会話のキャッチボールを練習するSST|話す・聞くを交代する方法

「自分の話をずっと続けてしまう」

「相手が話している途中でも、自分の話を始めてしまう」

「何を話せばよいか分からず、会話が続かない」

子どもたちと関わっていると、このような会話の難しさに出会うことがあります。

会話は、一人が話し続けるだけでは成立しません。

自分が話す時間と、相手が話す時間があり、それを交代しながらやり取りしていきます。

しかし、この「交代」は目に見えません。

そのため、ソーシャルスキルトレーニング(SST)では、ボールやぬいぐるみなどの物を使い、「今は誰が話す番なのか」を分かりやすくする練習を行うことがあります。

この記事では、一般社団法人人間力認定協会の『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』で扱っている「会話のキャッチボール」のワークをもとに、

  • 会話のキャッチボールとは何か
  • 話す・聞くを交代するSSTの進め方
  • 子どもが話しやすい話題の選び方
  • 慣れてから質問を加える方法
  • 日常会話へつなげるときのポイント

について解説します。

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会話のキャッチボールとは?

「会話のキャッチボール」という言葉は、会話のやり取りをボールの受け渡しに例えた表現です。

例えば、

Aさん「昨日、公園に行ったよ」

Bさん「何して遊んだの?」

Aさん「サッカーをしたよ」

Bさん「楽しかった?」

というように、話す側と聞く側が入れ替わりながら会話が進んでいきます。

大人にとっては自然なやり取りに見えますが、実際には、

  • 自分の話をする
  • 相手が話している間は待つ
  • 相手の話を聞く
  • 話す番が変わったことに気づく
  • 必要に応じて返事や質問をする

など、複数のことを行っています。

そのため、会話が続きにくい子どもに、最初からこれらをすべて求めると難しい場合があります。

そこで、SSTではまず、

「話す人と聞く人が交代する」

という基本的な部分だけを取り出して練習することができます。

文部科学省の通級指導でも「話者交代」が扱われている

「話す・聞くを交代する」という考え方は、学校教育の実践でも取り入れられています。

文部科学省が公開している通級による指導の事例では、

「二者が交互に話す(話者交代)の指導」

が紹介されています。

この事例では、話す順番や相手への意識、聞く力を育てることなどを意図して指導が行われています。

また、別の文部科学省の通級による指導の事例でも、「会話のキャッチボールゲーム」を取り入れ、聞き方や話し方を確認した後、他の児童とのペア学習へつなげる実践が紹介されています。

つまり、会話の中で「交代する」という部分を一つのスキルとして取り出して練習する方法は、特別支援教育の実践でも使われています。

ボールを使うと「話す番」が見える

私たちのSSTスペシャリスト公式教材では、「会話のキャッチボール」の練習に、柔らかいボールやぬいぐるみなどを使います。

基本的なルールはシンプルです。

「ボールを持っている人が話す」

と決めます。

話し終わったら、相手へボールを渡します。

すると、

ボールを持っている人=話す人
ボールを持っていない人=聞く人

というように、通常は目に見えない「話す番」が分かりやすくなります。

実際にボールを投げる必要はありません。

机の上で渡したり、ぬいぐるみを手渡したりしても構いません。

目的は運動ではなく、会話の順番を見える形にすることです。

会話のキャッチボールSSTの基本的な進め方

協会教材の内容を整理すると、基本的には次のように進めることができます。

段階行うこと主に練習すること
1話題を一つ決める何について話すか分かる
2ボールを持つ人が話す自分の番に話す
3話し終わったら相手へ渡す話す番を交代する
4相手が話している間は待つ聞く時間を経験する
5慣れたら質問を一つ加える相手の話に応じる

ポイントは、最初から5まで全部できるようにしないことです。

まずは1〜4の「交代」だけでも構いません。

特に最初の段階では、互いの話が完全につながっていなくても、交互に話せていることを大切にします。

まずは「好きなこと」など話しやすいテーマから

自由に、

「何でもいいから話してみよう」

と言われると、何を話せばよいのか分からなくなる子どももいます。

そのため、最初はテーマを決めておくと取り組みやすくなります。

SSTスペシャリスト公式教材では、例えば次のような話題を紹介しています。

  • 好きな食べ物
  • 好きな場所
  • 好きなテレビ番組
  • 趣味
  • 学校の思い出
  • 今やってみたいこと

例えば「好きな食べ物」をテーマにして、

大人「私はカレーが好きです」

と言ってから、ボールを子どもへ渡します。

子どもが、

「ぼくはいちごが好き」

と答えたら、またボールを返します。

最初はこれだけでも構いません。

重要なのは、内容の面白さではなく、

「自分が話す→相手へ渡す→相手が話す→自分に戻ってくる」

というやり取りを経験することです。

最初から「相手の話について質問して」と求めなくてもよい

会話のキャッチボールというと、

「相手の話を聞いて、関連する質問をしなければならない」

と思うかもしれません。

しかし、それは少し難しい段階です。

例えば、

相手「好きな食べ物はラーメンです」

と話したとき、

「何ラーメンが好きなの?」
「どこのラーメン屋さんが好き?」
「いつ食べたの?」

などと質問するためには、相手の話を聞き、内容を理解し、その内容に合った質問を考える必要があります。

これは単純な「交代」よりも多くのことを同時に行っています。

そのため、最初は、

大人「私はラーメンが好き」

子ども「ぼくはハンバーグが好き」

大人「私はみかんも好き」

というように、話の内容が完全につながっていなくても構いません。

まずは交互に話す経験を優先します。

慣れてきたら「質問」を一つ加える

話す・聞くの交代に慣れてきたら、次の段階として質問を加えることができます。

SSTスペシャリスト公式教材でも、交互に話す活動に慣れてから、ボールを渡す前に相手へ質問する段階を紹介しています。

例えば、

大人「私はカレーが好きです。○○さんは何が好き?」

↓ ボールを渡す

子ども「ぼくはラーメンが好き。先生は何ラーメンが好き?」

↓ ボールを渡す

大人「しょうゆラーメンが好きです」

というように進めます。

ここでは、

「自分が話したら必ず高度な質問をする」

必要はありません。

最初は、

「○○さんは?」
「先生は?」
「どっちが好き?」

といった短い質問から始めてもよいでしょう。

「交代」と「相手の話に応じる」は分けて考える

会話の練習では、この2つを分けて考えると分かりやすくなります。

①話す・聞くを交代する

まず、

「自分だけが話し続けるのではなく、相手にも話す番がある」

ことを経験します。

②相手の話に応じる

次に、

「相手が話した内容について質問する」

「相手の話に返事をする」

といった練習へ進みます。

この2段階を一度に行おうとすると難しくなる場合があります。

「会話を続けられない」という一つの困りごとを、より小さなスキルに分ける

ことがポイントです。

相手が話しているときの「聞く」も練習になる

会話のキャッチボールでは、自分が話すことばかりに目が向きがちです。

しかし、ボールが相手に渡っている時間も大切です。

その時間には、

「今は相手の番」

という経験をします。

ただし、「聞く」の形を一律に決めすぎないことも大切です。

大人が子どもの話を聞くときにも、途中で話を遮らず、焦らせずに内容を確認しながら聞くことが重要です。

支援者自身が、

「あなたの話を待っています」

という姿勢を示すことも、会話を練習する環境づくりにつながります。

話したいことがたくさんある子の場合

好きな話題になると、

「ずっと話していたい」

という子どももいます。

そのような場合に、

「長く話してはいけない」

と注意するだけではなく、ボールを使って区切りを分かりやすくします。

例えば、

「一つ話したらボールを渡そう」

というルールにします。

子どもが好きなゲームについて話して、

「昨日、新しいキャラクターを手に入れた!」

と言ったら、

「じゃあ、いったん先生にボールを渡そう」

と交代します。

本人の「話したい」という気持ちを否定するのではなく、相手にも話す番があることを分かりやすくする方法です。

反対に、話すことが難しい子の場合

会話のキャッチボールは、たくさん話せる子どもだけの活動ではありません。

国立特別支援教育総合研究所も、コミュニケーションの手段は子ども一人ひとり異なり、言葉だけでなく、実物、絵カード、表情、視線、身振りなどを活用することが必要な場合があるとしています。

そのため、

「ボールを持ったら必ず文章で話さなければならない」

というルールにする必要はありません。

例えば、

  • 好きなもののカードを選ぶ
  • 写真を指さす
  • 「はい」「いいえ」で答える
  • 身振りで伝える
  • 支援者と一緒に答える

など、その子が使いやすい方法で参加することも考えられます。

大切なのは、発語の量だけで参加できる・できないを決めないことです。

子どもが答えやすい質問から始める

質問を加える段階では、最初から、

「どうしてそれが好きなの?」

と理由まで求めると難しい場合があります。

そこで、

「犬と猫ならどっちが好き?」
「カレーは好き?」
「好きな色は何色?」

など、答えやすい質問から始めることができます。

慣れてきたら、

「どうして好きなの?」
「いつから好き?」
「どこが面白い?」

と少しずつ広げます。

ここでも、質問の難易度を子どもに合わせることが重要です。

大人も「質問しすぎない」

子どもとの会話を続けようとして、大人が質問を続けることがあります。

大人「何が好き?」

子ども「電車」

大人「何線が好き?」

子ども「新幹線」

大人「何色?」

子ども「青」

大人「どこで見たの?」

この形でも会話は続いていますが、子どもからすると「質問に答え続ける時間」になることがあります。

会話のキャッチボールでは、大人自身も、

「先生も新幹線好きだよ」
「この前、駅で見たよ」

など、自分のことを少し話します。

質問→回答だけではなく、お互いが話す

という形を経験できるようにします。

日常会話ではボールを使いません

SSTではボールやぬいぐるみを使いますが、普段の会話で毎回ボールを持つわけではありません。

そのため、活動に慣れてきたら、徐々に物を使わない会話へつなげます。

例えば最初は、

ボールあり

↓

次は、

机の上に「話す人」のカードを置く

↓

さらに慣れたら、

何も使わずに会話してみる

といった形です。

ただし、必ずこの順番で進む必要はありません。

子どもが分かりやすい方法を選びます。

SSTでできたことと、日常会話でできることは分けて見る

ボールを使ったSSTで交代して話せたからといって、次の日から休み時間の会話でも同じようにできるとは限りません。

練習では、

「ボールを渡す」

という明確な合図があります。

一方、日常会話では、

  • 相手が話し終わった
  • 少し沈黙した
  • 自分に質問された
  • 相手の視線や表情が変わった

といった複数の手がかりから、自分の番を判断します。

そのため、SSTでできたことを確認しながら、

「学校ではどうだった?」
「友だちと話すときはどうかな?」

と日常場面へ少しずつつなげていきます。

会話のキャッチボールSSTで注意したいこと

最後に、実施するときに注意したいポイントを整理します。

1.最初から自然な会話を求めすぎない

SSTの最初の目的は、自然で流暢な会話を完成させることではありません。

まずは話す・聞くを交代する経験から始めます。

2.質問を早く加えすぎない

交代するだけでも難しい場合があります。

質問は慣れてから加えます。

3.興味のない話題ばかり選ばない

本人が話しやすいテーマを取り入れることで参加しやすくなることがあります。

4.話す量を全員同じにしない

短く答える子もいれば、たくさん話す子もいます。

「○秒話せなければ失敗」というように一律に決める必要はありません。

5.発語だけを参加条件にしない

カード、写真、身振りなど、本人に合ったコミュニケーション手段も考えます。

まとめ|まずは「話す・聞くの交代」から始める

会話には、

「話す」
「聞く」
「相手の話を理解する」
「質問する」
「返事をする」

など、多くのスキルが含まれています。

そのすべてを一度に練習する必要はありません。

会話のキャッチボールが難しい子どもには、

  1. 話題を決める
  2. ボールを持つ人が話す
  3. 話し終わったら相手へ渡す
  4. 相手が話している時間を経験する
  5. 慣れたら質問を加える

というように、段階を分けることができます。

特に大切なのは、

「交代して話すこと」と「相手の話に合わせて質問すること」を分けて考えることです。

まずは、

「自分の番がある」
「相手にも番がある」

という経験から始めます。

そして徐々に、

「相手は何を話していたかな?」
「一つ質問してみよう」

と広げていきます。

私たち一般社団法人人間力認定協会の「SSTスペシャリスト」では、今回紹介した「会話のキャッチボール」を含め、子どもへの支援で活用できる30種類の実践ワークと実践動画を用意しています。

「会話が苦手」という大きな困りごとを、どのような練習に分ければよいのか知りたい方や、SSTの具体的な進め方を体系的に学びたい方は、SSTスペシャリストの講座内容も参考にしていただければと思います。

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参考資料

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事 井上智之

執筆者

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事
井上 智之

【プロフィール】
一般社団法人 人間力認定協会 代表理事の井上 智之。30年にわたる教室運営を通して、多くの子ども・保護者・教育関係者と向き合う。比較や不安、教育現場の課題を目の当たりにし、一般社団法人 人間力認定協会を設立。現在は発達障害の療育・支援法の研究開発と情報発信に取り組み、「理解は支援の第一歩」を理念に、一人ひとりに合った支援と社会理解の普及を目指している。また、当協会では発達支援や心理に関する知識を体系的に学べる「児童発達支援士」「メンタルヘルス支援士」などの資格講座を提供しており、これまでに延べ5万名以上の方が受講している。

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