片付けられない子への声かけ|『やる気がない』と決めつけない工夫

「片付けてと言っても、なかなか動かない」

「何度伝えても、遊んだ物がそのままになっている」

「最後は大きな声で叱ってしまい、親子ともに疲れてしまう」

家庭や園、学校では、片付けをめぐってこのような場面が起こることがあります。

大人から見ると、何をすればよいかは明らかに思えるかもしれません。そのため、動かない姿を見て、

「やる気がない」

「言うことを聞こうとしない」

と感じることもあるでしょう。

しかし、「片付けて」という短い言葉の中には、使った物を集める、種類を分ける、しまう場所を探す、元に戻す、といった複数の行動が含まれています。子どもは、最初の一歩や終わり方が分からず、動けないのかもしれません。

この記事では、一般社団法人 人間力認定協会の『SSTスペシャリスト公式テキスト 第2版』と公的資料をもとに、

  • 片付けを始められない背景の考え方
  • 伝わりやすい声かけの順序
  • 一度に一つ、具体的に伝える方法
  • 見通しと環境を整える工夫
  • できたことを具体的に認める方法
  • うまくいかない時や相談したい時の目安

を解説します。

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「片付けられない」という行動だけで理由を決めない

大人が「片付けてね」と伝えた後も、子どもが机や床を見たまま動かないとします。

この時、考えられる背景は一つではありません。

  • どの物から片付ければよいか分からない
  • 片付ける場所が分からない
  • まだ使っている途中で、続けたい
  • 声かけに気づいていない
  • 言葉は聞こえたが、何をするか理解できていない
  • 物が多く、全体を見るだけで負担になっている
  • 疲れや空腹、周囲の音などで取り組みにくい
  • 終わった後に何をするのか分からず、不安がある

これらはあくまでも可能性です。見ただけで原因を決めることはできません。

子どもに尋ねたり、いつもできている場面と比べたりしながら、どのような手助けが必要かを考えます。

「昨日はできたでしょう」と比較する前に、昨日と今日で違う条件がなかったか確かめてみましょう。

片付けの声かけは4つの順序で考える

声かけを考える時には、次の順序で整理すると分かりやすくなります。

  1. 大人が、何をしてほしいのか整理する
  2. 子どもに分かる言葉や方法で伝える
  3. 反応を待ち、必要な手助けを考える
  4. 取り組めたことを具体的に認める

これは、大人が子どもを思い通りに動かすための手順ではありません。子どもが内容を理解し、取り組むための手がかりを整えるものです。

「きれいに」より、最初の行動を具体的に伝える

「ちゃんと片付けて」

「きれいにして」

「いいかげんにしなさい」

このような言葉は、大人同士では意味が通じることがあります。しかし、子どもには、何を、どこへ、どの順番で動かせばよいのか分かりにくい場合があります。

まずは、最初にしてほしい行動を短く伝えます。

分かりにくい声かけ具体的な声かけの例
「ちゃんと片付けて」「色鉛筆を、この箱に入れよう」
「机をきれいにして」「机の紙を、青いかごに入れよう」
「全部元に戻して」「まずブロックを一つ、箱に入れよう」
「散らかさないで」「使い終わったカードを、ここに戻そう」

こども家庭庁の「体罰等によらない子育て」の資料でも、「ここでは歩いてね」のように、してほしいことを肯定文で具体的に伝える工夫や、大人が一緒に行って手本を示す方法が紹介されています。

「何をやめるか」だけではなく、代わりに何をすればよいかが分かる言葉を選びましょう。

一つ伝えたら、反応を待つ

片付けを急いでいると、

「早く片付けて。紙はそこ、鉛筆は箱、終わったら手を洗って」

と、一度に多くのことを伝えたくなります。

しかし、途中で分からなくなる子どももいます。まず「色鉛筆を箱に入れよう」と伝え、取り組めたことを確認してから、次の一つを伝えます。

声をかけた後は、子どもの反応を待ちます。

考えたり、周りを見たり、動き始めたりする前に、

「まだ?」

「早くして」

「何回言えば分かるの?」

と言葉を重ねると、最初の声かけを処理する時間がなくなることがあります。

何秒待てばよいかを一律に決める必要はありません。子どもが考えているのか、置き場所を探しているのか、別のことに気を取られているのかを見ながら調整します。

待っても動けない場合は、同じ言葉を大きな声で繰り返す前に、

「箱はどこか分かる?」

と尋ねたり、箱を指さしたり、近くへ持ってきたりしてみます。

片付けの「始まり」と「終わり」を見えるようにする

片付ける量や終わりが分からないと、取り組み始めにくいことがあります。

活動の前後に、次の四つを確認してみましょう。

  1. 何をするのか
  2. どれくらい取り組むのか
  3. 何をもって終わりとするのか
  4. 終わった後は何をするのか

例えば、

「まず、机の上の色鉛筆をこの箱に入れよう。全部入ったら箱を棚に戻して、手を洗おう」

と伝えます。

「全部きれいになるまで」ではなく、対象と終わりを具体的にするのがポイントです。

言葉だけでは覚えにくい場合は、

  • 片付ける物の写真を順番に並べる
  • 箱に中身の写真や文字を付ける
  • 「片付け→手洗い→おやつ」の予定を示す
  • 終わった物のカードを裏返す

といった方法も考えられます。

国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターも、予定や手順を目で見て分かる形にすること、事前に予告して見通しを持てるようにすることを紹介しています。

ただし、写真やカードを増やせば必ず分かりやすくなるわけではありません。本人が必要な情報を見つけられる量にします。

片付けを小さな段階に分ける

「使った道具を自分で片付ける」という目標には、いくつもの行動が含まれています。

  • 使った物に気づく
  • 物を集める
  • 種類を分ける
  • しまう場所を確認する
  • 箱や棚へ戻す

一度に全部を行うのが難しい時は、スモールステップで考えます。

例えば、次のような段階です。

  1. 大人が箱を用意し、子どもが色鉛筆を一本入れる
  2. 大人と一緒に、残りの色鉛筆も入れる
  3. 置き場所を確認し、箱を棚へ戻す
  4. 慣れてきたら、ほかの道具でも試す

これは固定された順番ではありません。初めから3までできる子もいれば、箱を見つける練習から始める子もいます。

途中で難しくなったら、段階を小さく戻して構いません。戻ることは失敗ではなく、取り組みやすい大きさへ調整することです。

>受講者に聞いた「子どもの困ったを解決した成功エピソード」

「一緒にやる」と「全部代わりにする」を分ける

片付けられない時に、大人がすべて代わりに行えば早く終わります。一方、「自分でやらなければ意味がない」と、分からず困っている子どもをそのままにすることも避けたいものです。

最初は、

「一緒に一本入れてみよう」

「箱はここだよ」

「赤い物から集めようか」

と手本や手がかりを示します。

その後、子どもの様子を見ながら、大人が一緒に動かす範囲を少しずつ調整します。

ただし、予定表や箱のラベルなど、使い続けることで生活しやすくなる環境まで、急いでなくす必要はありません。大人の声かけを減らすことと、本人が使える環境を取り上げることは別です。

片付けられた後は、具体的に認める

片付けが終わったら、結果だけでなく、途中の行動にも目を向けます。

例えば、

  • 「色鉛筆を箱に入れられたね」
  • 「分からない場所を聞いてくれたね」
  • 「一緒に始めたら、最後の二つは自分で戻せたね」
  • 「本を運んでくれて助かったよ。ありがとう」

と伝えることができます。

「すごいね」と喜ぶこともよいのですが、何に気づいたのかを具体的にすると、子ども自身も取り組めたことを理解しやすくなります。

また、

「片付けられたね。でも、どうしていつもできないの?」

と、承認の直後に過去の注意を加えないようにします。その場でできたことは、それ自体を認めます。ほかに伝えたいことがある場合は、内容とタイミングを分けて考えましょう。

>療育に役立つ「発達障害に関する調査報告書」について

子どもがまだ遊びたい時は、気持ちも確認する

片付けない理由が、「まだ遊びたい」こともあります。

その時に、片付け方だけを繰り返すと、子どもの気持ちとすれ違うかもしれません。

「まだ作っている途中だったんだね」

と受け止めたうえで、

「このまま残しておく場所を決める?」

「写真を撮ってから片付ける?」

「あと一回積んだら終わりにする?」

など、状況に応じて相談します。

避けたい声かけ

次のような言葉は、片付け方の情報を増やさず、子どもや大人の負担を大きくすることがあります。

  • 「何回言えば分かるの」
  • 「どうしてこんなこともできないの」
  • 「○○ちゃんはできるのに」
  • 「片付けないなら全部捨てるよ」
  • 「早く」「ちゃんと」だけを繰り返す

強く言ってしまった時は、大人も伝え直すことができます。

「さっきは大きな声で言ってしまったね。ごめんね。伝えたかったのは、色鉛筆を箱に入れてほしいということだよ」

と、必要な内容を短く伝え直します。

うまくいかない時に見直すポイント

何度か試しても取り組みにくい時は、叱る強さや練習回数を増やす前に、次を確認します。

  • 指示は一度に一つだったか
  • 何をどこへ戻すか明確だったか
  • 片付ける量が多すぎなかったか
  • 箱や棚の位置が本人に分かりやすかったか
  • まだ使いたい物がなかったか
  • 疲れ、空腹、音、光などの負担がなかったか
  • 大人が十分に待てていたか
  • どのような手助けがあるとできたか

子どもが強く嫌がる、片付け以外の生活場面でも困りごとが続く、感覚の負担や強い不安が考えられる、安全を保つのが難しい、といった場合は、園・学校、療育機関、医療機関、地域の相談窓口などへ相談してください。

SSTへの参加そのものを嫌がる場合の見直し方は、SSTを嫌がる・続かないときは?難易度と声かけの見直し方でも紹介しています。

まとめ|最初の一つを具体的に伝える

子どもが片付けを始められない時には、「やる気がない」と決めつける前に、何が分かりにくいのかを確認します。

  1. 片付けにくい背景を考える
  2. 最初にする行動を一つ、具体的に伝える
  3. 反応を待つ
  4. 必要なら指さし、手本、一緒に行うなどの手助けを加える
  5. 始まりと終わりを分かりやすくする
  6. 課題を小さな段階に分ける
  7. 取り組めたことを具体的に認める

片付けは、一言の指示で終わる単純な行動に見えて、実際には多くの手順を含んでいます。今の子どもに分かる大きさへ分け、使いやすい環境を整えながら、できた一歩を一緒に確認していきましょう。

SSTでは、日常の大きな困りごとを具体的な行動へ分け、大人が手本を示しながら練習する方法を考えます。SSTの基本から知りたい方は、ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?子ども向けの目的とやり方も参考にしてください。

一般社団法人 人間力認定協会の「SSTスペシャリスト」では、子どもへの伝わりやすいかかわりや環境設定、30種類の実践ワークと実践動画を通して、SSTの具体的な進め方を学べます。

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参考資料

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事 井上智之

執筆者

一般社団法人 人間力認定協会 代表理事
井上 智之

【プロフィール】
一般社団法人 人間力認定協会 代表理事の井上 智之。30年にわたる教室運営を通して、多くの子ども・保護者・教育関係者と向き合う。比較や不安、教育現場の課題を目の当たりにし、一般社団法人 人間力認定協会を設立。現在は発達障害の療育・支援法の研究開発と情報発信に取り組み、「理解は支援の第一歩」を理念に、一人ひとりに合った支援と社会理解の普及を目指している。また、当協会では発達支援や心理に関する知識を体系的に学べる「児童発達支援士」「メンタルヘルス支援士」などの資格講座を提供しており、これまでに延べ5万名以上の方が受講している。

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