SSTの気持ち絵カードの使い方|相手の気持ちを考える問いかけ例

「この顔は、どんな気持ちかな?」

子どもへのソーシャルスキルトレーニング(SST)では、表情が描かれた「気持ち絵カード」を使うことがあります。

うれしい、悲しい、怒っている、困っているなど、目に見えにくい「気持ち」を、イラストや写真を手がかりにして考えられることが、気持ち絵カードの分かりやすさの一つです。

一方で、使い方には注意も必要です。

例えば、子どもが大人の想定と違う答えをしたときに、

「違うよ。この顔は悲しい顔だよ」

と正解を教えるだけの活動になってしまうと、SSTで本来考えたいことから離れてしまう可能性があります。

人の表情や気持ちは、それほど単純ではありません。

同じ表情を見ても人によって受け取り方が違うことがありますし、写真やイラストだけで、実際の相手の気持ちを完全に知ることもできません。

大切なのは、「正しい感情を当てること」だけではなく、表情を手がかりにいくつかの可能性を考え、相手について知りたいときは実際のコミュニケーションにつなげていくことです。

この記事では、一般社団法人人間力認定協会の『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』で扱っている実践ワークをもとに、気持ち絵カードの使い方や問いかけ方、子どもの答えが想定と違った場合の対応について解説します。

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SSTで気持ち絵カードを使う目的

私たちは、会話をするときに言葉だけを手がかりにしているわけではありません。

相手の表情、声の調子、しぐさ、置かれている状況など、さまざまな情報から相手の状態を考えています。

一方、発達障害のある子どもの中には、こうした言葉以外の情報を読み取ることに難しさがある子もいます。

国立障害者リハビリテーションセンターでも、表情や声の調子など「ことば以外の状況から理解する力」が弱い子どもがいることを紹介しています。

そこで、表情をイラストや写真として目に見える形にし、

「この人はどんな気持ちかもしれない?」

と考える練習の一つとして、気持ち絵カードを利用できます。

ただし、カードの目的を、

「顔を見れば相手の気持ちが必ず分かるようになること」

と考えるのは適切ではありません。

カードはあくまでも、表情や感情について考えるための一つの教材です。

気持ち絵カードには2つの問いかけ方がある

SSTスペシャリスト-教材写真

人間力認定協会のSSTスペシャリスト公式教材では、気持ち絵カードを使った活動について、大きく2つの問いかけ方を紹介しています。

問いかけ方進め方の例練習する内容
表情から気持ちを考えるカードを見せて「どんな気持ちに見える?」と尋ねる表情を手がかりに感情を考える
気持ちから表情を選ぶ「うれしい気持ちのカードはどれかな?」と尋ねる感情と言葉・表情を結びつける

一見すると似ていますが、考える方向が異なります。

両方を使うことで、「顔を見て気持ちを考える」だけでなく、「この気持ちはどのような表情で表れることがあるか」という方向からも考えられます。

>絵カード(PECS/ペクス)を使ったコミュニケーション支援の基本|言葉が出ない子の心に寄り添う「伝わった!」の成功体験

使い方① 表情を見て「どんな気持ち?」と考える

最も分かりやすい使い方が、表情のカードを一枚見せて、

「この人は、どんな気持ちに見える?」

と尋ねる方法です。

例えば、口角が上がった笑顔のカードを見せたとします。

子どもが、

「うれしい」

と答えるかもしれません。

ここですぐ次のカードへ進むのではなく、

「どこを見て、そう思ったの?」

と聞いてみることもできます。

すると、

「笑っているから」
「口がニコッとしているから」

など、判断した手がかりが分かります。

SSTでは、正解・不正解だけではなく、子どもが何を手がかりに考えたのかを見ることも大切です。

使い方② 気持ちを伝えて「どのカード?」と選んでもらう

反対方向の活動もできます。

例えば複数のカードを並べて、

「『悲しい』気持ちに見えるカードはどれかな?」

と尋ねます。

子どもは、いくつかの表情の中から一枚を選びます。

あるいは、

「怒っているように見えるのはどれ?」
「楽しそうなのはどれ?」

といった聞き方もできます。

こちらは、感情を表す言葉と表情を関連づけて考える活動になります。

子どもによっては、

「悲しい」
「悔しい」
「困っている」

といった気持ちを表す言葉そのものが分かりにくい場合もあります。

その場合は、一度に多くの感情を扱わず、取り組みやすいところから始めます。

>SSTを嫌がる・続かないときは?難易度と声かけの見直し方

大切なのは「答えが違ったとき」

気持ち絵カードの活動で、特に大切なのがここです。

例えば、大人は「悲しい表情」だと思って用意したカードを見て、子どもが、

「怒っている」

と答えたとします。

このとき、

「違います。これは悲しいです」

とすぐに修正する必要はありません。

まず、

「怒っているように見えたんだね」

と受け止め、

「どのあたりを見てそう思った?」
「私は悲しそうにも見えたよ」

などと、違う見方について話してみます。

SSTスペシャリスト公式教材でも、子どもの解釈と大人の解釈が違った場合には、即座に否定するのではなく、大人の見方も示しながら話し合う方法を紹介しています。

>SST教材の選び方|子どもの困りごとに合う活動を選ぶポイント

表情には「100%の正解」があるとは限らない

人の表情は一人ひとり違います。

同じ「うれしい」という気持ちでも、大きく笑う人もいれば、少し口元が緩む程度の人もいます。

緊張しているときに笑う人もいます。

また、一枚の写真だけを見ても、

  • 直前に何があったのか
  • 誰と話しているのか
  • 本人が何を考えているのか

までは分かりません。

そのため、

「この顔なら必ずこの気持ち」

というルールを覚えるだけでは、実際のコミュニケーションには十分ではありません。

人間力認定協会の教材でも、100%の正解を目指すというより、さまざまな表情のパターンに触れていく考え方を紹介しています。

「相手の気持ち」と「自分だったらどう感じるか」は分けて考える

気持ちを考える活動では、

「こんなことを言われたら、どんな気持ち?」

という質問をすることもあります。

このとき注意したいのが、

自分の気持ちと、相手の気持ちは同じとは限らない

という点です。

例えば、

「休み時間に一人で過ごしている子がいます。どんな気持ちでしょう?」

という場面があったとします。

「寂しい」

と答える子もいるでしょう。

一方で、

「一人で遊びたいから楽しい」
「落ち着いている」
「分からない」

という答えも考えられます。

「一人でいる=寂しい」と決めることはできません。

そこで、

「自分だったらどう感じる?」
「この子はどうか分からないね」
「知りたかったら、どうしたらいいかな?」

と話を広げることができます。

本当の気持ちを知りたいなら、本人に聞くことも大切

表情を読み取ることは、コミュニケーションの手がかりの一つです。

しかし、相手の気持ちについて最も大切な情報を持っているのは、原則として本人です。

例えば友だちが少し険しい表情をしているとき、

「絶対に怒っている」

と決めつけるのではなく、

「何かあった?」
「大丈夫?」

と確認することも一つの方法です。

国立障害者リハビリテーションセンターでも、対人関係での支援例として、本人と相手それぞれの気持ちを言葉にして整理し、自分とは感じ方や考え方が違う場合があることに気づけるよう支援する方法を紹介しています。

気持ち絵カードは「相手を見抜く練習」ではなく、「相手について考え、必要ならコミュニケーションを取るための練習」

と捉えるとよいでしょう。

鏡を使って自分の表情を確認する方法もある

SSTスペシャリスト公式教材では、気持ち絵カードを見るだけでなく、鏡を使った活動も紹介しています。

例えば、

「うれしい顔をしてみよう」

と実際に表情を作り、自分の顔を鏡で見てみます。

大人も同じ表情を作ってみると、

「同じ『うれしい』でも顔が少し違うね」

ということに気づくことがあります。

さらに、支援者が表情を作り、

「どんな気持ちに見える?」

と子どもに考えてもらう方法もあります。

ただし、この活動でも、

「正しい笑顔を作る」

ことが目的ではありません。

人によって表情の出方には違いがあることを前提にして進めます。

「表情だけ」ではなく、場面も一緒に考える

気持ち絵カードに慣れてきたら、表情だけではなく状況を加えて考えることもできます。

例えば、同じ少し険しい表情でも、

場面A

楽しみにしていたゲームに負けた。

場面B

難しい問題を一生懸命考えている。

場面C

友だちから嫌なことを言われた。

では、考えられる気持ちが変わります。

このように、

「顔だけを見る」→「場面と一緒に考える」

へ広げることで、実際の日常生活に近づけることができます。

国立障害者リハビリテーションセンターでも、表情・しぐさだけでなく、その場の状況を理解することが難しい子どもがいることを示し、具体的な場面を使って気持ちや状況を言葉にして整理する支援例を紹介しています。

>小学生向けSSTの活動例|小集団での進め方と難易度の調整

子どもの答えを深める問いかけ例

気持ち絵カードでは、「何の気持ち?」だけで終わらせず、少しずつ質問を広げることができます。

例えば、次のような問いかけです。

表情について

「どんな気持ちに見える?」

「どこを見て、そう思った?」

「ほかの気持ちにも見えるかな?」

場面について

「この前に何があったと思う?」

「もし○○があった後だったら、どんな気持ちかな?」

自分との違いについて

「あなたならどんな気持ち?」

「この人も同じかな? 違うかもしれないかな?」

コミュニケーションにつなげる

「相手の気持ちが分からなかったら、どうしたらいいかな?」

「どんなふうに声をかけられそう?」

ただし、これらを一度の活動ですべて尋ねる必要はありません。

子どもの理解度に合わせて、少ない質問から始めます。

気持ち絵カードで避けたい使い方

気持ち絵カードを使う際には、次のような進め方になっていないか注意したいところです。

1.すべてを正解・不正解にする

典型的な表情について基本的な感情を学ぶことはできますが、実際の人の表情には幅があります。

大人の答えと違うからといって、すぐに間違いと決めないようにします。

2.表情だけで本心が分かると教える

「笑っている=必ず楽しい」とは限りません。

表情は手がかりの一つであり、状況や言葉など他の情報も必要です。

3.本人の気持ちを大人が決める

「あなたは悲しいんだね」

と決めつけるのではなく、

「悲しかった?」
「どんな気持ちだった?」

と本人へ確認することも大切です。

4.できるまで何度も同じ問題を繰り返す

間違いが続く場合には、

「もっと練習させる」

だけでなく、カードの難易度や質問の仕方が本人に合っているかを見直します。

日常生活では「カードのない場面」へつなげる

SSTでカードを正しく選べたとしても、それだけで日常のコミュニケーションが変わるとは限りません。

カードを使った練習に慣れてきたら、

「今日、友だちが笑っていたね」
「先生はどんな様子だった?」
「さっき○○と言われたとき、自分はどんな気持ちだった?」

など、実際の出来事について話すこともできます。

ただし、

「相手の気持ちを当ててみよう」

ではなく、

「どんな可能性があるだろう」
「分からないときはどうしよう」

という方向へつなげることがポイントです。

文部科学省の特別支援学校学習指導要領でも、自立活動の内容として「他者の意図や感情の理解に関すること」が位置づけられています。

まとめ|気持ち絵カードは「答えを覚える教材」ではない

気持ち絵カードは、目に見えにくい感情について、イラストや写真を手がかりに考えることができるSST教材の一つです。

基本的には、

  1. 表情を見て気持ちを考える
  2. 気持ちを聞いて対応する表情を選ぶ
  3. なぜそう考えたのか話す
  4. 他の見方について考える
  5. 実際の場面へつなげる

というように活動を広げることができます。

そして、最も大切なのは、

「この表情の正解はこれ」と覚えることだけを目的にしないことです。

同じ表情でも感じ方や受け取り方には違いがあります。

子どもと大人の答えが違ったときも、

「そう見えたんだね」
「私はこう見えたよ」
「どうして違うのかな?」

と話し合うこと自体が、大切な学びになります。

また、カードから考えられるのはあくまでも「こういう気持ちかもしれない」という可能性です。

実際の相手の気持ちを知りたいときには、相手の言葉を聞いたり、必要に応じて本人へ尋ねたりすることもコミュニケーションの一部です。

私たち一般社団法人人間力認定協会の「SSTスペシャリスト」では、この気持ち絵カードを使った活動を含め、子どもへの支援に活用できる30種類の実践ワークと実践動画を用意しています。

SSTの活動をただ実施するだけではなく、

「どのように問いかければよいのか」
「子どもの答えが想定と違ったらどうすればよいのか」

といった実践的な進め方を学びたい方は、SSTスペシャリストの講座内容も参考にしていただければと思います。

SSTスペシャリスト公式サイトはこちら

参考資料

  • 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター「気づきのポイント」
  • 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター「女子グループに入れない」
  • 文部科学省「特別支援学校小学部・中学部学習指導要領 第7章 自立活動」
  • 一般社団法人 人間力認定協会『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』
一般社団法人 人間力認定協会 代表理事 井上智之

執筆者

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事
井上 智之

【プロフィール】
一般社団法人 人間力認定協会 代表理事の井上 智之。30年にわたる教室運営を通して、多くの子ども・保護者・教育関係者と向き合う。比較や不安、教育現場の課題を目の当たりにし、一般社団法人 人間力認定協会を設立。現在は発達障害の療育・支援法の研究開発と情報発信に取り組み、「理解は支援の第一歩」を理念に、一人ひとりに合った支援と社会理解の普及を目指している。また、当協会では発達支援や心理に関する知識を体系的に学べる「児童発達支援士」「メンタルヘルス支援士」などの資格講座を提供しており、これまでに延べ5万名以上の方が受講している。

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