親子・家庭でできるSST|無理なく続ける基本の進め方と実践例

「家庭でもSSTをやってみたいけれど、何から始めればよいのだろう」

「毎日の生活の中で、どこまで練習すればよいのか分からない」

「やってみても、子どもが嫌がったらどうすればよい?」

ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、学校や療育施設だけで行うものではありません。家庭でも、頼み方、断り方、会話の交代、困った時の伝え方など、生活に結び付いたスキルを練習できます。

ただし、家庭で行うSSTは、生活のすべてを「訓練」に変えることではありません。遊びや会話のたびに言い直しを求められると、子どもにとって家庭で過ごす時間そのものが負担になることもあります。

大切なのは、子どもが実際に困っている場面を一つ選び、取り組みやすい大きさに分けて、一緒に試してみることです。

この記事では、一般社団法人 人間力認定協会の『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』で扱っている考え方をもとに、

  • 家庭でSSTを行う前に確認したいこと
  • SSTの基本的な5つの流れ
  • 家庭で取り入れやすい練習例
  • 時間、環境、フィードバックの工夫
  • 嫌がる時やうまくいかない時の見直し方

について解説します。

SSTそのものの目的や基本を先に確認したい方は、ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?子ども向けの目的とやり方も参考にしてください。

SSTスペシャリスト公式サイトはこちら

家庭で行うSSTは「生活を採点すること」ではない

SSTは、社会生活や対人関係で使うスキルを、具体的な場面を想定しながら練習する方法です。

家庭では、例えば次のような場面を取り上げることができます。

  • 使いたい物がある時に「貸して」と伝える
  • 困った時に「手伝って」と知らせる
  • 自分の話が終わったら、相手の話を聞く
  • 誘いを断りたい時に、自分の意思を伝える
  • 気持ちが高ぶった時に、休みたいことを相談する

ここで目指すのは、「大人の言うとおりに振る舞えるようにすること」ではありません。子ども自身が、生活の中で使える伝え方や選択肢を増やしていくことです。

練習する目標も、「ちゃんと話す」「家族と仲良くする」のような大きな表現ではなく、どのような場面で、何をするのかが分かる形にします。

例えば、

「困った時に相談できるようになる」

ではなく、

「工作中に必要な物が見つからない時、近くの大人に知らせる」

とすると、練習する場面と行動が具体的になります。

始める前に確認したい3つのこと

1.その子の生活で役立つ目標か

大人ができるようになってほしいことと、子ども本人が困っていることは、いつも同じとは限りません。

目標を決める前に、

  • 本人はどの場面で困っているか
  • できるようになると、本人にどのような良さがあるか
  • 本人はどのような方法なら試してみたいか

を考えます。答えを言葉にするのが難しい場合は、実際の場面や選択肢を示しながら確認してもよいでしょう。

2.すでにできていることは何か

「助けを求められない」と見えても、大人が近づくと必要な物を見せられる、家族には身振りで伝えられる、といった姿があるかもしれません。

最初から一人で文章を言えることだけを成功にせず、今使えている方法を出発点にします。身振り、指さし、絵や文字など、本人にとって使いやすい伝え方も大切なコミュニケーションです。

3.どのような手助けがあれば取り組めるか

同じ課題でも、

  • 大人が手本を見せればできる
  • 最初の言葉を伝えると思い出せる
  • 絵や文字があると分かる
  • 相手が近くにいれば伝えられる

など、必要な手助けは異なります。

「一人でできたか」だけでなく、どのような手助けがあるとできたかを確かめると、次の練習を考えやすくなります。

家庭でSSTを進める5つの流れ

SSTの基本的な流れは、次の5段階で整理できます。

段階行うこと家庭での例
1.教示何を練習するか、短く説明する「困った時に『手伝って』と伝える練習をしよう」
2.モデリング大人が手本を見せる大人が困った役になり、「手伝ってください」と言う
3.リハーサル子どもが実際に試す大人と役割を決めて、伝える練習をする
4.フィードバックできたことと次の工夫を伝える「相手の近くで伝えられたね」
5.チャレンジ(般化)日常の場面で使ってみる実際に困った時、必要に応じて短い合図を出す

1.教示は短く、目的を一つにする

一度に、言葉、声の大きさ、姿勢、相手の見方まで直そうとすると、何を練習すればよいのか分かりにくくなります。

今回は「困ったことを伝える」、次は「相手の返事を待つ」というように、目的を絞ります。説明する時も、本人に伝わる言葉を選びましょう。

2.大人が先に手本を見せる

言葉だけで「やってみて」と求めるより、大人が実際に演じると、声をかける位置や言い方を確認できます。

良い例だけで分かりにくい場合は、本人の負担にならない範囲で二つの言い方を比べ、どちらが伝わりやすいか一緒に考える方法もあります。ただし、わざと強い言葉を向けて驚かせる必要はありません。

3.役割を決めて、短く試す

大人が「困っている人」、子どもが「助けを求める人」など、役割を明確にします。

最初は一言だけでも構いません。難しければ、大人と一緒に言う、カードを選ぶ、言葉の最初だけ示すなど、手助けを加えます。

4.フィードバックは具体的にする

「上手だったね」だけでなく、

「『手伝って』と伝えられたね」

「分からないままにせず、教えてくれたね」

と、実際にできたことを短く伝えます。

改善点がいくつも見えても、一度に全部を指摘する必要はありません。まず今回の目標に取り組んだことを認め、次に試すことを一つ選びます。

5.日常生活では必要な手助けを続ける

練習で言えたからといって、すぐに初めての相手や慌ただしい場面でも同じようにできるとは限りません。

実際の生活では、相手を探したり、声をかけるタイミングを判断したりする必要があります。困っている様子があれば、練習のために放置せず、必要な手助けをしましょう。

家庭で取り入れやすいSSTの例

話す人と聞く人を交代する

柔らかいボールやぬいぐるみを用意し、「持っている人が話す」と決めます。好きな食べ物や今日楽しかったことなど、話しやすいテーマから始めます。

最初は内容が完全につながらなくても、話す番と聞く番を交代できた経験を大切にします。慣れてから、「○○さんは?」など短い質問を加えることができます。

困った時の伝え方を練習する

「鉛筆が見つからない」「箱のふたが開かない」など、家庭で起こりやすい場面を想定します。

「手伝ってください」だけでなく、

  • 必要な物を指さす
  • 「これ」と伝える
  • 手伝ってほしいカードを見せる

といった方法も選べます。話す量ではなく、本人の伝えようとする行動を受け止めます。

誘い方・断り方を交代してみる

家族が「一緒に遊ぼう」と誘い、子どもが受ける役・断る役を試します。次は役割を交代します。

断る時は、相手に配慮した言い方を考えることもできますが、本人が嫌なことや危険を感じる誘いに、理由や代案を必ず付ける必要はありません。「いやです」「行きません」と伝え、大人へ助けを求めることも大切なスキルです。

時間と回数は子どもの様子に合わせる

『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』では、取り組みの目安として、週に1〜2回、1回10〜15分程度、1回に行うトレーニングは1〜2種類としています。

これは、すべての家庭・すべての子どもに当てはまる絶対的な基準ではありません。

5分で集中が切れる時には、5分で終えて構いません。反対に、本人が楽しんでいて続けたい時も、最初に伝えた区切りを大切にし、延長するか本人と相談します。

短い時間でも、

「今日は一回試せた」

「前より少ない手助けでできた」

という変化に目を向けましょう。

集中しやすい環境を整える

国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターも、本人が分かりやすく行動しやすい環境を整えることや、予定・手順を視覚的に示す工夫を紹介しています。

家庭では、大がかりな専用室を用意しなくても、次のような工夫ができます。

  • 今回使わない玩具や教材を視界から外す
  • 座る場所と使う物を先に決める
  • 「何をする・何回する・終わったら何をする」を伝える
  • 必要に応じて、絵や文字で順番を示す
  • 落ち着きたい時に休める場所を確認しておく

刺激の感じ方は一人ひとり異なります。物を減らせば必ず集中できると決めつけず、本人の反応を見ながら調整しましょう。

子どもが嫌がる時は、続け方を見直す合図

子どもがSSTを嫌がる時に、

「練習が足りないから、もっと繰り返そう」

と回数だけを増やすと、負担が大きくなることがあります。

まず、次の点を確認します。

  • 指摘や言い直しが多くなっていないか
  • 難易度が高すぎないか、簡単すぎないか
  • 疲れている時間帯ではないか
  • 何のための活動か本人に伝わっているか
  • 音や物、人の出入りなどが負担になっていないか
  • 大人自身が急いだり、強い口調になったりしていないか

嫌がる様子が強い時は、いったん中止して構いません。参加しないことを罰したり、日常の楽しみを取り上げたりするのではなく、落ち着いてから方法を考え直します。

詳しくは、SSTを嫌がる・続かないときは?難易度と声かけの見直し方でも解説しています。

家庭だけで抱え込まない

家庭での工夫だけでは考えにくい時や、本人のつらさが続いている時は、園・学校、療育機関、地域の相談窓口などへ相談しましょう。

共有する時には、

「全くできません」

だけでなく、

「夕方は難しかったが、朝は一度伝えると動けた」

「言葉だけでは難しかったが、写真を見せると選べた」

のように、場面と役立った手助けを具体的に伝えると、一緒に考えやすくなります。

まとめ|家庭のSSTは小さな一場面から始める

家庭でSSTを行う時は、特別な教材をたくさん用意することよりも、まず生活の中の一場面を具体的にすることが大切です。

  1. 本人が困っている場面を確認する
  2. 今できていることを見つける
  3. 練習することを一つに絞る
  4. 大人が手本を見せる
  5. 短く試し、できたことを具体的に伝える
  6. 日常では必要な手助けを続ける
  7. 本人の反応を見て方法を調整する

家庭でできることは多くありますが、生活のすべてを練習にする必要はありません。安心して過ごす時間や、ただ一緒に楽しむ時間も大切にしながら、無理なく続けられる方法を探していきましょう。

どの活動を選べばよいか迷う場合は、SST教材の選び方|子どもの困りごとに合う活動を選ぶポイントも参考になります。

一般社団法人 人間力認定協会の「SSTスペシャリスト」では、SSTの基礎、目標や環境の考え方に加え、家庭や療育・教育現場で活用できる30種類の実践ワークと実践動画を用意しています。

家庭での困りごとを、どのような練習に分ければよいか学びたい方は、講座内容も参考にしていただければと思います。

→ SSTスペシャリストの講座内容を詳しく見る

参考資料

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事 井上智之

執筆者

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事
井上 智之

【プロフィール】
一般社団法人 人間力認定協会 代表理事の井上 智之。30年にわたる教室運営を通して、多くの子ども・保護者・教育関係者と向き合う。比較や不安、教育現場の課題を目の当たりにし、一般社団法人 人間力認定協会を設立。現在は発達障害の療育・支援法の研究開発と情報発信に取り組み、「理解は支援の第一歩」を理念に、一人ひとりに合った支援と社会理解の普及を目指している。また、当協会では発達支援や心理に関する知識を体系的に学べる「児童発達支援士」「メンタルヘルス支援士」などの資格講座を提供しており、これまでに延べ5万名以上の方が受講している。

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