「本当は遊びたくないのに、断れずについて行ってしまう」
「断ると相手に嫌われそうで、無理をして引き受けてしまう」
「嫌なときに、とっさに強い言葉だけが出てしまう」
子ども同士の関係では、誘いに応じることだけでなく、自分の意思で断ることも大切なソーシャルスキルです。断る練習の目的は、何でも感じよく断れる子にすることではありません。本人が「したくない」「今は難しい」と感じたときに、その意思を相手へ伝え、自分を守れるようにすることです。
この記事では、一般社団法人人間力認定協会の『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』No.23「友だちの誘いを断るトレーニング」をもとに、見本と役割交代を使った練習方法を紹介します。教材にある伝え方を土台にしつつ、子どもの意思や安全を優先した使い分けも整理します。
断ることは、相手を拒絶することと同じではない
誘いを断る場面では、少なくとも二つのことが同時に起きています。
- 自分はどうしたいかを確かめる
- その意思を相手に伝える
余裕がある場面では、相手への感謝や理由、別の案を添えると、関係を保ちながら伝えやすくなることがあります。一方で、それらは断るための必須条件ではありません。
児童の権利に関する条約は、子どもが自分に関わることについて意見を表明する権利を示しています。日常の遊びでも、大人が「せっかく誘ってくれたのだから」と参加を決めるのではなく、まず本人がどうしたいかを確認する姿勢が大切です。
「断ったら失礼」ではなく、断ることも選べる関係をつくるところから考えましょう。
練習の前に「何を断りたいのか」を確かめる
同じ「遊ぼう」という誘いでも、断りたい理由はさまざまです。
- 今日は別の予定がある
- 疲れていて、一人で過ごしたい
- その遊びはしたくない
- 今は参加したくないが、別の日なら遊びたい
- 誘われた内容や相手に不安を感じている
支援者が先に「本当は遊びたいのに、言い方だけがわからない」と決めつけると、本人の意思と違う練習になることがあります。「この場面なら、どうしたい?」「断る・一緒に行く・別の遊びを提案するなら、どれが近い?」と、答えやすい方法で確認します。
話すことが難しい子には、選択肢を文字やカードで示しても構いません。答えがすぐに出ないときは、急がせずに考える時間を取ります。
友だちの誘いを断るSSTの基本手順
公式教材では、大人が見本を示し、子どもが断る側と誘う側の両方を経験する流れを採用しています。基本は次の4段階です。
| 段階 | 行うこと | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| 1 | 大人が断り方の見本を見せる | 言葉の長さや調子が子どもにわかりやすいか |
| 2 | なぜその伝え方をするのか説明する | 「相手を喜ばせるため」ではなく、自分の意思を伝える方法だと理解できるか |
| 3 | 大人が誘い、子どもが断る | 子どもが使いやすい言葉や方法を選べるか |
| 4 | 子どもが誘い、大人が断る | 断られる側の受け止め方も経験できるか |
ロールプレイでは、正しい台詞を暗記させることより、「断ってもよい」「相手に断られても関係が終わるとは限らない」と経験できることを大切にします。
文部科学省の指導資料でも、ロールプレイは社会場面を演じながら自分の行動を振り返り、他者の立場や対人場面での対処を学ぶ方法として紹介され、「友達からの勧誘を適切に断る」ことがSSTの例に挙げられています。ただし、資料の掲載文脈と目の前の子どもの状況は同じではありません。実際の練習では、本人の意思と経験に合う場面を選びます。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)の基本的な進め方も確認しておくと、教示・見本・練習・振り返りという流れを組み立てやすくなります。
断り方は一つではない
教材では、「誘ってくれてありがとう」「今日は予定がある」「明日ならどう?」のように、感謝・理由・代案を組み合わせた見本が紹介されています。これは使える選択肢の一つですが、すべての場面で三つをそろえる必要はありません。
| 場面 | 伝え方の例 | ポイント |
|---|---|---|
| 予定がある | 「今日は習い事があるから遊べない。また今度ね」 | 理由を話してよいと本人が思う場合 |
| 疲れている | 「今日は一人で休みたい」 | 本人の状態を短く伝える |
| 別の遊びならしたい | 「鬼ごっこはしない。カードゲームならいいよ」 | 本当に代案がある場合だけ伝える |
| 理由を話したくない | 「今日は遊ばないよ」 | 理由を説明しない選択も認める |
| 考える時間がほしい | 「あとで返事してもいい?」 | その場で決めなくてもよい |
| 嫌なことを強く勧められた | 「いやです。やめてください」 | 短く明確に伝え、その場を離れる |
「ありがとう」は、本人が自然に言える場面では関係をやわらげます。しかし、怖い誘い、からかい、危険な行動への誘いまで、感謝や代案を求める必要はありません。安全が関わる場合は、短く断る・その場を離れる・信頼できる大人へ知らせることを優先します。
ロールプレイは身近な場面から始める
最初は、実際に起こりやすく、子どもが想像しやすい場面を一つ選びます。
例えば、大人が「今日、公園で遊ばない?」と誘い、子どもは自分で選んだ言葉で断ります。終わったら、次のように短く振り返ります。
- 自分の気持ちは伝えられたか
- 言いやすかった言葉はどれか
- もっと短くしたいところはあるか
- 相手役の言葉や距離は怖くなかったか
次に役割を交代し、子どもが誘う側、大人が断る側になります。大人が穏やかに断った後、「断られたけれど、あなたが嫌いという意味ではないよ」と説明すると、誘いと人間関係を切り分けやすくなります。
ただし、断られる経験が強い負担になる子もいます。表情や言葉、参加の様子を見て、短く終える、見学に切り替える、別の日に行うなど調整してください。SSTを嫌がる・続かないときの見直し方も参考になります。
言葉で断ることが難しいときの工夫
断る意思は、長い文章で話さなければ伝えられないものではありません。子どもが使いやすい方法を一緒に探します。
- 「いまはしない」「あとで」など短い言葉を選ぶ
- 「はい/いいえ」「する/しない」のカードを使う
- 首を横に振る、手で止まる合図をする
- 支援者と一緒に伝える
- 大人へ助けを求めるカードや合図を決める
発語以外の方法で伝えられたときも、「断る言葉が言えなかった」と評価せず、意思を伝えたことを受け止めます。その後、本人が希望する場合にだけ、別の方法も練習します。
大人が注意したい5つのこと
1.断る理由を作らせない
本人が理由を話したくないこともあります。「理由がないと断れない」という学習にならないようにします。
2.代案を義務にしない
「また明日」「別の遊びなら」と言うのは、本当にそうしたい場合だけです。関係を保つために、望まない約束をさせないようにします。
3.短い「いや」を失敗にしない
強い言い方の背景には、驚き、焦り、過去に断っても受け入れてもらえなかった経験などがあるかもしれません。まず意思を受け止め、落ち着いてから言いやすい表現を考えます。
4.断った後も説得を続けない
大人自身が子どもの「いや」を受け止めることが、練習の土台です。無理に参加させると、「断っても意味がない」と感じる可能性があります。
5.友だち関係を脅しに使わない
「そんな断り方では友だちがいなくなる」と不安をあおるのではなく、「どう言うと自分の気持ちが伝わりやすいかな」と一緒に考えます。
日常場面へつなげるときは、助けを残す
練習で言えたからといって、友だちに突然誘われた場面でも同じように言えるとは限りません。相手、場所、周囲の人数、断った後の反応が変わるためです。
日常では、「困ったらこの先生に知らせる」「断っても誘いが続いたらその場を離れる」など、次の行動も確認しておきます。実際に断れたときは、「断り方が完璧だった」ではなく、「自分の気持ちを伝えられたね」と具体的に受け止めます。
うまく言えなかった日も、責める必要はありません。「急に誘われた」「周りに人が多かった」など、練習と違った条件を振り返り、必要な助けを考えます。子どもの意思を守ることが、言葉の形を整えることより先です。
まとめ|「断ってよい」を土台に伝え方を増やす
友だちの誘いを断るSSTでは、次の順で取り組みます。
- 本人がどうしたいかを確認する
- 大人が短い見本を示す
- 子どもが使いやすい方法で断る
- 誘う側と断る側を交代する
- 日常で必要な助け方も決めておく
感謝、理由、代案は、穏やかに伝えるための選択肢です。しかし、本人の意思や安全より優先されるルールではありません。まず「断ってもよい」と伝え、その子が使える表現や合図を少しずつ増やしていきましょう。
一般社団法人人間力認定協会の「SSTスペシャリスト」では、今回紹介した「友だちの誘いを断るトレーニング」を含む実践ワークを、教材と動画で学べます。
参考資料
- こども家庭庁「児童の権利に関する条約 全文」
- こども家庭庁「こども基本法」
- 文部科学省「実践編 学校―指導上のポイント」
- 一般社団法人人間力認定協会『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』No.23「友だちの誘いを断るトレーニング」
