけて勉強ができました。」
これは、SST教材を選ぶときの重要なポイントを表しているように思います。
教材を最初から最後まで順番に実施するのではなく、
「この活動は、どのような子どもに、どのような目的で使えるだろう」
と考えながら選ぶという視点です。
SST教材は「全部やるためのメニュー」ではなく、子どもの状況に合わせて選択するための選択肢として考えると、活用しやすくなります。
SST教材を選ぶときに確認したい4つのポイント
教材や活動を選ぶときは、少なくとも次のような点を確認してみてください。
| 確認するポイント | 考えたいこと | 例 |
|---|---|---|
| 子どもの困りごと | 実際にどの場面で困っているのか | 友だちとの会話が続きにくい |
| 活動の目的 | 何を練習する活動なのか | 話す・聞くを交代する |
| 理解しやすさ | 説明やルールを理解できそうか | 言葉だけでなく見本が必要か |
| 難易度 | 今の子どもに取り組みやすいか | 質問まで求めず、まず交代だけ練習する |
この4点を整理すると、「小学生だからこの教材」という選び方から一歩進んで、その子の現在の課題に合わせた教材選びがしやすくなります。
まず「困っている行動」だけを見るのではなく、前後の状況を整理する
私たちの『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』では、子どもの行動について考えるときに、行動だけを見るのではなく、
- その前にどのような状況があったのか
- 実際にどのような行動があったのか
- その後に何が起きたのか
を整理する考え方を紹介しています。
教材では、これを「ABC」という見方で扱っています。
例えば、
「友だちとの会話が苦手」
という情報だけでは、どのSSTを選ぶべきかはまだ分かりません。
もう少し具体的に見てみると、
- 自分から話しかけることが難しい
- 話し始めると一方的に話してしまう
- 相手から質問されたときに答えられない
- 話題が変わったことに気づきにくい
- 相手の話を待つことが難しい
など、さまざまな可能性があります。
同じ「会話が苦手」という困りごとでも、必要となる練習は違います。
したがって、すぐに教材を決めるのではなく、どの場面の、どの部分に難しさがあるのかを具体的にすることが教材選びの第一歩になります。
一度の行動だけで「理由」を決めつけない
ここで注意したいことがあります。
行動の前後を整理することは、その行動の理由を一度の観察だけで決めつけることではありません。
例えば、子どもが集団活動から離れたとき、
「集団行動が苦手だから」
とすぐに判断できるとは限りません。
説明が理解しにくかったのかもしれませんし、活動が難しすぎたのかもしれません。
周囲の音や刺激が負担だった可能性もあります。
あるいは、その日は体調や気分がいつもと違ったのかもしれません。
大切なのは、
「なぜできないのか」と決めつけるのではなく、「どのような状況で起きているのか」を丁寧に見ていくことです。
その積み重ねによって、必要な支援や練習したいスキルが見えやすくなります。
「困りごと」を「練習したいスキル」に変えて考える
SST教材を選ぶときには、困りごとをそのまま教材名に置き換えるのではなく、もう一段階具体化してみましょう。
例えば、以下は編集部で作成した例です。
例1:「友だちとの会話が続かない」
まず、
「どの部分で会話が続かなくなるのだろう」
と考えます。
もし、自分が話した後に相手へ話す順番を渡すことが難しいのであれば、
「話す役と聞く役を交代する」
というスキルに注目できます。
この場合は、会話を交代する練習ができる活動が候補になります。
例2:「みんなの前で話せない」
「話せない」という結果だけを見るのではなく、
- 何を話せばよいか分からないのか
- 大勢の前で話すことに不安があるのか
- 自由に文章を考えることが難しいのか
を確認します。
「何を話せばよいか分からない」ことが大きな負担になっているのであれば、名前や好きなことなど、話す項目があらかじめ決められた自己紹介活動が取り組みやすいかもしれません。
例3:「声が大きすぎる」
単に、
「もっと小さな声で話そう」
と繰り返すだけでは分かりにくい子どももいます。
もし「場所によって適した声の大きさが違う」ということが分かりにくいのであれば、場面と声量を対応させる活動が候補になります。
このように、
困りごと → 状況を具体化する → 練習したいスキルを考える → 活動を選ぶ
という順番で考えると、教材を選びやすくなります。
教材の対象年齢だけで決めない
SST教材には「小学生向け」「低学年向け」などの表示があることがあります。
もちろん、それらは教材を選ぶ際の参考になります。
しかし、対象年齢だけを基準にすると、子どもの実態と活動内容が合わないことがあります。
同じ小学4年生でも、
「簡単な見本があれば取り組みやすい子」
もいれば、
「見本なしでも活動でき、より複雑な場面について考えられる子」
もいます。
文部科学省の特別支援学校学習指導要領でも、自立活動の指導では、個々の児童生徒の障害の状態や発達段階などを的確に把握したうえで、目標や具体的な指導内容を設定することが示されています。
さらに、興味・関心や生活・学習環境なども含めて実態を把握し、必要な内容を段階的に取り上げることが求められています。
SST教材の選択でも、
「何年生だから」だけではなく、「今、この子に何が必要か」
という視点を持つことが大切です。
SST教材を見るときは「何を練習する教材なのか」を確認する
教材を購入したり、インターネットで活動を探したりするときには、活動名だけではなく、教材の目的を確認してください。
例えば、
「ゲーム形式で楽しそう」
という理由だけで選ぶのではなく、
「このゲームでは、どのような力を練習するのだろう」
と考えます。
確認したいのは、
- どのようなスキルを練習するのか
- どのような場面を想定しているのか
- どのくらいの説明が必要なのか
- 見本を示せるか
- 難易度を変えられるか
- 日常のどの場面につなげられそうか
といった点です。
活動そのものが面白いことも大切ですが、活動をすること自体が目的にならないようにする必要があります。
SSTスペシャリスト教材では「選ぶ→確認する→実践する」
私たちのSSTスペシャリスト公式教材では、実際に活動を行うまでの流れとして、
- 教材の活動内容を確認する
- 解説動画で内容を確認する
- 子どもの特性に応じて活動を選ぶ
- 実践動画で進行を確認する
- 実際に実施する
という流れを紹介しています。
SSTでは、教材に書いてある内容を読むことと、実際に子どもを前にして進行することには違いがあります。
「どんな言葉で説明するのか」
「どのように見本を示すのか」
「どのタイミングで次へ進むのか」
など、実践をイメージしておくことで取り組みやすくなります。
特にSSTを初めて実施する場合には、活動名だけではなく、実際の進め方まで確認できる教材を選ぶことも一つのポイントでしょう。
教材どおりに実施することを優先しすぎない
良い教材を選んでも、実際にやってみると予定どおり進まないことがあります。
それは必ずしも失敗ではありません。
例えば、
- 説明が長かった
- 難易度が高かった
- 子どもが活動の目的を理解しにくかった
- 想定していた困りごとと実際の課題が違った
ということもあります。
その場合は、
「教材に書いてあるとおりにできなかった」
と考えるよりも、
「今の子どもに、この活動は合っていたのだろうか」
と見直してみてください。
実施してみたことで初めて分かることもあります。
なお、SSTを嫌がる場合や活動が続かない場合の具体的な見直し方については、別の記事で詳しく解説します。
教材選びで避けたい3つの考え方
最後に、SST教材を探すときに気をつけたい点を整理します。
1.人気だけで決める
多く使われている教材であっても、目の前の子どもの課題に合っているとは限りません。
人気や口コミは参考情報の一つとして考え、活動の目的を確認しましょう。
2.年齢だけで決める
「小学3年生だから小学3年生向け教材」というだけでなく、本人の理解の仕方や現在の課題も確認します。
3.たくさんの活動をすることを目的にする
30種類の活動があったとしても、30種類すべてを実施する必要があるわけではありません。
重要なのは活動数ではなく、本人に必要なスキルを考えて選ぶことです。
まとめ|SST教材は「子どもを見ること」から選び始める
SSTにはさまざまな教材があります。
選択肢が多いことは大きなメリットですが、その一方で、
「どれを使えばよいのか分からない」
という悩みにもつながります。
教材選びに迷ったときは、いきなり教材一覧を見るのではなく、
- 子どもが困っている場面を確認する
- 行動の前後も含めて状況を整理する
- どのようなスキルが必要なのか考える
- そのスキルを練習できる活動を探す
- 理解しやすさや難易度を確認する
- 実践後の様子から再び見直す
という順番で考えてみてください。
学校現場への取材でも、SSTの難しさの一つとして「その子に合った教材を探すこと」が挙げられていました。
だからこそ大切なのは、
「良いSST教材はどれか」だけではなく、「この子に、今どの教材が必要なのか」
という視点です。
私たち一般社団法人人間力認定協会の「SSTスペシャリスト」では、SSTの基本的な考え方に加え、子どものさまざまな困りごとに合わせて検討できる30種類の実践ワーク、解説動画、実践動画を用意しています。
SSTを体系的に学び、
「目の前の子どもには、どのような活動を選べばよいのだろう」
というところから実践方法を学びたい方は、SSTスペシャリストの講座内容も参考にしていただければと思います。
参考資料
- 文部科学省「特別支援学校小学部・中学部学習指導要領 第7章 自立活動」
- 一般社団法人 人間力認定協会『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』
- 一般社団法人 人間力認定協会「愛知県知立市立知立東小学校 近藤先生インタビュー」
