「声が大きいよ」
「もう少し静かに話そう」
「今は小さな声でね」
学校や療育施設、家庭などで、子どもにこのような声かけをすることがあります。
ところが、何度伝えても声の大きさがあまり変わらないことがあります。
このとき、
「注意を聞いていない」
「分かっているのに直さない」
と考える前に確認したいのが、そもそも「どのくらいの声にすればよいのか」が子どもに伝わっているかという点です。
「大きい」「小さい」「静かに」といった言葉は、意外と抽象的です。
そこでソーシャルスキルトレーニング(SST)では、声の大きさを目に見える形にしたり、具体的な場面と結びつけたりしながら練習することができます。
この記事では、一般社団法人人間力認定協会の『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』で扱っている「声のボリューム調整」のワークをもとに、声の大きさを練習するときの考え方や進め方について解説します。
「静かに」だけでは声の大きさが分かりにくいことがある
大人にとっては、
「教室だから少し小さな声」
「運動場だから大きな声でもよい」
という使い分けが自然に感じられるかもしれません。
しかし、こうした判断には、
- 今いる場所
- 周囲にいる人
- 相手との距離
- 何を伝えようとしているか
- その場で求められていること
など、さまざまな情報が関係しています。
つまり「適切な声の大きさ」は、いつでも一つに決まっているわけではありません。
国立障害者リハビリテーションセンターでも、発達障害のある人への支援では、曖昧な表現ではなく、短く具体的に伝えたり、必要に応じて視覚的な情報を用いたりする工夫が紹介されています。
声の大きさについても、
「静かにしよう」
だけで終わらせるのではなく、
「今はどのくらいの声を使う場面なのか」
を具体的に共有すると、分かりやすくなる場合があります。
>SSTスペシャリストとは?受講資格・学習内容・費用・試験の合格率とは【徹底解説】
声の大きさを「段階」にして見えるようにする
私たちのSSTスペシャリスト公式教材では、声の大きさを1〜5の段階に分けて考えるワークを紹介しています。
例えば、小さな声から大きな声までを段階として表し、
「このくらいが1」
「このくらいが3」
「このくらいが5」
というように、大人と子どもで実際に声を出しながら確認します。
重要なのは、「5段階を覚えること」そのものではありません。
目に見えない声量を、子どもと大人が共有できる形に置き換えることが目的です。
国立特別支援教育総合研究所の発達障害教育推進センターでも、声の大きさを絵や段階で確認できる「声のものさし」が紹介されています。声量の調節が難しい場合に、目で確認できるようにする考え方です。
声の大きさと場面を一緒に考える
声の段階を確認したら、次は場面と組み合わせます。
SSTスペシャリスト公式教材では、例えば次のような場面を扱っています。
| 場面の例 | 考えるポイント | 子どもへの問いかけ例 |
|---|---|---|
| 寝ている人が近くにいる | 相手への配慮が必要 | 「どのくらいの声がよさそう?」 |
| 授業中 | 周囲も活動している | 「先生に質問するときはどうかな?」 |
| バス・電車 | 周囲に多くの人がいる | 「隣の人と話すならどのくらい?」 |
| 友だちとの会話 | 相手との距離も関係する | 「近くにいる友だちには?」 |
| 発表 | 離れた相手にも届ける | 「後ろの人まで聞こえるには?」 |
| 運動会の応援 | 大きな声を使える場面 | 「応援するときはどうかな?」 |
| 助けを呼ぶ | 相手に確実に知らせる必要がある | 「困ったときは小さい声でいいかな?」 |
このように並べてみると、「大きな声=悪い」「小さな声=良い」ではないことが分かります。
必要なのは、場面に合わせて声の大きさを選ぶことです。
大きな声も必要なコミュニケーションです
声量について指導していると、
「大きな声を出さないようにすること」
が目標になってしまうことがあります。
しかし、これは本来の目的ではありません。
例えば、
- 危険を知らせる
- 助けを呼ぶ
- 離れている相手へ伝える
- スポーツの応援をする
- 大勢の前で発表する
といった場面では、大きな声が必要になることがあります。
したがって、
「声が大きいから小さくしよう」
ではなく、
「今の場面では、どのくらいの声が伝わりやすいかな?」
と考える方が、日常生活へつなげやすくなります。
SSTでの基本的な練習方法
声の大きさを練習する場合、次のような流れで進めることができます。
1.声の段階を一緒に確認する
まず、声の大きさにいくつか段階があることを伝えます。
必要に応じて数字、イラスト、図などを使います。
「1はこのくらい」
「3はこのくらい」
と、大人が実際に声を出してみると理解しやすくなることがあります。
2.大人の声を聞き比べる
次に、大人が異なる大きさで声を出します。
例えば同じ「こんにちは」でも、
小さく言う場合と、大きく言う場合を比べます。
そして、
「どちらが大きかった?」
「今の声はどのくらいかな?」
と一緒に考えます。
3.子どもも実際に試してみる
今度は子ども自身が声を出してみます。
最初から5段階すべてを使い分ける必要はありません。
例えば、
「小さい声」
「いつもの会話くらい」
「大きな声」
と少ない段階から始めてもよいでしょう。
4.場面と組み合わせる
慣れてきたら、
「図書館だったら?」
「運動会だったら?」
「友だちが隣にいたら?」
というように具体的な状況と結びつけます。
5.日常生活でも確認する
最後は実際の生活へつなげます。
学校であれば、
「今は発表だから、いつもより少し大きくしてみよう」
家庭であれば、
「赤ちゃんが寝ているから、今は小さい声にしよう」
といった形です。
>SSTの気持ち絵カードの使い方|相手の気持ちを考える問いかけ例
「声が大きい!」より、次にどうすればよいかを伝える
声量を調整するときには、声かけも重要です。
例えば、
「声が大きいよ!」
だけでは、本人は注意されたことは分かっても、次にどのくらいの声を出せばよいか分からない場合があります。
そこで、
「今は3くらいで話してみよう」
「隣にいるから、もう少し小さい声で大丈夫だよ」
「発表だから、後ろの人にも届く声にしてみよう」
というように、次に取る行動が分かる伝え方に変えます。
国立障害者リハビリテーションセンターでも、発達障害のある人への説明や指示について、曖昧な注意だけではなく「具体的にどのようにすればよいか」を伝えることが紹介されています。
子どもと大人で「ちょうどよい声」を比べてみる
SSTスペシャリスト公式教材では、大人が複数の声の大きさを実演し、
「どちらがこの場面に合いそう?」
と比較する方法も紹介しています。
例えば、
「電車の中で友だちと話します」
という場面を想定します。
大人がまず大きな声で、
「昨日のテレビ見た?」
と言います。
次に、少し小さな声で同じ言葉を言います。
そして、
「電車だったらどちらがよさそう?」
と考えてもらいます。
抽象的に、
「電車では静かにしましょう」
と説明するより、実際に比較することで分かりやすくなる子どももいます。
1〜5の数字は「正解」ではなく目安
ここで大切な注意点があります。
教材で使用している「1〜5」という段階は、騒音計のように声量を測定する尺度ではありません。
例えば、
「声3なら必ずこの大きさ」
という全国共通の基準があるわけではありません。
あくまでも、
「今の声より小さく」
「この場面ではこのくらい」
という感覚を、大人と子どもで共有しやすくするための目安です。
したがって、数字そのものを厳密に守らせることが目的にならないよう注意します。
子どもと一緒に基準を決める
「この場所では必ず2」
と大人がすべて決める必要もありません。
SSTスペシャリスト公式教材では、どの場面でどの程度の声を使うかを子どもと一緒に考える方法を紹介しています。
例えば、
「教室で隣の友だちと話すなら?」
「先生に発表するときなら?」
「外で遠くの友だちを呼ぶなら?」
と問いかけてみます。
本人が考えた声量と大人が考えた声量が違った場合にも、
「違う」
だけで終わらせず、
「このくらいだと周りの人にも全部聞こえるかもしれないね」
「この声だと後ろの人には聞こえにくそうだね」
と、理由を具体的に伝えます。
声の大きさだけでなく「環境」も確認する
声が大きくなっているとき、本人の声だけに注目しないことも大切です。
例えば、
- 周囲が非常に騒がしい
- 相手との距離が遠い
- 集団全体の声が大きい
- 本人が興奮している
- 周囲の音を聞き取りにくい
といった状況も考えられます。
特に感覚の受け取り方には個人差があります。
国立障害者リハビリテーションセンターでも、発達障害のある子どもには音などの感覚刺激に敏感な場合があり、刺激を減らしたり、本人が落ち着ける環境を整えたりする配慮が紹介されています。
そのため、
「声が大きいから本人だけを注意する」
のではなく、
「この環境ではどのくらいの声になりやすいだろう」
という視点も持っておきたいところです。
大きな声を無理に出させない
反対に、声が小さい子どもへ、
「もっと大きな声で!」
と繰り返すことにも注意が必要です。
例えば、人前で話すことに強い緊張がある場合や、声を出すこと自体に負担がある場合など、背景はさまざまです。
SSTで声量を扱う目的は、
「全員が同じ大きさで話せるようになること」ではありません。
本人が参加しやすい方法から始めます。
少人数で試したり、大人と一対一で練習したりすることも考えられます。
なお、SSTで扱う声量調整は、発声や構音など医学的・専門的な治療とは異なります。
声そのものについて専門的な支援が必要な場合は、SSTとは別に適切な専門職への相談が必要です。
>吃音の子どもへの支援:言語聴覚士が実践する科学的に効果があるアプローチと家庭での関わり方
「できた・できない」より使い分けを見る
声量のSSTを実施すると、
「今日は3の声が出せた」
ということに注目したくなります。
しかし、本当に見たいのは、数字どおりの声が出せたかではありません。
例えば、
- 隣の人と話すときには少し小さくできた
- 発表ではいつもより大きな声を試せた
- 声が大きくなったとき、図を見て自分で調整できた
- 大人の声かけがあれば切り替えられた
といった、場面に応じた調整を見ていきます。
一回のSSTでできたことが、そのまま日常生活でもできるとは限りません。
実際の教室や家庭でどのような場面なら使えているかを確認しながら、少しずつつなげていきます。
まとめ|「静かに」を具体的な練習に変える
声の大きさは目に見えません。
だからこそ、
「静かに」
「声が大きい」
「もっと小さく」
という言葉だけでは、どのように調整すればよいのか分かりにくいことがあります。
そこでSSTでは、
- 声の大きさを段階にする
- 大人が見本を示す
- 実際に声を出して比べる
- 場面と声量を結びつける
- 日常生活で使ってみる
というように、具体的な練習へ変えていくことができます。
そして大切なのは、
「大きな声は悪い、小さな声は良い」と教えることではありません。
友だちと話す声、授業中の声、発表するときの声、助けを呼ぶときの声。
場面によって必要な声の大きさは変わります。
その違いを子どもと一緒に考えながら、使い分けられる方法を探していくことがSSTにつながります。
私たち一般社団法人人間力認定協会の「SSTスペシャリスト」では、今回紹介した声のボリューム調整を含め、子どもへの支援で活用できる30種類の実践ワークと実践動画を用意しています。
「SSTを具体的にどのように進めればよいのか知りたい」
「日常の困りごとを、どのような練習に置き換えればよいのか学びたい」
という方は、SSTスペシャリストの講座内容も参考にしていただければと思います。
参考資料
- 国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センター「教材・教具 声のものさし」
- 国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センター 公開資料
- 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター「気づきのポイント」「支援方法の学習」
- 一般社団法人 人間力認定協会『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』
