SSTの記録と振り返り方|やって満足?練習でできたことを日常につなげる

SSTを実施した後、記録を取る場合に何を書けばよいか迷うことはないでしょうか。

「できた」「できなかった」だけを残すと、結果は簡潔に見えます。しかし、それだけでは、どのような手助けが役立ったのか、練習したスキルを生活の中で使えたのかがわかりません。

SSTの記録は、子どもを採点するためのものではありません。子どもの姿と大人の働きかけを具体的に振り返り、次の練習や環境調整につなげるための手がかりです。

この記事では、一般社団法人人間力認定協会の『SSTスペシャリスト公式テキスト』にある習熟の考え方と、「子どもの様子の観察と記録」「日常生活でのスキルの活用」「取り組みの振り返りと調整」をもとに、現場で使いやすい記録方法を解説します。

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SSTで記録する目的は「次に何をするか」を考えること

記録を取る目的は、回数を数えたり、子ども同士を比べたりすることだけではありません。例えば、同じ「助けを求められなかった」という場面でも、実際には次のような違いがあります。

  • 相手が近くにいるときは伝えられた
  • 大人が最初の一言を示すと、その後は話せた
  • カードなら伝えられた
  • 伝える機会そのものがなかった
  • 疲れていて、練習への参加が難しかった

この違いがわかれば、「もっと繰り返す」以外の対応も考えられます。相談する相手を先に示す、言葉を短くする、カードを用意する、休憩を入れるなど、次に試す工夫が見えてきます。

文部科学省の「学習評価に関するQ&A」も、子どもの実態に応じて到達状況を具体化し、評価結果をその後の指導改善に生かす考え方を示しています。SSTでも、記録を判定で終わらせず、次の手立てへつなげる視点が重要です。

まずはSST教材の選び方で目標と活動が合っているかを確認し、記録によって実施後の見直しへつなげましょう。

「見たこと」と「考えたこと」を分けて書く

記録で最初に意識したいのは、観察した事実と大人の解釈を分けることです。それは事実なのか、あなたの考えや意見なのかということですね。

例えば、工作中に子どもが紙を持ったまま座っていたとします。

見たこと

  • 机にのりがなかった
  • 子どもは紙を持ったまま座っていた
  • 大人が近づくと、紙を差し出した

大人が考えたこと

  • 人に頼るのが苦手なのかもしれない
  • 何と言えばよいかわからなかったのかもしれない

「頼るのが苦手」は考えられる仮説ですが、見ただけで確定はできません。記録では、まず見たことを書き、理由がわからなければ「不明」として構いません。

「やる気がなかった」「わざと困らせた」といった評価だけを残すと、別の可能性を検討しにくくなります。できていた場面や本人の言葉も合わせて記録すると、支援の手がかりが増えます。

状況・行動・結果をABCで整理する

場面の前後を整理するときは、ABCの枠組みを使う方法があります。

  • A(Antecedent):行動の前の状況
  • B(Behavior):実際に見られた行動
  • C(Consequence):行動の後に起きたこと

ここでいう「結果」は、成功・失敗の判定ではありません。大人が何を伝えたか、何を渡したか、その後に活動がどう進んだかを指します。

項目工作中の記録例
A:状況紙を貼る活動が始まった。子どもの机にのりがなかった
B:行動紙を持ったまま座っていた。大人が近づくと紙を差し出した
C:結果大人が「のりがいるかな」と尋ねた。子どもがうなずき、のりを受け取って活動を再開した

この記録からは、「大人が近づいたときには、紙を差し出して伝えようとした」ことがわかります。声に出さなかった理由まではわかりません。できなかったことだけでなく、すでに使っている伝え方にも目を向けられます。

ペアレント・トレーニング実践ガイドブックでも、行動の前後を含めて整理する考え方が紹介されています。

最低限残したい8つの記録項目

毎回長い報告書を書く必要はありません。次に役立つ情報を短く残します。

記録項目書き方の例
日時・場所10月8日、放課後の教室
今回の目標必要な物がないときに大人へ知らせる
練習した活動ロールプレイを2回
A:状況相談相手を先に確認した
B:子どもの行動1回目はカード、2回目は「貸して」と伝えた
大人の手助け1回目は見本、2回目は指さしの合図のみ
C:その後必要な物を受け取り、活動を続けた
本人の言葉・次回「短い方が言いやすい」。次回も同じ言葉で試す

大切なのは、子どもの行動と大人の手助けを一緒に書くことです。「言えた」という記録でも、見本を見て言えたのか、自分から言えたのかで、次に確かめたいことが変わります。

練習中と日常生活は分けて記録する

SSTには、練習したことを実際の生活場面で使えるようにしていく「般化」という視点があります。しかし、練習でできたからといって、翌日からどこでも同じようにできるとは限りません。

練習では、始める合図、使う言葉、相手役があらかじめ決まっています。日常生活では、自分で場面に気づき、相手を探し、タイミングを判断する必要があります。

そのため、記録は少なくとも次のように分けます。

場面記録例次に確かめること
トレーニング大人の見本の後、「貸してください」と言えた見本を短い合図に変えても伝えられるか
日常生活工作中、先生が近づくと「のり」と伝えた先生が少し離れているときの助け方
機会がなかった日道具がそろっており、相談する場面はなかった次に自然な機会があったときに確認する

「機会がなかった」は「できなかった」ではありません。一度できたことも、すぐに「いつでも一人でできる」と判断せず、場所や相手が変わったときの様子を確かめます。

『SSTスペシャリスト公式テキスト』では、手助けが必要な段階、練習ではできても日常では課題がある段階、日常でも使えている段階という三つの習熟目安を示しています。ただし、これは講座内で振り返るための目安であり、標準化された心理検査や、支援効果を証明する尺度ではありません。

うまくいかなかったときの振り返り方

思うように進まなかったときは、回数を増やす前に条件を見直します。

目標は具体的だったか

「コミュニケーションを上手にする」では、何を練習するのかが曖昧です。「必要な物がないとき、近くの大人へ知らせる」のように、場面と行動を具体的にします。

説明や見本は伝わっていたか

言葉が長すぎなかったか、見本を見る位置はわかりやすかったか、練習する内容を一度に増やしすぎていなかったかを確認します。

その日の状態や環境はどうだったか

疲れ、空腹、周囲の音、人の多さなどによって取り組みやすさは変わります。その日の結果だけで能力や意欲を決めつけません。

大人の手助けは合っていたか

早く助けすぎて子どもが伝える機会を失っていなかったか、反対に、練習のために必要な助けを待たせすぎていなかったかを振り返ります。

変更する点が多い場合は、「次は説明を一文にする」など、まず一つを選びます。SSTを嫌がる・続かないときは、繰り返す前に難易度や声かけを見直す参考になります。

できている場面と子どもの声も残す

困った場面だけを記録すると、苦手なことばかりが目立ちます。

  • 家では自分から頼めた
  • いつもの先生には伝えられた
  • 言葉ではなくカードで知らせた
  • 難しいと伝えて休憩を選べた
  • 最後までではなくても、途中まで参加した

こうした姿も大切な情報です。何があると取り組みやすいかを考える手がかりになります。

また、「どこがやりやすかった?」「難しかったところはある?」と、本人の感想も確認します。答えることが難しければ、選択肢や表情カードを使っても構いません。大人が見た表情だけで気持ちを決めつけず、本人が伝えられる方法を用意します。

家庭・学校・支援先で共有するときのポイント

共有する際は、「相談が苦手です」という評価だけでなく、具体的な場面と助け方を伝えます。

例えば、「近くにいる先生には『のり』と伝えられた。先生が離れていると、その場で待っていた」「カードを机に置くと知らせやすかった」と書けば、別の場所でも試せる工夫を相談できます。

家庭と園・学校で、すべて同じ方法にする必要はありません。目標を共有し、それぞれの環境で実行できる助け方を考えます。個人情報を含む記録は、共有する相手と目的を明確にし、施設や学校のルールに沿って保管してください。

記録のために子どもを困らせない

経過を確かめるために、必要な物をわざと隠す、助けを求めるまで渡さない、危険な場面を作るといったことは避けます。活動中は必要な手助けを行い、記録は後から整理できます。

日常生活のすべてを練習や採点の時間にしないことも大切です。遊びや会話のたびに言い直しを求められると、やりとりそのものが負担になる場合があります。記録する場面を絞り、疲れているときは助けを増やしましょう。

まとめ|記録は子どもと環境の両方を見直すために使う

SSTの記録では、次の点を意識します。

  1. 見たことと大人の解釈を分ける
  2. 状況・行動・その後を具体的に書く
  3. 大人が行った手助けも残す
  4. 練習中と日常生活を分ける
  5. 機会がなかった日を失敗にしない
  6. できている場面と子どもの声も記録する
  7. 次回に変えることを一つ決める

記録は、子どもの不足を並べるものではありません。役立った手助けや環境を見つけ、大人の説明や進め方も調整するために使います。短い記録から始め、日常生活で本人の役に立っているかを確かめていきましょう。

一般社団法人人間力認定協会の「SSTスペシャリスト」では、実践ワークだけでなく、子どもの様子の観察、目標設定、日常へのつなげ方、振り返りについても体系的に学べます。

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参考資料

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事 井上智之

執筆者

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事
井上 智之

【プロフィール】
一般社団法人 人間力認定協会 代表理事の井上 智之。30年にわたる教室運営を通して、多くの子ども・保護者・教育関係者と向き合う。比較や不安、教育現場の課題を目の当たりにし、一般社団法人 人間力認定協会を設立。現在は発達障害の療育・支援法の研究開発と情報発信に取り組み、「理解は支援の第一歩」を理念に、一人ひとりに合った支援と社会理解の普及を目指している。また、当協会では発達支援や心理に関する知識を体系的に学べる「児童発達支援士」「メンタルヘルス支援士」などの資格講座を提供しており、これまでに延べ5万名以上の方が受講している。

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