SSTを始めても、子どもが周囲を見続ける、音に反応して席を離れる、説明の途中で別の物に手が伸びることがあります。
そのようなとき、「集中する力がない」「やる気がない」と決める前に、活動する場所を見直してみましょう。
掲示物、話し声、窓の外、人の動き、次に何をするかわからない不安など、課題以外の情報に多くの力を使っている可能性があります。
SSTの環境設定とは、子どもを決められた形に合わせることではありません。何をする場所か、どこまで取り組むか、困ったらどうすればよいかをわかりやすくし、参加しやすい条件を整えることです。
この記事では、一般社団法人人間力認定協会の『SSTスペシャリスト公式テキスト』で紹介している「トレーニング時の環境設定(構造化)」をもとに、家庭・園・学校・支援施設で確認したいポイントを具体的に解説します。
SSTの環境設定で大切な二つの考え方
公式教材が環境設定の共通点として挙げているのは、次の二つです。
- 気が散るものを減らす
- 何をするかを明確にする
例えば、今は使わない物を視界から外す、活動する位置に目印を付ける、手順をカードで示すといった工夫です。これらは、子どもを管理しやすくするためではなく、どこに注意を向ければよいかをわかりやすくするために行います。
ただし、「物が少ない部屋なら全員が集中できる」という意味ではありません。静かすぎる場所で落ち着かない子もいれば、背後の人の動きが気になる子、見通しがないことに不安を感じる子もいます。本人の反応を見ながら個別に調整することが前提です。
文部科学省の「障害のある子供の教育支援の手引」でも、写真や絵カード、一定の日課などで見通しを持ちやすくすることや、構造化を一人ひとりに合わせて見直すことが示されています。
まず確認したい環境チェックリスト
SSTを始める前と、参加しにくそうな様子が見られたときに、次の項目を確認します。
| 視点 | 確認すること | 工夫の例 |
|---|---|---|
| 視覚 | 掲示物、玩具、窓の外、人の動きが多くないか | 使わない物をしまう、向きや位置を変える |
| 聴覚 | BGM、廊下の声、機械音、反響音が負担でないか | 音源から離す、扉を閉める、BGMを止める |
| 場所 | どこで座る・発表するかがわかるか | 椅子、マット、床の目印で示す |
| 見通し | 何を、いくつ、いつまで行うかがわかるか | 手順表、終わりの箱、タイマーを使う |
| 教材 | 必要な物がそろい、量が多すぎないか | 今使う物だけを机に置く |
| 人 | 人数、距離、座り方が負担でないか | 小集団にする、距離を取る、見学席を作る |
| 休憩 | つらいときに休める場所や伝え方があるか | 休憩カード、静かな席、退出の合図を決める |
全部を一度に変える必要はありません。困りやすい場面を観察し、まず一つ試して、その後の様子を確かめます。
視覚的な刺激を調整する
今使う物だけを見えるようにする
机の上に複数の教材や玩具があると、次に触る物を選ぶだけでも負担になることがあります。今回使うカード、筆記具、タイマーなどに絞り、終わった物は箱へ入れます。
「片付いた部屋」を目指すのではなく、今必要な情報が見つけやすい状態を目指します。子どもが安心する物まで一律に取り上げる必要はありません。
座る場所・発表する場所を見える形にする
椅子の位置、マット、床のテープなどで場所を示すと、「どこにいればよいか」を言葉だけで説明せずに済みます。テープの円に必ず立たせるのではなく、本人にとってわかりやすい目印として使います。
複数名で行う場合も、全員を同じ並びに固定する必要はありません。互いの動きが気になりにくい距離、手本が見やすい向き、出入りしやすさを確認します。
窓や掲示物は「必要なら」調整する
窓の外が気になる場合は、席の向きを変える、カーテンを一部閉めるなどの方法があります。掲示物も、全面を常に隠すのではなく、活動中に注意を引く物があるかを見て調整します。
音の刺激を調整する
話を聞けないように見えても、周囲の話し声、空調、椅子を動かす音などが重なっている場合があります。
- 活動中は不要なBGMや動画音声を止める
- 廊下や機械から離れた席を選ぶ
- 一度に複数の大人が話さない
- 説明の前に、周囲が静まるのを待つ
- 本人が希望する場合は、イヤーマフ等を使えるようにする
国立特別支援教育総合研究所の「感覚過敏に対する指導・支援」は、感覚の感じ方には個人差があり、要因を確かめながら可能な範囲で刺激を避けることから始める考え方を示しています。
苦手な音へ慣れさせることを優先して、無理に刺激の中へ留めないようにします。イヤーマフなども、周囲が一方的に着けさせるのではなく、本人にとって助けになるかを確かめて使います。
「何を・どれだけ・終わったら何をするか」を示す
環境設定は、部屋の配置だけではありません。活動の流れをわかりやすくすることも含まれます。
例えば、次のように示します。
- 今日の練習は「会話カード」1種類
- 大人の見本を1回見る
- 子どもが2回試す
- 振り返りカードを選ぶ
- 終わったら休憩する
文字だけでなく、写真、絵、実物、チェック欄など、本人が理解しやすい方法を選びます。タイマーを使う場合も、音が負担でないか、残り時間の表示がわかりやすいかを確認します。
終わりが見えると取り組みやすくなる子もいますが、予定どおり進めることが目的ではありません。疲れや不安が強い場合は、途中で終える選択も残します。
落ち着ける場所は「罰の場所」にしない
教材では、トレーニングする場所とは別に、外部刺激が少なく、人の視線を気にせず落ち着ける空間を用意する考え方が紹介されています。
家庭で別室を用意できなければ、部屋の隅、パーテーション、本棚の向き、落ち着ける椅子などで空間を分ける方法があります。教室では、廊下側の席、空きスペース、相談室など、学校の状況に合わせます。
ここで大切なのは、落ち着く場所を「騒いだ人が行かされる場所」にしないことです。
- 本人が利用を選べる
- 休みたいことを伝える方法がある
- どのくらい休むかを相談できる
- 落ち着いた後に責められない
- 安全と見守りが確保される
落ち着く方法は、座ることだけとは限りません。水を飲む、少し体を動かす、好きな物を見るなど、本人に合う方法を一緒に探します。
家庭・教室・支援施設での工夫例
| 場所 | よくある状況 | 試せる工夫 |
|---|---|---|
| 家庭 | リビングでテレビや玩具が気になる | テレビを止め、使う物だけをトレーに置く。短時間で終える |
| 通常学級 | 掲示物や友だちの動きが多い | 席の向きや距離を調整し、手順を机上カードで示す |
| 小集団 | 他児の発言や順番待ちが負担 | 人数を減らす、待つ活動を短くする、見学の選択を作る |
| 個別支援 | 説明の途中で席を離れる | 説明を短くし、実演を増やす。休憩の合図を決める |
| オンライン | 画面内の情報や音が多い | 背景を簡素にし、通知音を切り、使う画面だけを表示する |
環境を変えたら、「前より座れたか」だけでなく、表情、本人の言葉、伝えやすさ、終わった後の疲れ方も確認します。
環境調整と課題の難易度を分けて考える
静かな場所にしても取り組みにくい場合は、課題自体が難しい、説明が長い、興味を持ちにくい、今は休息が必要といった可能性もあります。
反対に、活動内容が合っていても、環境が負担なら参加しにくくなります。「本人の力」か「環境」かの二択ではなく、両方を見直します。
SSTを嫌がる・続かないときの見直し方では難易度や声かけを、SST教材の選び方では目標と活動の対応を詳しく解説しています。
環境設定で避けたいこと
全員に同じ環境を当てはめる
「掲示物はすべて外す」「必ず一人で行う」といった一律の方法ではなく、本人が困っている刺激を確かめます。
支援機器を早く外すことを目標にする
予定表、カード、イヤーマフなどは、生活を支える道具として継続して使う場合があります。大人の合図を減らすことと、役立つ環境をなくすことは別です。
落ち着く場所へ強制的に隔離する
休憩場所は本人を排除するための場所ではありません。利用方法と戻り方を本人と確認し、安全に使えるようにします。
一度の結果で効果を決める
その日の体調や周囲の状況でも変わります。変更した点を短く記録し、複数の場面で様子を確かめます。
環境を変えた後に記録すること
「静かな場所にしたら集中できた」だけでなく、何を変え、どのような反応があったかを書きます。
- 変更前に困っていた場面
- 変えた刺激や配置
- 子どもの行動や言葉
- 大人が行った手助け
- 終了後の疲れや安心の様子
- 次に続けること、戻すこと
一度に複数を変えると、何が役立ったのかわかりにくくなります。安全上の問題がなければ、一つずつ試します。
まとめ|集中を求める前に、参加しやすい条件を整える
SSTの環境設定では、次の順で考えます。
- 視覚・音・人の動きなど、負担になりそうな刺激を確認する
- 何をする場所か、どこまで行うかをわかりやすくする
- 今使う教材だけを準備する
- 休憩や落ち着ける場所を選べるようにする
- 本人の反応を見て、環境を調整し直す
環境を整えることは、子どもを甘やかすことでも、すべての刺激を取り除くことでもありません。本人が活動に参加し、自分の力を使いやすくするための準備です。
一般社団法人人間力認定協会の「SSTスペシャリスト」では、30種類の実践ワークに加え、目標設定、活動の準備、環境調整、日常生活へのつなげ方を学べます。
参考資料
- 文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」
- 国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センター「感覚過敏に対する指導・支援」
- 国立特別支援教育総合研究所「発達障害のある子どもへの配慮」
- 一般社団法人人間力認定協会『SSTスペシャリスト公式テキスト』第2章「トレーニング時の環境設定(構造化)」
