ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?子ども向けの目的とやり方

「友だちとの会話がうまく続かない」
「自分の気持ちを伝えることが苦手」
「場面に合った声の大きさを調整するのが難しい」

子どもたちと関わる中で、このような場面に出会うことがあります。

こうした対人関係やコミュニケーションに必要な力を、具体的な場面を想定しながら練習していく方法の一つが、ソーシャルスキルトレーニング(Social Skills Training:SST)です。

SSTは、単に「正しい行動を覚えさせる」ためのものではありません。

大人が見本を示したり、実際にやってみたり、振り返ったりしながら、その子が日常生活の中で使える方法を一緒に考えていくことが大切です。

この記事では、子どもへの支援に関わる方に向けて、

  • ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは何か
  • SSTではどのような力を練習するのか
  • SSTの基本的な進め方
  • 子ども向けSSTの具体的な実践例
  • SSTを行うときに意識したいこと

について、私たち一般社団法人人間力認定協会の教材で扱っている内容も交えながら、わかりやすく解説します。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは

ソーシャルスキルトレーニングとは、人が社会の中で生活していくために必要となるスキルを、具体的な練習を通して学んでいく方法です。

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の資料では、ソーシャルスキルについて、対人関係を円滑にするための知識や具体的な技術・コツを指し、それらを学ぶ方法としてSSTが紹介されています。

また、国立障害者リハビリテーションセンターの資料でも、SSTは社会生活に必要なスキルを身につけるための訓練として説明されています。

子どもへの支援では、例えば、

  • 人に自分のことを伝える
  • 相手の話を聞く
  • 会話を交代しながら続ける
  • 自分の気持ちや意思を伝える
  • 場面に応じたコミュニケーションを考える

といった力を練習することがあります。

ただし、「この年齢なら、このスキルを身につけなければならない」と一律に決めるものではありません。

子どもによって困っている場面も、理解しやすい方法も異なります。

そのため、その子が実際にどのような場面で困っているのかを考えながら、練習する内容を選ぶことが重要です。

SSTの目的は「練習でできること」だけではありません

SSTを行う際に意識したいのが、トレーニングの時間だけ上手にできればよいわけではないということです。

例えば、支援者と一緒に練習したときには自己紹介ができても、学校や療育施設など別の場面では難しいことがあります。

反対に、練習では言葉が出てこなかったとしても、日常生活の中では自然にできることもあります。

SSTでは、練習したスキルを実際の生活場面へつなげていくことを「般化」と呼びます。

そのため、

「練習でできたか」だけでなく、「日常のどこで使えそうか」まで考える

ことが大切です。

SSTは、トレーニングそのものを上手にこなすことが最終目的なのではなく、子どもが日常生活の中で使える方法を増やしていくための学習と考えると分かりやすいでしょう。

SSTの基本的なやり方|5つの段階

私たち人間力認定協会の『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』では、SSTの基本的な進め方を次の5つの段階に整理しています。

1.教示

最初に、「どのようにすればよいのか」を子どもに伝えます。

言葉だけで説明するのではなく、必要に応じてイラストやカードなどを使い、何をするのか分かりやすく示します。

例えば自己紹介であれば、

「名前」
「好きなもの」
「好きな遊び」

など、話す内容をあらかじめ整理しておく方法があります。

2.モデリング

次に、大人が実際に見本を示します。

「こうやってやってみよう」と説明されるだけでは、具体的なイメージを持ちにくい子どももいます。

そこで支援者が実際に行い、子どもが見て確認できるようにします。

3.リハーサル

見本を確認したら、今度は子ども自身が実際にやってみます。

最初から完璧にできる必要はありません。

見本を見ながら行ったり、カードを確認しながら話したりするなど、その子が取り組みやすい方法から始めます。

4.フィードバック

実際にやってみた後は、できたところや、もう一度試してみたいところを一緒に確認します。

ここで気をつけたいのは、できなかったところばかりを指摘しないことです。

まずはできた部分を確認し、必要であればもう一度見本を示すなどして、次の練習につなげます。

5.チャレンジ(般化)

最後に、

「このやり方は、普段のどんな場面で使えそうかな?」

と考えます。

練習の場だけで終わらせず、学校、家庭、療育施設など実際の生活の中で使える場面へつなげていきます。

この、

教示→モデリング→リハーサル→フィードバック→チャレンジ(般化)

という流れが、SSTを理解するうえで基本となる考え方の一つです。

>【公式】SSTスペシャリストとは?受講資格・学習内容・費用・試験を完全解説

子ども向けSSTのやり方を「自己紹介」で考えてみる

ここまでの5段階を、具体的な活動に当てはめてみましょう。

私たちのSSTスペシャリスト公式教材では、実践ワークの一つとして「自己紹介トレーニング」を扱っています。

例えば、名前や好きなことなどを相手へ伝える練習をする場合です。

①何を話すのか分かりやすくする

まずは、

  • 名前
  • 好きな食べ物
  • 好きな遊び

など、自己紹介で話す内容をあらかじめ整理します。

これは先ほど説明した「教示」にあたります。

子どもの年齢や状況によっては、項目を少なくすることもできます。

②大人が自己紹介をしてみる

次に、大人が同じ型を使って自己紹介をします。

子どもにとっては、

「こういう順番で話せばいいんだ」

という具体的な見本になります。

これが「モデリング」です。

③子どもがやってみる

今度は子どもが自己紹介をしてみます。

最初は用意した型を見ながらでも構いません。

大切なのは、いきなり何も見ずに話すことではなく、取り組みやすい方法で実際に経験してみることです。

④できたところを振り返る

終わったら、

「名前が伝えられたね」
「好きなものまで話せたね」

など、できた部分を確認します。

途中で言葉に詰まったとしても、そのたびに遮って修正するのではなく、まず最後まで取り組めるようにすることも大切です。

必要であれば、もう一度大人の見本を見てから再挑戦します。

⑤日常で使う場面を考える

最後に、

「新しい友だちに会ったときはどうかな」
「新しい先生に自己紹介するときにも使えそうだね」

など、日常生活の場面へつなげます。

慣れてきたら、いつも同じ自己紹介を繰り返すのではなく、「最近好きなこと」「習い事」など、話す内容を変えることもできます。

このようにすると、SSTが単なる「決まった台詞を覚える練習」ではなく、実際のコミュニケーションへつながっていきます。

SSTでは「その子に合っているか」を確認することが大切

SSTにはさまざまな活動があります。

しかし、同じワークを行えば、すべての子どもに同じように取り組んでもらえるわけではありません。

例えば、

  • 説明が長すぎないか
  • 一度に求めることが多すぎないか
  • 課題が難しすぎないか
  • 反対に簡単すぎないか
  • 子ども自身が練習する意味を理解できているか

などを確認する必要があります。

特に支援の現場では、用意していた進め方どおりにならないことも珍しくありません。

その場合、「できないからもっと練習させる」と考えるのではなく、

今の活動がその子に合っているのか

という視点から見直すことが大切です。

活動の難易度を下げたり、説明を短くしたり、一度見本へ戻ったりすることもSSTの一部です。

「できなかったこと」より「次にどうするか」を考える

SSTを行っていると、どうしても「できた・できなかった」で評価したくなることがあります。

しかし、実際のコミュニケーションには、必ず一つの正解があるとは限りません。

相手や場所、状況によって適した伝え方が変わることもあります。

そのため、子どもの反応を見ながら、

「こういう言い方もあるね」
「この場面だったらどうする?」
「別の方法も試してみようか」

と一緒に考えていく姿勢が重要です。

できなかった行動を繰り返し指摘するよりも、次に使えそうな方法を具体的に示し、試す機会を作ることがSSTの実践につながります。

SSTはどこで行われている?

SSTは、療育施設だけで行われるものではありません。

学校教育の中でもSSTを取り入れた実践があります。

文部科学省が公開している発達障害支援に関する事業報告では、小学生を対象としたSSTとして、自己紹介などのスキルを扱った事例が報告されています。

また、国立特別支援教育総合研究所の実践事例データベースでも、コミュニケーションや意思伝達などをテーマにSSTを取り入れた学校での支援事例が紹介されています。

一方で、どの場所でも同じ方法・同じ頻度で実施すればよいというものではありません。

子どもの困りごとや目標、実施する環境に合わせて内容を考える必要があります。

SSTを始める前に「何を練習するか」を考える

SSTを始めるとき、

「どのワークをやろうか」

と教材から考え始めてしまうことがあります。

しかし、本来はその前に、

「この子は、どのような場面で困っているのだろう」

と考えることが重要です。

例えば、「友だちとうまく関われない」という一つの困りごとでも、

  • 話しかけるきっかけが分からない
  • 自分の話を続けてしまう
  • 相手から誘われたときの返し方が分からない
  • 嫌なことを断ることが難しい

など、必要となる支援は異なります。

困りごとを具体的にしていくことで、初めて「どのようなスキルを練習するのか」が見えてきます。

教材を選ぶ際にも、年齢だけを基準にするのではなく、その子が実際に必要としているスキルと活動の目的が合っているかを見ることが大切です。

まとめ|SSTは「教える→見る→試す→振り返る→生活につなげる」

ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、社会生活や対人関係に必要となるスキルを、具体的な練習を通して学んでいく方法です。

基本的な流れは、

  1. 教示
  2. モデリング
  3. リハーサル
  4. フィードバック
  5. チャレンジ(般化)

と整理することができます。

大切なのは、決められたワークをそのまま行うことではありません。

子どもがどこで困っているのかを考え、その子に合った方法や難易度に調整しながら、日常生活につながる練習にしていくことです。

私たち人間力認定協会では、「SSTスペシャリスト」の講座において、SSTの基本的な考え方だけでなく、子どもへの支援で活用できる30種類の実践ワークや実践動画を用意しています。

SSTについて体系的に学び、実際の支援へ取り入れる方法を知りたい方は、SSTスペシャリストの講座内容も参考にしていただければと思います。

→ SSTスペシャリストの講座内容を詳しく見る

参考資料

  • 独立行政法人 国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害支援の地域連携に係る全国合同会議」資料
  • 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」
  • 文部科学省「発達障害早期総合支援モデル事業」報告書
  • 一般社団法人 人間力認定協会『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』
一般社団法人 人間力認定協会 代表理事 井上智之

執筆者

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事
井上 智之

【プロフィール】
一般社団法人 人間力認定協会 代表理事の井上 智之。30年にわたる教室運営を通して、多くの子ども・保護者・教育関係者と向き合う。比較や不安、教育現場の課題を目の当たりにし、一般社団法人 人間力認定協会を設立。現在は発達障害の療育・支援法の研究開発と情報発信に取り組み、「理解は支援の第一歩」を理念に、一人ひとりに合った支援と社会理解の普及を目指している。また、当協会では発達支援や心理に関する知識を体系的に学べる「児童発達支援士」「メンタルヘルス支援士」などの資格講座を提供しており、これまでに延べ5万名以上の方が受講している。

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