療育と家庭の連携|支援をつなぐ情報共有のポイント

「療育ではできていると言われたのに、家では難しい」

「家庭で困っていることが、支援者へうまく伝わらない」

「連絡帳には、何をどこまで書けばよいのだろう」

子どもが療育を利用していると、家庭と支援の場で見せる姿が違うことがあります。

しかし、人、場所、時間、活動、周囲の音、使える手助けが変われば、取り組みやすさも変わります。異なる姿が見えること自体が、その子に合う支援を考えるための大切な情報です。

この記事では、『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』と公的資料をもとに、具体的な情報共有、共通目標、本人の意向と個人情報を守るポイントを解説します。

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家庭と療育で姿が違うのは不自然なことではない

家庭と療育では、子どもを取り巻く条件が異なります。

  • 関わる人や場所
  • 活動の内容と難易度
  • 音、光、物の多さ
  • 予定や手順の示し方
  • 疲れ、空腹、睡眠などその日の状態
  • 利用できる道具やコミュニケーション手段

例えば、療育では物が整理され、予定が絵で示されていて取り組みやすい一方、家庭では夕方の疲れや周囲の音が影響することがあります。反対に、家庭では話せても、療育では緊張して言葉が出にくいこともあります。

国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターも、刺激や環境が異なるため、家庭と園・学童保育で子どもの様子が同じとは限らないと説明しています。

「どちらが本当の姿か」を決めるより、どの条件で取り組みやすく、どこで手助けが必要かを一緒に考えることが連携の出発点になります。

連携の目的は「すべて同じ対応にすること」ではない

療育と家庭が連携するというと、同じ言葉、同じ教材、同じ手順を使わなければならないと感じるかもしれません。

しかし、療育では小集団で練習できることも、家庭では生活の流れの中で行う必要があります。利用できる時間や人数、環境も異なります。

共有したいのは、

  • 本人が生活のどの場面で困っているか
  • 本人はどうなりたいと感じているか
  • 今回、何を目標にするか
  • どのような手助けが役立っているか
  • それぞれの場で無理なくできることは何か

です。

目標を共有しながら、方法はそれぞれの場に合わせて調整できます。

例えば、「困った時に相手へ知らせる」という目標があるとします。

療育では、支援者とのロールプレイで「手伝ってください」と練習できます。家庭では、最初は家族の近くへ必要な物を持って行く、カードを見せるなど、自然な生活の中で使える方法から始めることができます。

同じ言葉を完全に再現することより、本人が困ったままにならず、使える方法で伝えられることを大切にします。

「苦手です」ではなく、見た事実を共有する

「相談が苦手です」

「家では全くできません」

という表現でも、大まかな困りごとは伝わります。しかし、次の支援を考えるには、もう少し具体的な情報が必要です。

共有する時は、次の順序で整理します。

  1. いつ、どこで、何をしていたか
  2. 直前に何があったか
  3. 子どもは実際に何をしたか、何と言ったか
  4. 大人は何を伝え、どのような手助けをしたか
  5. その後どうなったか
  6. 本人はどう感じた、どうしたいと話しているか

例えば、片付けの場面なら次のように伝えられます。

評価だけの表現具体的な共有例
「家では片付けが全くできません」「平日の18時ごろ、机の上の3種類の道具を一度に片付けるよう伝えると、座ったままでした」
「指示を聞きません」「『まず色鉛筆を箱に入れよう』と一つ伝えると、色鉛筆は戻せました」
「すぐ癇癪になります」「ゲーム終了を予告せず伝えた時、泣いて端末を抱えました。5分前にタイマーを見せた日は、自分で保存して終えました」
「相談が苦手です」「必要な物がない時、その場で待っていました。支援者が近づくと、使いたい物を指さしました」

具体的に伝えると、「言葉を知らない」のか、「相手が離れていると声をかけにくい」のか、「一度に伝える量が多かった」のかを考えやすくなります。

一方で、この一例だけで原因を決めることはできません。別の日や別の場面も確認しながら、仮説として扱います。

困ったことだけでなく、できた条件も共有する

連絡帳や面談では、困った出来事が中心になりやすいものです。

しかし、支援を考える時には、できていた場面も重要です。

  • 誰と一緒なら取り組めたか
  • どのような言葉なら伝わったか
  • 写真、文字、手本のどれが役立ったか
  • どのくらいの量なら続けられたか
  • 本人が自分から使った方法は何か
  • どのような時に楽しそうだったか

例えば、

「家では言えませんでした」

だけでなく、

「言葉では言いませんでしたが、困った時に道具を持って近くまで来ました」

と共有します。

伝えようとした行動が分かれば、療育でも同じ強みを生かした手助けを考えられます。

子ども本人の言葉や希望を連携の中心に置く

大人同士の情報共有だけで、支援の目標を決めないことも大切です。

可能であれば、本人にも、

  • どの場面で困っているか
  • どの方法が分かりやすいか
  • 練習したいこと、したくないこと
  • 誰に、どのように助けてほしいか
  • 共有してよいこと、知られたくないこと

を確認します。

すぐに言葉で答えられない時は、選択肢、絵、表情カード、実際の場面などを使って確かめることもできます。「答えられない=希望がない」と決めないようにします。

文部科学省も、個別の教育支援計画を活用して関係機関と連携する際には、本人や保護者の意向を踏まえることを示しています。

練習中と日常生活での姿を分けて記録する

SSTの練習でできたことが、家庭でもすぐ同じようにできるとは限りません。

練習中は、

  • 始める合図がある
  • 大人が手本を見せる
  • 相手と役割が決まっている
  • 使う言葉が示されている

という条件があります。

日常生活では、自分で必要な場面に気づき、相手を見つけ、声をかけるタイミングを選ぶところから始まる場合があります。

そのため、

「療育では一人で言えた」

「家庭では家族が近くにいる時、短い合図があると言えた」

というように、場面と手助けを分けて記録します。

また、その日に使う場面がなければ、「できなかった」ではなく「機会がなかった」と記録します。

変化をSSTだけの効果と決めつけない

SSTを始めた後に、子どもの行動が変わって見えることがあります。

その変化は大切な情報ですが、観察だけで、SSTが唯一の原因だと断定することはできません。

子どもの姿には、

  • 年齢や経験の積み重ね
  • 人や場所への慣れ
  • 環境の調整
  • 大人の声かけや待ち方
  • 学校、医療、福祉など別の支援
  • 睡眠や体調
  • 本人が見つけた工夫

など、複数の要因が関係します。

共有する時は、

「SSTのおかげでできるようになった」

と結論づけるより、

「SSTで手本を見た後、療育では短い合図で言えた。家庭では、家族が近くにいる時に一度言えた」

と、行ったことと観察した変化を分けて書きます。

一度できたことを「身に付いた」と急いで判断せず、別の日、別の相手、別の場所での様子も見ていきましょう。

連絡帳や共有シートに書く項目

毎回長い文章を書く必要はありません。次の項目から、その日に必要なものを選びます。

項目記入例
日時・場面火曜日18時、自宅で工作をしていた時
今回見た行動のりがないまま紙を持って待っていた
本人の言葉・様子大人が近づくと紙を見せ、「これ」と言った
大人の手助け「のりが必要?」と確認し、のりを渡した
その後うなずき、工作を再開した
できていたこと必要な物を見せて伝えようとした
次に確かめたいこと大人が少し離れている時に使える合図を考える

共有項目を増やしすぎると続かなくなります。何を知りたいのかを支援者と相談し、一定期間ごとに項目を見直しましょう。

面談で確認したい質問

定期的な面談や支援会議では、次のような質問が役立ちます。

  • 今、共通して見ている目標は何ですか
  • どのような手助けがあるとできましたか
  • 本人は活動について何と話していますか
  • 家庭の生活に合わせて変えてよい部分はどこですか
  • 負担が強い時は、どのように中止・調整しますか

「家庭でも毎日同じ練習をしてください」と言われた場合も、生活の中で実行できる量か、本人が受け入れられる方法かを相談します。

SSTの活動は、名前や年齢だけで選ぶのではなく、本人が困っている場面と目標に合っているかを確認する必要があります。SST教材の選び方|子どもの困りごとに合う活動を選ぶポイントも参考にしてください。

個人情報とプライバシーを守る

連携では、子どもの行動、診断や受診、家庭の状況など、慎重に扱う必要がある情報を共有することがあります。

文部科学省は、個別の教育支援計画には個人情報が含まれるため、関係機関との情報共有に当たり、本人や保護者の同意が必要であると示しています。

実際の共有では、次の点を確認しましょう。

  • 誰と共有するのか
  • 何の目的で必要なのか
  • どの情報を共有するのか
  • どの方法で送るのか
  • どこに、いつまで保管するのか
  • 写真や動画を使う場合、別途同意が必要か
  • 本人へどのように説明するか

「支援に役立つかもしれない」という理由で、家族の事情や過去の出来事を際限なく共有する必要はありません。目的に必要な範囲へ絞ります。

私的なSNS、個人端末、他の保護者も参加するグループなどへ、許可なく記録や画像を送らないようにします。事業所や学校が定める安全な連絡方法を利用してください。

また、子ども本人が知られたくないと感じることにも配慮します。安全確保など共有が必要な場合には、なぜ必要なのか、誰へ伝えるのかを、本人に分かる形で説明します。

まとめ|評価ではなく、場面・行動・手助けを共有する

療育と家庭で子どもの姿が違う時は、どちらかが間違っていると考える必要はありません。異なる環境で見えた姿を持ち寄ることで、取り組みやすい条件を探せます。

連携では、評価ではなく場面・行動・手助けを伝え、できた条件も共有します。本人の希望を確かめ、共通の目標に向けて各場面に合う方法を相談しましょう。変化を一つの支援の効果と断定せず、同意を得た必要最小限の情報を安全に扱うことも大切です。

小さな変化と役立った手助けを具体的に伝え合い、家庭、療育、園・学校のそれぞれで続けられる方法を相談していきましょう。

一般社団法人 人間力認定協会の「SSTスペシャリスト」では、SSTの基礎、子どもの様子の観察、目標や環境の考え方、30種類の実践ワークと動画教材を扱っています。

SSTを共通言語の一つとして学ぶことはできますが、講座は個別の支援計画や関係機関の連携体制に代わるものではありません。実際の支援では、本人、家庭、利用している機関で相談しながら進めてください。

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参考資料

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事 井上智之

執筆者

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事
井上 智之

【プロフィール】
一般社団法人 人間力認定協会 代表理事の井上 智之。30年にわたる教室運営を通して、多くの子ども・保護者・教育関係者と向き合う。比較や不安、教育現場の課題を目の当たりにし、一般社団法人 人間力認定協会を設立。現在は発達障害の療育・支援法の研究開発と情報発信に取り組み、「理解は支援の第一歩」を理念に、一人ひとりに合った支援と社会理解の普及を目指している。また、当協会では発達支援や心理に関する知識を体系的に学べる「児童発達支援士」「メンタルヘルス支援士」などの資格講座を提供しており、これまでに延べ5万名以上の方が受講している。

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